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亀更新で二次創作やおいを徒然なるままに書き散らすブログです。ジャンルは様々気が乗った時に色々と。基本は主人公受け強気受け兄貴受け年下攻めで。でもマイナー志向もあり。
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> やっと見つけました...さん
おお行方知れずで申し訳ありません。
ゼオライマーの続きを待っていてくださってるとか、遅くなってすいません。
今月中には続き書けると思いますので、もうしばらくお待ちください。

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「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 耳障りな悲鳴を上げながら、異形の怪物が消えていく。
 リアルに血飛沫が出ていたが、データに過ぎないそれは、一瞬のうちに消去された。


「影王、こいつなんて名前だっけ?」


 マダラが尋ねたので、影王は一瞥すると雑魚だと答えた。
 えーっとマダラが不満そうな顔をしたが、モンスターの種類は多いし、倒した数も数えきれない。いちいち覚えていられないし、知っていても教える手間が面倒だ。だから影王はモンスターについて聞かれたら、雑魚だと答えるようにしている。
 マダラもそれを知っているから、本気で機嫌を損ねたわけではない。
 アガルタの戦闘エリアは、荒野であることが多いが、珍しくここは沼の様相を呈していた。
 ただの沼ではなく、HPを削る毒の沼だ。
 属性は反対だが、戦士ランクの二人には、本来毒への耐性はない。
 しかし、アイテムによって効果を打ち消すことはできる。
 毒沼に現れるモンスターは、毒消しの効果を持つアイテムを持っていることが多いので、それが目当てでマダラと影王もここに来たわけだが、アイテムはすでに限度数まで持っているので、単なる暇つぶしなのかもしれないと影王は思った。
 アガルタは自由なゲームだ。
 どんなプレイをしようとプレイヤーの自由であり、それには自己責任が伴う。
 ひたすらモンスターを狩って、アイテムを増やすというやり方にも、幾分飽きが来ているのも確かだが、二人で戦闘している時が一番楽しくもあると影王は思う。
 マダラもそうだろうか。
 聞いたことはないが、影王が感じるようには、マダラは戦闘を楽しんではいない気がする。
 影王だって、戦闘自体が楽しいわけではない。
 マダラと二人で邪魔されない空間なら、なんでも楽しいと思う。
 アガルタで最初に選んだのが、モンスターとの戦闘で、二人で力を合わせて戦うという状況が嬉しくて、それを繰り返しているのかもしれない。


「そろそろ壁に向かわないか?」


「もうそんな時間か。いいだろう付き合ってやる」


「その言い方なんとかならないのかよ」


「そっちこそいい加減慣れたらどうだ」


 双子の兄と弟なんだしな。
 そう言うと、影王は一足先にアガルタの市街の中心に立つ城を囲む絶対障壁へと飛んだ。




 白音のアガルタでの名前はマダラだ。
 双子の兄黒音の名前が影王マダラ。普段は影王と呼んでいる。
 マダラという名前には意味がある。
 顔も覚えていない母親が、二人をまとめて私のマダラと呼んでいたと幼いころに聞いた記憶が残っていたらから、黒音と相談してそうつけた。
 アガルタというゲームをプレイした理由は、金剛宗の巫女だったという母親の姿を追い求めたからだ。
 少なくとも、白音はそうだった。
 あまり知られていないが、アガルタの設定のほとんどは金剛宗の教えをもとにしているらしい。
 ゲーム自体には宗教色はないし、参加したからといって布教されるということもないのだが、教えを知っていると有利なこともある。
 マダラ――摩陀羅とは、金剛宗における最高神の名であり、おそらくはアガルタの真王の名なのだろう。
 それを知ったのはゲームをはじめた後だった。
 最初から知っていたらこの名をつけたかどうかは自分でもよくわからない。
 それを知ってから気になったのは、マダラという名が禁止ワードになっていなかったことだ。
 金剛宗にとってマダラは特別な名前だ。
 規制が入って当然なのに、マダラという名前はすんなり許可された。
 しかしマダラが真王の名だとゲーム内で広まるのはすぐだった。
 名前について聞かれるのが煩わしくて、マダラは影王以外とパーティーを組んだことはない。
 戦闘エリアを主体に活動する二人は今では噂になっている。
 BBSには二人の発見報告が載っているらしいが、マダラはあまり気にしていない。
 最初の頃は因縁をつけられることも多かったが、今ではみんな遠巻きに見るだけで、声をかけてくるプレイヤーはほとんどいない。
 影王が何かしたらしいというのは薄々気がついているが、怖くて詳しいことは聞き出せなかった。
 白音とマダラの性格に差はあまりないが、黒音と影王では、影王のほうがより過激で冷徹だ。
 ロールプレイに徹しているのかもしれないが、そこまで人格を変えて疲れたり混乱したりしないのかと思う。
 白音にとって黒音は兄だが、マダラにとって影王は、頼りにはなるが扱いに困る仲間といったところか。
 黒音は何を考えてアガルタにいるのかなと思う。
 何度も考えてことだが、実際に確かめたことはない。
 白音につきあって、という以上には熱心だったはずだ。
 母親の事を、互いにあまり話したことがない。
 だから黒音が母をどう思っているのか白音は知らない。


「はじめてから2年も経つのに、城の周囲には入れないってのはどういうことなんだろうな」


「条件が整っていないということだろうが、レベルを上げればいいというわけではないことはわかった」


 マダラたちが戦闘エリアで戦闘に勤しんでいたのは、レベルを上げれば絶対障壁を抜けられるか試していたからだ。
 まあもちろん戦闘で手に入るお金をアイテムを収集するためでもあった。
 アイテムによってはカンストしているのもあるし、お金に関しては家が3つ買えるぐらい集めたが、上限がどれほどなのかまだわからない。

 
「やっぱり他のクラスのプレイヤーとパーティーを組んでみるべきかも」


「気は進まないが、それ以外にやることもないだろう。問題は、どのクラスと組むかだ」


「だよなぁ」


 アガルタのクラスは多彩だ。
 多数ある職業のうち、どのクラスと組むかは重要な問題だ。
 しかも二人は互い意外とパーティーを組んだことがない。


「巫女と組めたら最高なんだけど、滅多にいないし、争奪戦が凄そうだ」


「欲しければ奪えばいい」


「ちょっ、まてまてまて! なんでそんなに好戦的なんだよ。まあ多少の争いは避けて通れないけど、まずは話そうぜ」


「巫女の二人組なら何度か見たことがあるな」


 唐突に影王が呟いた。


「あれ? 最近守護者を連れて、狩りをしまっくてるって噂の? 俺見たことないぞ」


「時々絶対障壁のそばにいた。遠目に見ただけだが、クラスは巫女だった。その時は守護者を連れていなかった」


 マダラはその巫女に強烈に惹きつかれるものがあったが、守護者もちのプレイヤーがパーティーを組むだろうかと思った。
 でもまずは交渉だ。
 電脳天使という存在にも興味がある。


「戦闘エリア巡ってたら会えるかな?」


「まだ狩りを続けてるなら可能性は高いな」


「じゃ、早速探しに行こうぜ」


「了解」


 久しぶりにわくわくした。




「ちょっと、ちゃんとヒミカをフォローしなさいよ!」


「してるっつーの! キリンこそ、あんまり前にでるんじゃねーよ! 夏鳳須!」


「わかっている」


「お兄ちゃん、やっちゃえー!」



 自分たちよりずいぶんレベルが高いエリアで、モンスターに囲まれてしまったキリンは、状況判断の甘さに歯噛みした。
 溶岩台地はただでさえHPを削る。
 電脳世界では強力な力を持つ守護者だが、ゲーム内ではその特殊能力のほとんどが制限される。
 最近狩りが順調だったために、気を抜いていた。
 夏鳳須と聖神邪は確かに強い。
 だが、低レベル巫女のキリンとヒミカを庇いながらでは、その実力の半分も発揮できていない。
 デスペナルティを考えると、全滅は避けたいが、どうすればいいのか。
 せめてこの囲みを突破できれば、撤退もできるのに。


「キリン!」


「きゃぁぁぁぁ!!!」


 トカゲ型のモンスターが大斧を振りかざしてキリンを攻撃しようとしているのを、夏鳳須が庇った。


「夏鳳須!」


「下がれキリン!」


 もうもたないと思った時、モンスターの首があっけなく転がる。


「え?」


 何が起こったのかわからなかった。
 目の前に、懐かしい気がする少年が笑っている。


「あんたが巫女?」


「マダラ……?」





 巫女と戦士の出会いは、物語の真の始まりを告げようとしていた。


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二人の電脳天使は、睨むように対峙して、互いにふいと視線を外した。
 金と銀で赤と青、対として作られた存在が、お互いを無視しあうが、それは相手のことを意識してい
ることを表している。


「相性悪いのかしら」


「えーそんなことないよ。卵の時、かなりシンクロ率高かったもん。外見も能力も互いに補い合うよう
に調整したし。まだ慣れてないんだよ。きっと」


 3Dゴーグルで画面をみながら、麒麟はヒミカの声を聞いていた。
 画面内の仮想空間は、麒麟とヒミカが共同で買ったプライベートスペースだ。
 チェーンと呼ばれる無料通信では、通話にも好きなアバターを使うことができるので、麒麟もヒミカ
もアガルタでの姿そのままだった。
 フルダイブしているわけではないから、画面の端にヒミカが映っているのが見える。
 仮想空間で生まれたばかりの電脳天使は、赤髪の方を聖神邪、銀髪のほうを夏鳳須と名付けた。
 ヒミカが主張する対の名は、マダラの守護者である二天童子という。


「ねえねえ聖神邪。おにいちゃんって呼んでいい?」


「は? ヒミカ何言ってるのよ」


 電脳天使はサイバースペースでのパートナーだ。だが、それを擬似的にとはいえ、兄と呼ぶのは行き
過ぎな気がする麒麟が眉をひそめると、画面の中の少女はにっこりと笑って、最初からそう決めてたん
だものと呟いた。


『もちろん俺はかまわないぜ。今日からヒミカは俺のマスターで妹だ』


「やったね! よろしく、おにいちゃん!」


 喜び合う主と従者の前で、居た堪れなくなった麒麟は、自分の守護戦士を見つめた。


『なんだ? キリン?』


 不審に思ったのか、夏鳳須が尋ねてくる。
 憮然として偉そうな態度を見て、麒麟は少しおかしくなった。


「なんだか、夏鳳須って王様みたいね」


 無表情に麒麟を見つめ返しながら、夏鳳須は口の先で笑った。


『俺は俺だけの王だからな』


「え?」


 電脳天使は自由意志に近いものをもつ。それは知っている。だが、今孵化したばかりの人工知性体の
言う台詞だろうか。これが?
 麒麟が戸惑っていると、聖神邪が夏鳳須の頭を後ろから小突いて笑い声を上げたが、その場で反撃さ
れて火花のようなものが散ってうずくまった。


『あっっぶねぇぇだろぉぉぉ! いきなりデーター置換とか、バグったらどうしてくれんだよ!?』


『そのぐらい防御しろ。できないなら消えろ』


「データー置換? 夏鳳須それ標準装備なの?」


 他者が作成したプログラムをデーター置換するのは犯罪だ。麒麟は法律を順守することにこだわりは
ないが、自分の意図しないところで犯罪行為をされるのは困るどころの話ではない。
 だいたい自分はそんなプログラムは組んでいない。ということは、卵の時から持っていた特性だとい
うことになる。


『俺も装備してるぜ』


「え、おにいちゃん、データー置換使えるの? すごーい!」


 聖神邪の言葉を聞いて、無邪気にヒミカが喜んでいる。
 しかし麒麟は慌てて言った。


「ちょ、ちょっと待って、電脳天使って皆データー置換初期から装備しているものなの? だって違法
なんでしょう?」


『全員が使えるというわけではないが、高レベルになると使えて当たり前だな』


『そうそう。守護者もちは秘密にしてるから広まらねーんだけど、電脳天使の最大の特性は他者のデー
ターを書き換えることができることにあるからな。もちろん能力の大きさに比例して防御の方も強くな
るんだよ。使えないものの方が珍しいんだけど、使い道は色々あるから、実際犯罪行為をしている連中
も少なくない。それに対抗できるのも電脳天使だけってことで、守護者には厳しい監視がつくな。もち
ろん当局に発見されればの話だけどよ』


 守護者とは、電脳天使の俗称だ。
 だいたいのことはわかったが、気になる点もある。


「あなたたち、孵化したばかりなのに、主が知らないことを、なんでそんなに詳しいの?」


 当然の疑問を口にすると、ヒミカが笑いながら答えた。


「当たり前だよぉ。卵はネットに常時繋いであるんだもん。得られる情報はリアルタイムで、人間が手
に入れられるレベルを遙に超えてるんだよ。むしろ知らないことのほうが珍しいんじゃないかな?」


「孵化する前に意識があるの?」


 子供の頃に卵を手にれた麒麟だったが、電脳天使の情報には明るくなかったので、ヒミカの言葉に素
直に驚く。
 卵は孵化した時、まっさらな状態だと思っていた。


『意識と呼べるような明確なものじゃねーけどな』


『知らないことのほうが珍しいというのは少し違う。瞬時と言ってもいいタイミングでネットから必要
な情報を選択しているだけだ。俺たち自身に蓄積できるデーターには限りがある』


『ただ自分の性能については基礎知識があるからな。データー置換に関しては明らかにされていないけ
ど知ってて当たり前の知識なんだよ』


 犯罪行為が標準装備だなんて、なぜ電脳天使が規制されないのか不審に思う。


『規制なら暗黒期と呼ばれた時代にされまくったさ。電脳空間へのフルダイブが広まったばかりの頃だ
。天使狩りとか呼ばれて、データーが消去された。マスターへの処罰も重かったし、死刑になったやつ
もいるぜ』


「死刑!? 私そんなこと習ったこと無いわよ!」


「噂では聞いたことあったけど、本当なんだ? おにいちゃんが言うなら本当なんだろうけど、電脳暗
黒期って、政治情勢が混迷を極めたっていうだけしか教えてもらえないんだよね。ネットに繋げても得
られる情報ってあんまりないし、無責任な噂がひとり歩きしてるから、何が本当なのかまったくわから
ないんだよね。守護者持ちだけが真実に辿り着けるって噂もあるけど、肝心の守護者持ちは情報をほと
んど外に漏らさないし」


『電脳天使にしかアクセスできない情報があるしな』


「夏鳳須、あなたはなぜ私の所にきたの?」


 規制されたと言いながら、今では彼らは生活の一部になっている。
 もちろん絶対数は少なく、守護者と呼ばれるランクの上級天使も限られている。
 だが、麒麟は夏鳳須を手に入れたのは、ただの偶然で、特別な何かをしたわけはない。
 実際に孵化した自分の天使を見ていると、麒麟が思っていた電脳世界へのパートナーという認識は表
面的なものでしかないことがわかる。
 電脳天使がそんなにも貴重で危険なものであるなら、麒麟とヒミカの所に彼らがきたのも何かの意図
があったからではないのか。


『電脳天使の主になれる人間は決まっている』


 夏鳳須は、整った表情を変えずに言った。


「資格は何?」


『霊力を持つものであることだ』


「霊力?」


 それは金剛宗の教えではなかったか。
 同時に『アガルタ』のPCの基本ステータスでもあることを、今の麒麟は知っている。
 でもそれは……。


「誰でも持っているものじゃないの?」


「やだキリンちゃん。知らないのー? 霊力が得られるのは、かなりレベルを上げないとダメなんだよ
ぉ。巫女は霊力高いけど、どんなステータス上げれば巫女になれるのかはまだ攻略されてないしね」


「それはゲームの中のことでしょ。私が言ってるのは……」


 そう言いかけて、麒麟は気がついた。
 金剛宗の教えなど、ヒミカは知らないのだ。
 大規模な宗派とは言え、閉鎖的な金剛宗の教えなど、一般人のヒミカが知っているはずもない。
 だからこそ、『アガルタ』は金剛宗の関係者によるものではないかと推測されるが、それも麒麟の想
像に過ぎない。


『霊力は修行次第で誰でも持てる可能性はあるけどよ。高位に上がれるのは一握りしかいないぜ。そし
て選ばれたものには、俺たちにはわかるはっきりとした印があるからな』


『年齢にも性別にも左右されない。それが霊格だ』


 つまり、その格の高さによって、持てる電脳天使の格も上がるというわけか。
 金剛宗の教えと、今聞いた知識はかなりの部分で符合する。
 では、摩陀羅とはなんだろう。
 最高の霊性。
 神の中の神。
 おそらくはアガルタの真王であるマダラの存在が意味するものはなんだ。


「摩陀羅を知ってる?」


『複数の意味があるな』


『どんな摩陀羅が知りたいかによるね』


「おにいちゃん。あたしマダラのお嫁さんになるにはどうしたらいいか知りたいな」


「ちょ、ヒミカ」


 意図しないことを口にされて、麒麟は慌てた。


「いいじゃん少しぐらい聞いても。あ、キリンにも教えてあげていいよ。勝負はフェアにね」


「そういうことじゃないわよ」


『やめとけやめとけ。真王の嫁なんて、ろくなことねーぞ』


 しばしの沈黙の後、目が座った聖神邪が、低い声で言った。


「え、おにいちゃん、ヤキモチ?」


『誰もそんなことは言ってね-よ!』


「あ、図星だね。大丈夫。おにいちゃんのことも大好きだから!」


 ヒミカと聖神邪の掛け合いに毒気を抜かれて、麒麟は摩陀羅について聞けなくなった。
 溜息をつくと、微かな夏鳳須の声が聞こえた。


『摩陀羅とは、約束の名だ』


「夏鳳須?」


 それ以上は黙ったまま、画面の中の夏鳳須は目を閉じた。
 摩陀羅とはなんなのか、謎がさらに深まってしまった気がして、麒麟はもうひとつ溜息をついた。




 摩陀羅に会いたい。
 この気持はどこからくるのか。
 麒麟はまだ何も知らなかった。


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俺は必ずお前に出会うだろう――それがどんなに遠い未来でも。






 夢を見た。


 白音が瞬きすると、涙が頬を伝ってシーツを濡らした。


「なんだ、これ」


 急に意識が覚醒していく。
 白音は自分が泣いていることに気がつき、驚いて目元を手で拭った。
 目が覚めたばかりの白音には、自分が泣いている理由がわからなかった。
 夢を見ていた気がする。だけどどんな夢なのか思い出せない。
 最近そんなことが多いが、目が覚めたら泣いていたというのは初めてだ。


「ったく、黒音にバレたらなんて言われるかな」


 白音の双子の兄である黒音は、弟を猫っかわいがりしているくせに、イジメるのも大好きという難儀な性格をしている。夢を見て泣いたなんて話は、格好のからかいの理由になる。
 そんな兄への好意を素直に表せるほど、白音は子供ではなかったし、大人でもなかった。
 十五歳という年齢は、微妙な年頃だ。
 双子だというのに、実際見た目はそっくりなのに、黒音は兄で、白音は弟として形作られている。
 それに無性に反抗したくなる時もあるが、今の関係が心地よくもあるので、白音の黒音への感情は複雑なものだった。
 そして自分たちの関係は、現実世界における双子の兄弟というだけでは無いことが余計に複雑なのかもしれない。
 そんなことを考えながら、白音は繰り返す夢のことが気になった。
 内容は思い出せない。
 だが、同じ夢だということは憶えている。
 ふと、誰かに名前を呼ばれた気がした。
 夢のなかと同じように。
 慕うように、憎むように、激しく切なく白音を呼ぶ声。
 いや、白音をではない。


『マダラ』を呼ぶ声を――確かに聞いた気がした。






「あー! また絶対障壁にぶつかったぁぁぁ!!!」


 電脳世界へのフルダイブを可能にしたヘッドギアを被ったまま、麒麟は叫んだ。
 もっとも、フルダイブ中は、現実世界の肉体への感覚フィードバックは切られているので、叫んだのは彼女のネットにおけるアバターの『キリン』である。
 キリンは少女型アバターだったが、その容姿は現実世界の麒麟と酷似している。
 アバターにしても鑑賞に耐えるほど、麒麟という少女は、際立って美しかった。
 可憐な少女の姿をしながら、母性を感じさせる包容力に満ちた雰囲気と、いきなり頭を抱えて苦悩に満ちた表情で叫び声をあげた奇橋な行動がチグハグでアンバランスだったが、彼女を知るものには、そんなところもまた魅力に映っているのだろう。
 麒麟は半年前に20歳になった。
 極東エリアと呼ばれる島国で、ちょうど成人を迎えたということになる。
 成人したというお祝いに、両親からフルダイブをようやく許された麒麟は、あるゲームに自分の時間のほとんどを費やしているが、それは順調なものではなかった。


「これやっぱりバグなのかなぁ? でも解ける人には必ず解けるって掲示板にもあるし、会社に問い合わせしても不都合は見つかってないって言うし。私のやり方が悪いってことか」


 ゲームの名は『アガルタ』――――電脳世界に構築された巨大な天空都市を攻略するフルダイブRPGである。
 アガルタは自由度の高いゲームで、都市の居住エリアで働いたり遊んだりするだけでも楽しめるし、危険エリアでモンスター退治をしてレベルを上げることに熱中する者も入る。ゲームのやり方によって身分が設定され、最終的なランクとしてアル・アジフ(世界の王)が存在する。
 ゲームが発表されたのは二年前だが、アル・アジフの座に辿り着いたものは、未だ存在しない。
 アル・アジフを目指すものは多い。しかし、プレイ上の何が要因でそのランクに到達できるのか、知っているものは誰もいないのだ。
 麒麟がアガルタを知ったのは、ゲームが配布されて半年たった頃だった。
 その時のことを、今でも鮮明に思い出せる。
 麒麟は十五歳でカレッジまでの教育課程を終了し、それからは今までしなかった様々な遊びに熱中した。
 幼い頃から、憑かれたように勉学にのめり込む娘を心配していた両親は、遊びに興味を示しだした麒麟をむしろ喜んでいたので、道具や機械を気前よく用意してくれた。
 ただ、電脳世界へのフルダイブだけは、成長期には悪影響があるということで許されなかった。それでも多岐にわたる新たな遊びに夢中だったから、それも気にならなかった。
 成人するのが待ち遠しくてたまらなくなったのは、一年前の春からだ。
 たまたま入った映画館で、アガルタの宣伝CMを観た時、麒麟は締め付けられるような郷愁を覚えて涙が零れた。
 画面に舞い散る桜吹雪。異国情緒に溢れた巨大なダンジョン。そこに確かに麒麟は『彼』の姿を見た気がした。


 『彼』――――摩陀羅の姿を。


 摩陀羅とは、真王の名である。
 それはいつの頃からか広まった巨大宗教組織――金剛宗の初代教祖が信仰していた神の名でもあった。
 その教義は、『彼』に帰依することで永遠の幸福を得ること。
 金剛宗では、人間は無限に転生するシステムだと教えている。
 その転生システムは、複数の霊が同一化することもあれば、ひとつの霊が分霊するこもあるというものであり、しばしばグループとして同じ時代に転生を遂げるというものだ。
 麒麟は金剛宗の巫女の娘だった。
 母親の顔は憶えてないが、今の両親は母の遠縁にあたるらしい。
 両親は金剛宗の信者ではなかったが、麒麟はいつか摩陀羅の妻になるのだと教えられて育った。
 勉強にのめり込んだのは、そんな両親への反発だったのかもしれない。
 幼い頃は、会ったことも見たこともない摩陀羅という偶像の奥さんになるのだと無邪気に信じていたが、早熟だった麒麟は、すぐにそれがあり得ない妄想だと気がついた。
 世界を知れば知るほど、知識が増えれば増えるほど、摩陀羅の存在は疑わしいものになっていく。
 だが、生まれた時から植え付けられた摩陀羅への思慕は、ほとんど本能にも等しく麒麟を強く支配した。
 理屈ではなく摩陀羅を愛している。
 しかしそれは存在しない空想の神なのだ。
 どこにもいない『彼』の夢を何度も見た。
 それは、屈託のない表情で笑う少年の姿だった。
 その少年の姿を、アガルタの中に見た気がした麒麟は、両親にゲームをさせてくれるように頼んだが、フルダイブということがネックになって、半年待たされることになった。
 あり得ない存在を手に入れられるかもしれない夢に、麒麟は溺れた。
 狂おしいまでに待ち遠しい半年が経って、ようやくアガルタに接続した時は、情報量のあまりの多さに気を失いそうになったが、何故かここに摩陀羅がいることを確信できた。


「またやってるの、キリンちゃん?」


「ヒミカこそ、こんなとこまできたのは同じ理由でしょ?」


 アガルタの上層階にある絶対障壁の前で、キリンは自分と同じくらいの年頃の少女型アバターであるヒミカの方を振り返った。


「まあそうだけど、そっちほど切羽詰まってるわけでもないもん。アル・アジフの妻になれたらラッキーだなってだけだし」


「『彼』がどんな人なのかも、というか、まだ誰もその座についてないのに、虚しいとは思わないわけ?」


「うわー自分のことは棚上げだねぇ。好きな人を世界の王にすればすむことじゃない? 私はむしろそっちのほうが楽しそうかなと」


 キリンは憮然として、絶対障壁の見えない壁を軽く蹴った。


「この壁、どうやったら越えられのかな」


「むー半年でここまでこれただけでも凄いと思うけど。私なんて初期プレイヤーだけど、ここきたの最近だよ」


「せっかく妣の巫女なんていうレアランクなんだから、もう少し優遇されてもいいと思うけど」


 アバターの艶のある黒髪を指でくるくると巻きながらキリンがそう言うと、ヒミカは呆れた様子で溜息をついた。
 最近のゲームはどれもそうだが、こんな動作までよくできていることに感心する。


「アル・アジフの妻になる資格があるってだけで優遇されてるでしょ! それに私たち妣の巫女をパーティに入れておくとHP無くなっても自動復活できるし、すべてのステータスUP効果があるのも私たちだけなんだよ? これって凄いよね?」


 アル・アジフの配偶者候補である妣の巫女というランクは、女性プレイヤーにとって最高位に位置する。世界の王の座に女性がつけないのは差別だという意見 もあったが、アバターの性別は自分で選べるし、アガルタは何も王の座につくことがゴールというわけでもない。実際それらをわかった上で、男でも女でもない 白という性別を選ぶ者も少なくないが、世界の王とその王妃というランクは確かに特別なものなのだ。


「またマダラのことを考えてたの?」


「そんわけじゃないけど……」


 嘘だった。
 アル・アジフの存在を知った時から、それは摩陀羅に違いないと思った。
 そして、アガルタには『マダラ』と呼ばれる少年がたち存在することも知った。
 だけど麒麟がゲームを始めて半年もたったのに、未だにその存在には出会えていない。
 マダラという少年は二人いるということも噂で聞いた。
 白を意味するマダラと、黒を意味する影王マダラ。
 二人のマダラは対となる存在で、アル・アジフとは二人が合一した姿だという話も広まっていたが、その真実を確かめたものはいなかった。
 公式は、その噂を肯定も否定もしないという立場をとっている。
 どちらのマダラが自分が愛する相手なのか、それとも二人が合一した真王マダラこそが求める存在なのか、そんなことをいつも考えてしまうが、一度も会ったことのない相手のことをここまで考える自分が異常なのだという結論しか得られず気が滅入るばかりだ。


「この層の辺りでマダラを見たって報告はあるんだよね。掲示板は荒れ気味だけど」


 見えない壁をぺたぺたと触りながら、ヒミカは呟いた。


「白い衣装がマダラで、黒い衣装が影王だって。うっかり高レベル戦闘エリアに入り込んじゃった新規プレイヤーがマダラに助けてもらったていう話もあるけど、それも噂だもんね」


「二人とも天使かもしれないわよ」


「電脳天使? それこそあり得ないよ。天使は主の命令以外受け付けないもの。どんなに自然に見えたって、そうプログラムされた以上の行動はできないし」


「じゃあ、どちらかがプレイヤーなのかも」


 電脳天使とは、電脳世界と人間の橋渡しをする情報生命体のことだ。
 もともとは、キャラクターを模したインターフェイスのことだったが、進化したプログラムはそれだけでは説明できない何かになった。
 混迷の時代に何があったのかは、若い世代である自分は知らないが、麒麟が幼い頃には、電脳天使はかなり身近な存在だった。


「そういえば、キリンちゃんは、まだ自分の天使を持ってないんだよね?」


「卵はあるけど、まだ孵化させてないわ」


 情報生命体の名の通り、天使たちは繁殖することができる。
 自由意志に近いものを持っている天使は、自分と波長が合う相手に会うと、互いの子供にあたる卵を生む。
 これは主である人間の自由になることではなく、生まれてきた卵が誰を主に選ぶかも予め決めることはできない。
 孵化する前の卵は情報の海を漂って、新たな主のもとに届く。
 孵化させるには、主の声が必要となり、その声をキーワードに、卵に手を加えることができた。
 卵には最初からそれぞれ個性があって、それは変えることはできないが、外見設定や能力などは修正が効く。
 麒麟は十歳の時に、自分の卵を手に入れた。
 どこからきたかも分からない天使の卵を麒麟は大切にしていたが、いつ孵化させればいいか迷ったまま十年が過ぎてしまった。


「じゃあチャンスだよね。ここで自分を守ってくれるナイトを作っちゃえばいいじゃない」


 ヒミカはそう言うと、目を輝かせてキリンの手を握った。


「そうだ! せっかくだから、私たちで対の戦士を作ろうよ! 私も最近卵を手に入れたばっかりだからさ!」


「え、えー?」


「どっちが王妃になっても恨みっこなしってことで、私が赤の戦士ね!」


「つまり私の天使は青の戦士ってこと?」


 対というとどうしてもそういう固定観念がある。
 白には黒、赤には青という具合だ。


「ん、でも悪くないかな」


 大事にしていた卵だが、こんな切っ掛けがなければ、永遠に孵化させてやれないかもしれない。
 これがいい機会だろうと思えた。


「じゃ、いっしょに声をかけてあげようね。あとでDMするから時間決めよう」


「うん。待ってる」


 そう言うと、麒麟はアガルタから落ちて、ヘッドギアを脱いだ。
 端末の中に輝く金色の卵に触れて笑いかけると、麒麟は少し幸せな気分になった。


「私だけの戦士……か。つまり摩陀羅に仕える戦士ってことで名前考えなきゃ」


 ごく自然にそう考えると、青の戦士の名前と外見を決める作業に入る。
 それが全ての運命を決することを、麒麟はまだ知らなかった。






 卵の中で、彼は声を待っていた。
 自分を覚醒させる特別な存在の声。
 電脳天使は両親を知らない。
 もし偶然にも出会ったとしても、それは他人よりも遠い存在だった。
 だからこそ己の主は、天使にとって大切なのだ。
 父のように、母のように、娘のように、息子のように、そして兄弟姉妹のように。
 彼は主を求めている。
 凍結された卵に時間は意味が無い。
 ただ待っているという状況があるだけで、そこに変化はない。


 唐突に、声が聞こえた。


『夏鳳須』


 それが自分の名だとはっきりわかった。
 主が自分を呼んでいる。
 卵の中で、夏鳳須と呼ばれた彼は、急に自分というものがすごい勢いで確立していくことに気がついた。
 高い背丈、しなやかさを感じさせる長い手足。
 オールバックの髪は、少し固めの銀髪で、つり上がった瞳は、空を思わせる青だった。
 夏鳳須は、自分が攻撃に特化した性質を持っていて、主と主が守りたいと思う相手を守護するというどちらかというと苦手な分野を追加プログラムされたことを不満に思ったが、主の願いは絶対だ。
 目覚めよと声がする。
 卵の殻は破れた。


「よお、相棒」


「誰だお前は」


 赤い髪に金の瞳をした青年型の電脳天使を前に、新たに生まれたばかりの夏鳳須は呆然として言った。






 伝説はまだはじまらない。
 神と魔と人と天使の終わりのストーリーの幕が開くまでには、しばしの時間が必要だった。

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アリエッタは、泣きながら友達にしがみついてママのところに飛んだ。
 どうしたらいいのかわからない。
 彼女は激しい混乱の中にいた。
 胸が苦しくてたまらない。
 ライガクイーンであるママのところに行くことしか考えられなかったが、ママに会ってもなんにもならないのだとわかっていた。


「イオン様」


 名前を呼ぶだけで涙が後から後から溢れだす。


「死んじゃうなんて嘘です」


 でもイオンはアリエッタに嘘など言わない。
 最近のイオンの様子がおかしいことに、アリエッタは気がついていた。
 導師守護役としてイオンに仕えることは、アリエッタにとって生きる全てだ。
 最初はちょっとした違和感だった。
 イオンが変わったと感じるようになって、気になっていたら、偶然ディストが知らない部屋に入っていくのを見て、後をつけた。
 そこにはやつれたイオンがいた。
 自分が何を見たのかがよくわからなかったが、このイオンが自分のイオンなのだと直感したアリエッタは、イオンだと思う人のところに忍び込んだ。


「イオン様です? なんで、イオン様。なんで」


 ただそう尋ねるアリエッタに、イオンは、やつれながらも困ったように微笑んだ。


「ごめんなさいアリエッタ。告げようとは思っていたのだけど、僕には勇気がなかった」


「イオン様」


「僕はもう長くない。だから僕の弟たちを頼みます。アリエッタどうか……」


「いや!」


 その言葉を最後まで聞かずに、アリエッタは逃げ出した。
 イオンが死んでしまう。
 そんな言葉は聞きたくなかった。


 ママに会ってどうしたらいいのかもわからなかったが、アリエッタはライガクイーンの下に飛んだ。


「ママ!」


 アリエッタがライガクイーンのところにだどり着いたら、そこにはよく知った相手と、見知らぬ怖い人がいた。


「待ってましたよアリエッタ」


 はちみつ色の髪に、赤い瞳をした少年を見た瞬間、獣に育てられたものの本能で、相手が逆らってはいけない相手だとアリエッタは判断した。
 その証拠に、ライガクイーンは静かに息を殺してこちらを見るだけだ。


「アリエッタ」


「ルー?」


 自分を見るルーの悲痛な視線に、アリエッタは、ルーが真実を知っていたことに気がついた。


「知ってたですか? 知っててアリエッタに黙ってたの?」


「ごめん。アリエッタ。俺には言えなかった」


 ひどいと思った。
 ルーのことはイオンの次に大好きだったのに。
 アリエッタに嘘をついた。
 こんな大切なことを教えてくれなかった。


「なぜ黙っていたのかといいたいのでしょうが、今のあなたの様子こそが、誰もあなたに真実を告げられなかった理由です」


 怖い少年が、静かに言った言葉は、何故かすっと胸に落ちてきた。
 わかりたくないと思う気持ちをねじ伏せて、それが真実であるということを悟らせる。


「アリエッタが弱いから?」


「誰もあなたに傷ついてほしくなかった。イオン様もルーも」


「でも、それは嘘です。アリエッタは本当が知りたい」


 イオン様はもういなくなってしまうのだ。
 そんなことは受け入れられないと思っていたのに、この怖い人の言葉を聞いていると、その覚悟をしようとしている自分がわかる。


「アリエッタ。俺はイオン様が大好きだよ。俺だってイオン様が死ぬなんて嫌だ。でもそれが覆せないのなら、せめてイオン様の意志を大事にしたい」


「イオン様の意志?」


「アリエッタが生きてくれることだよ」


 イオンがいなければ生きていけないと思っていた。
 だけど、イオンは生きろというのか。
 自分を失っても生きろと。


「最後までイオン様のそばにいてもいい?」


「それがアリエッタの望みなら、イオン様の望みも同じだと思うよ」


 大好きな、大切な人。
 せめてその最後の瞬間までいっしょにいたい。
 アリエッタは、まだ自分がその後生きていける自信がなかったが、せめてイオンの前では泣かないことを決意した。

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