アリエッタは、泣きながら友達にしがみついてママのところに飛んだ。
どうしたらいいのかわからない。
彼女は激しい混乱の中にいた。
胸が苦しくてたまらない。
ライガクイーンであるママのところに行くことしか考えられなかったが、ママに会ってもなんにもならないのだとわかっていた。
「イオン様」
名前を呼ぶだけで涙が後から後から溢れだす。
「死んじゃうなんて嘘です」
でもイオンはアリエッタに嘘など言わない。
最近のイオンの様子がおかしいことに、アリエッタは気がついていた。
導師守護役としてイオンに仕えることは、アリエッタにとって生きる全てだ。
最初はちょっとした違和感だった。
イオンが変わったと感じるようになって、気になっていたら、偶然ディストが知らない部屋に入っていくのを見て、後をつけた。
そこにはやつれたイオンがいた。
自分が何を見たのかがよくわからなかったが、このイオンが自分のイオンなのだと直感したアリエッタは、イオンだと思う人のところに忍び込んだ。
「イオン様です? なんで、イオン様。なんで」
ただそう尋ねるアリエッタに、イオンは、やつれながらも困ったように微笑んだ。
「ごめんなさいアリエッタ。告げようとは思っていたのだけど、僕には勇気がなかった」
「イオン様」
「僕はもう長くない。だから僕の弟たちを頼みます。アリエッタどうか……」
「いや!」
その言葉を最後まで聞かずに、アリエッタは逃げ出した。
イオンが死んでしまう。
そんな言葉は聞きたくなかった。
ママに会ってどうしたらいいのかもわからなかったが、アリエッタはライガクイーンの下に飛んだ。
「ママ!」
アリエッタがライガクイーンのところにだどり着いたら、そこにはよく知った相手と、見知らぬ怖い人がいた。
「待ってましたよアリエッタ」
はちみつ色の髪に、赤い瞳をした少年を見た瞬間、獣に育てられたものの本能で、相手が逆らってはいけない相手だとアリエッタは判断した。
その証拠に、ライガクイーンは静かに息を殺してこちらを見るだけだ。
「アリエッタ」
「ルー?」
自分を見るルーの悲痛な視線に、アリエッタは、ルーが真実を知っていたことに気がついた。
「知ってたですか? 知っててアリエッタに黙ってたの?」
「ごめん。アリエッタ。俺には言えなかった」
ひどいと思った。
ルーのことはイオンの次に大好きだったのに。
アリエッタに嘘をついた。
こんな大切なことを教えてくれなかった。
「なぜ黙っていたのかといいたいのでしょうが、今のあなたの様子こそが、誰もあなたに真実を告げられなかった理由です」
怖い少年が、静かに言った言葉は、何故かすっと胸に落ちてきた。
わかりたくないと思う気持ちをねじ伏せて、それが真実であるということを悟らせる。
「アリエッタが弱いから?」
「誰もあなたに傷ついてほしくなかった。イオン様もルーも」
「でも、それは嘘です。アリエッタは本当が知りたい」
イオン様はもういなくなってしまうのだ。
そんなことは受け入れられないと思っていたのに、この怖い人の言葉を聞いていると、その覚悟をしようとしている自分がわかる。
「アリエッタ。俺はイオン様が大好きだよ。俺だってイオン様が死ぬなんて嫌だ。でもそれが覆せないのなら、せめてイオン様の意志を大事にしたい」
「イオン様の意志?」
「アリエッタが生きてくれることだよ」
イオンがいなければ生きていけないと思っていた。
だけど、イオンは生きろというのか。
自分を失っても生きろと。
「最後までイオン様のそばにいてもいい?」
「それがアリエッタの望みなら、イオン様の望みも同じだと思うよ」
大好きな、大切な人。
せめてその最後の瞬間までいっしょにいたい。
アリエッタは、まだ自分がその後生きていける自信がなかったが、せめてイオンの前では泣かないことを決意した。
[2回]
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