ルルーシュ誕生日記念フリーSSです。
ご自由にお持ち帰りください。
朝比奈×ルルーシュです。
次の日まであと10分をきった夜中、アジトの自室へと廊下を歩いていたゼロは、突然朝比奈に呼び止められた。
四聖剣の朝比奈は、始めはゼロに懐疑的だったが、ある日を境に突然親ゼロ派に転向していた。
本人は藤堂さんが信用してるからと言っているが、ゼロに対する馴れ馴れしさが、それだけであるはずがない。
ゼロ本人も、朝比奈がどういうつもりなのか、気になっていた。
何故なら、ゼロにとって、いや、ルルーシュにとって、朝比奈は過去に特別な存在だったことがあるからだ。
7年も前、まだ枢木の土蔵でナナリーと暮らしていた頃、藤堂に紹介された若い軍人を、ルルーシュはよく覚えている。
朝比奈省吾と名乗った青年は、頑なだったルルーシュの心を溶かし、ナナリーと二人の世界に自然と入り込んできた。
子供が好きなんですかと聞いたルルーシュに、朝比奈は言った。
「えっ? 違うよ。俺はルルくんが好きなだけだよ」
ナナリーのことは、ルルーシュの妹だと思うだけで可愛いと続けて言った。
「どうして、敵国の捨てられた皇子なんかのことを気にするんですか?」
「どうしてって、ルルくんは、すごくいい子だし、何より無茶苦茶可愛いんだもん。好きにならずにいられないよ」
ロリコンなのか、この人はとは、当時のルルーシュは思わなかった。
ただ、好意を持ってくれていることが嬉しくて、かえって何もいえなくなってしまった。
そんなルルーシュを抱きしめて、朝比奈は言った。
「必ず君たちを守って見せるよ。俺がルルくんを幸せにするんだ」
「省吾さん、でも……」
「でもは無し。約束して、絶対幸せになってみせるって。その時は俺が側にいるからね」
スザクくんはどうでもいいけどねと朝比奈は笑った。
約束を破ったのは、朝比奈ではない。ルルーシュの方だ。
朝比奈を信じていた。
だが、日本が降伏して、自分達の身柄を日本側にもブリタニア側にも預けることはできなかった。
朝比奈も藤堂も信用できる大人だと思う。
だけど、組織としてはどうだろうか。
なんとしても、ナナリーだけは守らなくてはならなかったルルーシュは、秘密裏に連絡を取っていたアシュフォードの手をとることにして、自分達の死亡を工作した。
それが日本人の手によるものだと発表されてしまったのは、ブリタニアの情報操作によるものだ。
ルルーシュは日本という国に対して、大きな借りを作ってしまった。
そして、ブリタニアへの憎しみはいや増した。
朝比奈やスザクに会いたいと何度も思ったが、まだ力の無かったルルーシュにナナリーを危険にさらすような真似はできなかった。
そして、成長して、ゼロとして立って、藤堂救出の時に朝比奈と再会した時、ルルーシュは朝比奈が変わってしまったことに気がついた。
こんな荒んだ目をする人では無かった。
日本を失ったことが、優しかったこの人を、こんな風に変えてしまった。
なら、日本は朝比奈たちに返そう。
ゼロはブリタニアを崩壊させるためにある。
だけど、日本を返す約束だけは守ろうと、ルルーシュは誓った。
そう思えば、朝比奈に不審な目を向けられることにも耐えられた。
子供の頃のことは忘れない。
だがそれは、自分の心の中にだけあればいいことだとルルーシュは思っていた。
だから、いつの日からか、突然態度を変えてきた朝比奈に、ルルーシュは戸惑っていた。
仮面の下で困惑しながら、ゼロに優しく接する朝比奈を嬉しいと、それだけでいいと思った。
「どうした朝比奈。ここは基本立ち入り禁止だぞ」
「うん。でもC.C.に許可はもらったんだよ。聞きたいことと、言いたいことがあったからね」
「何故あいつが許可を出すんだ。ピザ何枚で買収した?」
「買収なんてしてないよ。もうすぐ今日になる明日は特別な日だから、二人っきりにさせてやろうって、C.C.がね」
「どういう意味だ?」
わけがわからない。
いつの間に、朝比奈はC.C.と仲良くなったのだろうか。
それに特別な日?
ルルーシュには意味が分からなかった。
「意味は部屋に入れてくれたら、教えるよ。日付が変わったらすぐにね」
迷ったが、結局ルルーシュは朝比奈を部屋に入れた。
C.C.との関係も知りたかったが、単純に朝比奈の側にいれるのが嬉しかったのだ。
「あと、1分だぞ。何のようなんだ?」
自分は椅子に座って、朝比奈を立たせていたルルーシュは、痺れを切らせて言った。
「慌てないでよ。もう少しだから」
時計を見ると、朝比奈は、突然ルルーシュの仮面をひっぺがした。
「ほわっ! 何をするんだ!」
「はい、時間。誕生日おめでとうルルくん。すごい美人になったね」
朝比奈の言葉にルルーシュは動揺した。
「な、なんで、わかった」
「C.C.が教えてくれた。ゼロが僕が昔に失ったと思ってた子供だって。俺は約束を守れなかった。だからもう一度誓いをたてるために今日じゃなきゃ駄目だったんだ」
「朝……いや、省吾さん。約束を破ったのは俺の方だ。あなたが気にする必要なんてないっ……んっ!」
最後まで言い切る前に、ルルーシュは朝比奈に口付けられた。
甘い感触が口内を痺れさせる。
大人のキスなんてしたことが無かった。
今自分は朝比奈と深いキスをしている。
なんだか幸せだとルルーシュは目をつぶった。
「ごめんね突然。でも我慢できなくてさ。生まれてきてくれてありがとう。生きていてくれて本当にありがとう。ルルくんが死んだなんて信じちゃってごめん。俺は復讐のために今まで生きてきたけど、ルルくんが生きているなら、今度こそルルくんの幸せのために戦うよ」
「俺の幸せのため? 省吾さん、そんなことは考えなくていいんです。俺にそんな資格は無い。ただブリタニアへの復讐のために、ナナリーに優しい世界を見せてあげるために俺は黒の騎士団を利用しているんだから。その過程で日本を取り戻すことも俺の野望に付き合わせる見返りなんですから」
日本を崩壊させた国の捨てられた皇子のためになんか、戦わなくてもいい。
ただ、日本のために戦って欲しい。
ルルーシュは思った。
側にいれるだけで、幸せだったのだから、これ以上の幸せなんて望まないと。
「君の幸せが、俺の幸せなんだ。いっしょじゃなきゃ幸せになんてなれないよ。今度こそ俺から離れていかないで。頼むからいっしょにいさせて」
「省吾さん……」
どうしよう。泣きそうだ。
俯いたルルーシュを、朝比奈は強く抱きしめた。
「ずっと好きだったんだ。ルルくんがゼロだと知って、もっと好きになった。俺を好きになって。俺を信じて」
必死で語りかける朝比奈に、ルルーシュはもう勝てないと、そっと背中に腕をまわした。
「とっくに、好きになってましたよ。7年前からあなたが好きでした。ずっと忘れたことなんてなかった。でも許されないと思ってたんです。本当に俺でいいんですか? 俺はあなたを束縛してしまう。戦場へあなたを導くしかないのに、それでもついて来てくれるんですか? 死なないと約束してくれますか?」
「大丈夫。俺はルルくんのために生きているんだから。君の命も心も今度こそ守って見せるよ」
ルルーシュは朝比奈にぎゅっと抱きついた。
強い力で抱きしめ返す朝比奈は、もう一度、生まれてくれてありがとうと囁いた。
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