今、俺の前には、俺の理想を体現した男が、普段の姿からは想像もつかない妖艶さで横たわっている。
これを未来の自分だと思えと言う方が間違っている。
こいつは俺の理想だが、俺は絶対こいつにはならない。
それは誓いでもあるが、そもそもこんな男に自分がなるとは思えない。
未来の自分に欲情して、欲情されるというのは、どう考えたって変態だ。
だけど俺は自分の欲望を抑えられないし、アーチャーにいたっては、それを楽しんでいるのだから救えない。
俺はアーチャーに溺れている。
なんだか、理想を抱いて溺死しろと言われた言葉どおりになりそうで怖い。
意味が違うけど。
「焦らしプレイに目覚めたのか? そんな高度な技は貴様にはまだ早いと思うのだがな」
「そういうこと言うな!」
いっしょに暮らすようになって知ったことだが、アーチャーには恥という概念が無い。
アーチャーいわく、磨耗して麻痺してしまったんだそうだ。
誇り無き身に恥などという思考が残っているはずが無いだろうと言われたときには、気が遠くなった。
昼間はいいんだ。昼間は。
いくら恥を知らないからといって、アーチャーは別に露出狂じゃないし、分別もある。
だけど夜二人っきりになると、こいつはものすごく欲望に忠実になる。
押し倒されたことも一度や二度じゃない。
体格差からして、本気で押し倒されたら、俺に抵抗の余地は無い。
もっとも、それで女役を強要されたことは一度も無いんだけど。
初めに乗っかられた時から、一貫して女役はアーチャーの方だった。
この方が楽なんだと言うのが、アーチャーの言い分だ。
助かるけど、納得がいかない話だ。
まあ、夜のアーチャーの凄まじい色気を見たら、誰にそこまで仕込まれたんですかと問いただしたくなるけど、怖いから聞いたことは無い。
アーチャーが何故突然焦らしプレイなどと言ったのかは、よくわかっている。
魔力が足りないと襲ってきたアーチャーに流されて、アーチャーの後孔の準備まで済ませたところで、俺が考え込んでしまったからだ。
それはセックスの時に考えるには、相応しくない思考だった。
いや、今までにも何度か思ったことなんだけど、昼間のアーチャーにははぐらかされるというか、いいように誘導されて、何を言いたかったのか俺も忘れてしまうばかりなのだ。
「あのさ、俺はいつかお前を超えられるんだよな?」
問われたアーチャーは怪訝な顔をした。
「こんな時に問うことか。まあいい。これからの鍛錬しだいでは可能だ。私は全てにおいて極める前に死んだからな」
「固有結界もか?」
「聞いていなかったのか。私は何も極めていない。貴様は私の先を行ける可能性がある。凛とセイバーがついていて、潰れるということはないだろう」
「なら、いつか俺にも、セイバーの聖剣が投影できるようになるのか?」
アーチャーは、眉を寄せてから、呟いた。
「今のお前でも投影できるだろう。聖杯戦争中に固有結界を発動させたんだからな」
「そうじゃなくて! お前のレベルまで到達できるのかってことだよ」
本物に勝るとも劣らない、あの特別な剣を、俺にも投影できるのかどうかを知りたかった。
そう言うと、アーチャーはあからさまに機嫌が悪くなった。
「そんなことより、放って置かれた私をどうしてくれる」
目を吊り上げて、アーチャーは俺を押し倒した。
単純な力比べだと、俺に勝ち目はまったくない。
中断したのは俺だけど、そんなにしたかったんだろうか。
したかったんだろうな。
アーチャー色々すごいから。
すでに用意はできていたアーチャーの体は、俺の体に乗り上げて、そのまま男根をずぶずぶと呑み込んだ。
「あっ……ん」
挿入した時のアーチャーは、すごい気持ちよさそうに声を上げる。
半開きの口がすごいいやらしくて興奮する。
充血した赤い舌が、唇をぺろりと舐めて、その光景のあまりのエロさに、俺はアーチャーの体を下から強く突き上げた。
もうこうなると、思考がアーチャーとの行為一色になってしまう。
何を悩んでいたのかも忘れてしまった。
ただ、アーチャーを感じさせることだけに集中する。
最初の頃は、ただただ翻弄されるばかりだった俺だが、今では、流されても踏みとどまってアーチャーの媚態を堪能する余裕もある。
もう本当に閨のアーチャーって、目茶苦茶エロい。
「あっああ……いい……すごくいい」
セックスの時だけ、アーチャーはすごい素直だ。
いつもの毒舌が嘘のように、快楽に忠実になる。
「気持ちいいんだろ? もっと激しくして欲しい?」
「んっ! ああ……もっと……ほし……ぃ」
望みどおり、俺は抽挿を激しくした。
アーチャーの中は、きつくて狭くて、ぬるぬるしていて、すごい気持ちがいい。
多分生前のアーチャーに溺れた人間は何人もいたんだろう。
それに嫉妬する俺は多分子供なのだ。
アーチャーが好きだ。
遠坂を好きなのとは全然違うようで、同じように好きでたまらなかった。
ひと際強く突き上げると、甘い嬌声をあげて、アーチャーが俺の腹の上に白い液体を零した。
同時に、裡が強く締め付けられて、俺もアーチャーの中に熱い迸りを発射した。
それから体勢を変えて、2回ほど交わって、俺たちは布団の上で寝そべった。
さすがに疲れた。
搾り取られたというのが、ぴったりくる。
「若いのにだらしがないな」
「英霊の体力と比べないでくれ。俺は普通だ。多分」
急速に眠気が襲ってくる。
半分意識を飛ばした俺に、アーチャーが小さな声で呟いた。
「貴様が私と同じ聖剣を投影するのは無理だ」
「ん……なんで……だよ」
眠りに落ちそうになりながら俺は尋ねた。
あの聖剣にたどり着きたい。それは俺の夢だ。
「私は彼女を愛していた。彼女に相応しい存在でありたかった。生きている間、それだけを支えにして、作り上げたのがあの聖剣だ。今でも消えることがない私の未練の象徴だ。貴様は私とは違う。貴様は彼女を選ばなかった。だから貴様がそこにたどり着くことはない」
ああ、なんだ。アーチャーはセイバーが好きだったんだ。
でも、そのセイバーは、俺が知っているセイバーじゃない。
アーチャーは二度と愛した女性と再会出来ない。
別れはもう済ませてしまったのだから。
なら、俺にあの本物に限りなく近い聖剣は作れない。
それでも、あの剣は俺の憧れだった。
「俺は……あき…ら……めない……ぞ」
それだけを言って、俺はそのまま眠りについた。
最後に好きにしろというアーチャーの声が聞こえた気がした。
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