「君はユフィの仇だ」
今更何を言っているのだろうと俺は投げやりに思った。
仇だと言うのなら、討てばいい。
言い訳する気はなかった。
ユフィを殺したのは確かに俺だ。
初恋の相手を虐殺皇女と呼ばせた挙句、自分の手で止めを刺したのだからな。
今でもユフィを愛している。
だがそれをスザクに告げて何になるというのだ。
零れたミルクは元には戻らない。
それは俺が背負うまぎれもない罪のひとつだ。
だから俺はスザクに告げた。
「だから?」と。
するとスザクは、俺が予想していなかった言葉を言い出した。
「君の言葉は嘘ばかりだ。でも僕も君に、君たちに嘘をついていた。ユフィも僕に嘘をついた。ユフィは最後まで君の正体を僕に話さなかった。その意味を、僕はもっと考えるべきだった」
「何を言っているんだ」
「シャーリーに言われたんだ。許せないんじゃないと、僕は君を許さないと決めていた。それがユフィのためだと思っていたんだ。でも違った。僕が君を許したくないだけだった」
「俺を許す必要がどこにある。俺はユフィの仇なんだろう? 騎士として俺を殺すのは正しい選択だ。それがお前の望みなんだろうが」
「だから、理由を話して欲しいんだ。君が単純にユフィを利用して殺したとは、僕にはもう思えない。君を憎んでいる時、僕はずっと苦しかった。僕の手で君を殺すと言いながら、そんなことを言わせる君を恨んだ。本当に君のことが好きだったから」
そんな言葉信じられない。
だって、お前は俺を切り捨てたじゃないか。
あいつらと同じように、俺を捨てたんだ。
俺は最初から存在してはいけなかったんだ。
そうすれば、ユフィもナナリーも死なずにすんだんだから。
でも俺は生きたかった。
ナナリーとふたりの明日が欲しかった。
それがそんなにいけないことだったのか。
「信じられない。もう誰を信じたらいいのかわからないんだ!」
俺は叫んでいた。
もう俺には誰もいない。
信じられる人間は皆死んでしまった。
残ったのは裏切り者ばかりだ。
そして俺も裏切り者なのだろう。
「私の存在を忘れるな」
「C.C.!」
ああ、そうだ。
俺にはまだこいつがいる。
父と母を裏切って、俺を選んだ共犯者。
「枢木スザク、お前にこいつの言葉など必要ないだろう。いつだって話を聞かなかったのはお前の方なんだからな」
「ルルーシュにギアスなんてものを与えた君に言われたくないよ」
「私がギアスを与えなければ、こいつは死んでいた。いい機会だ、お前の罪深さを知るがいい」
そう言うと、C.C.はスザクを突き飛ばした。
その途端、スザクの姿が消えてしまう。
俺は驚いて、C.C.に詰め寄った。
「スザクをどうしたんだ?」
「どこまでも甘い坊やだな。そんなにあの莫迦のことが心配か?」
「そういうわけじゃない。目の前の人間が、いきなり消えたら驚くだろう」
そうは言っても、俺にスザクを完全に切り捨てることは確かにできない。
絶対に裏切らないと思っていた相手に捨てられた時、救ってくれたのはスザクだったから。
裏切られても、捨てられても、本当の意味ではスザクを憎めなかった。
今でも俺を捨てたあいつを忘れられないのと同じように、スザクのことも切り捨てられなかった。
だから心配したのは本当だった。
「心配は要らないさ。Cの世界のお前の意識とリンクさせただけだ。今頃幼い時からのお前の経験を追体験しているところだろう」
「な? 勝手なことをするな!」
「必要な嘘もあるというのは私も賛成だが、お前達は嘘に縛られて互いに動けなくなってしまっている。あの莫迦はもう言葉を信じられなくなっているはずだ。ならば事実を突きつけてやればいいだけだ。これで少しは自分の愚かさを思い知るだろうからな」
俺の記憶を追体験する。
それでスザクは納得できるのだろうか。
でも納得したからどうだっていうんだ。
あの時、スザクが俺たちよりもユフィを選んだのは変えられない。
俺がユフィを殺したのも変わらない事実だ。
幼いあの日に、誰よりも信じていた相手に裏切られたことを、俺が忘れられないように、スザクも俺を許さないだろう。
答えが分かっていながら、俺はまだ期待している。
あれは何かの間違いだったのだと。
あいつが俺を裏切るはずは無いのだと。
日本に送られる俺に会いにもこなかった。
終戦後も俺を探しに来なかった。
それが何よりの心変わりを示していると言うのに。
「なあ、ルルーシュ。確信はなかったからずっとお前に黙っていたことがあるんだが、ギアスキャンセラーを手に入れた今なら、お前は、自分の騎士を取り戻せるかもしれないぞ」
「どういうことだ?」
「まずは、ジェレミアと合流して、お前の騎士を捕まえる。すべてはそれからだ」
俺に騎士などいないという言葉は、口にできなかった。
C.C.の言っていることが、なんとなくだが理解できたからだ。
もし、そうなら、俺はあいつを信じてもいいのかもしれない。
期待しても裏切られるだけだという思いとは裏腹に、信じたいという気持ちを俺は抑えることができなかった。
「ロイド……」
俺は、俺の騎士になるはずだった男の名を呟いた。
[11回]
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