約束をした。
必ず戻ると。
そんなことを言う人ではなかったのに、帰ってきてと言ってくれた。
帰りたかった。
みんなのところに、誰よりも彼のところに。
『ジェイド……』
最後の言葉は、彼に届いただろうか。
ルーク・フォン・ファブレのレプリカは2体製造できた。
どちらかを処分するべきだが、せっかくできた完全同位体を消してしまうのは惜しい。
片方はこちらで育てようと思い、さてどちらをファブレに戻すかを思案していると、右側に寝かせて
いたレプリカが目を覚ました。
そんなわけはないのに。
レプリカには薬が処方されている。
彼自身が作ったものだから、その効果はよくわかっている。
少なくともあと二日は目を覚まさないはずなのに、片方のレプリカが彼を見て笑った。
「ジェイド……」
いや、何故そこでジェイドの名前が出るのか。
あり得ない事態に、彼――ディストは混乱した。
記憶の焼付も行っていないレプリカが意味のある言葉を発せられるわけもなく、万が一にもオリジナ
ルの記憶が残っていたとして、ルーク・フォン・ファブレがジェイドの名を、何故そんなに切なそうに
呼ぶのか。
あり得ない。
あり得ない。
だが、そのあり得ないことは、ディストの心を確実に揺さぶった。
「あなたは、誰ですか?」
「俺は、ルーク……」
確かに己をルークだと名乗り、レプリカはまた眠りについた。
「ルーク……ですって?」
レプリカには自我があるようだ。
自分がルークだと認識している。
記憶がどこまであるのかは調べてみないとわからない。
それにジェイドとは、このルークにとって何の意味がある存在なのか。
このレプリカにはわからないことが多すぎる。
だが――――
「先生」
それは、ネビリムを復活させる役に立つのではないか。
自分たちの恩師を復活させることができれば、あの幸福な日々が帰ってくると、ディストはまだ信じ
ていた。
「ヴァンを言いくるめる必要がありますね」
ディストはこのレプリカを自分の助手にすることに決めた。
ジェイドのことを聞かなくてはなと思い、なんだか楽しくなってくる。
己をルークと名乗ったレプリカの子供は、もう片方のレプリカとともに、昏々と眠り続けていた。
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