その瞬間、ルーは息が止まりそうになった。
ディストに挨拶にきたその人を見た瞬間、ルーにはそれが誰だかわかった。
会いたくて会いたくてたまらなかった人。
十八歳くらいの眼鏡をかけていない、まだ幼さが残る外見ではあるが、その人はジェイドにあまりに似すぎていた。
「はじめまして、ジェダイト・カーティスです。ジェイと呼んでくれてかまいませんよ」
「ジェイド! いつの間に若返りの方法なんて発明したんですか!?」
「ジェダイトだと言ったはずですよ。その耳は飾りですか」
「やっぱりジェイドじゃないですか!」
ディストと掛け合いをしながら、ジェダイトと名乗った少年は、ルーを見つめると、華やかに笑った。
「ルーク」
そう呼ばれたた途端、ルーは彼に抱きついていた。
「ジェイド! ジェイド! 俺のジェイドなんだな? そうだよな?」
「ええ、あなたのジェイドですよ。私のルーク」
なぜ若返っているのかとか、自分が死んだあと世界はどうなったのかとか、聞きたいことはいっぱいあったが、ルーはジェイを抱きしめることを優先した。
俺のジェイドだ。
それだけでよかった。
頭を撫でる手にうっとりと身を任せていると、ディストが恐る恐るといった様子で声をかけてきた。
「とりあえず、何がどうなってるのか説明してくれませんか」
「無粋ですね。でもまあいいでしょう。ちゃんと納得してから再会を喜んでもらいたいですしね」
そう言うと、ジェイはルーの髪にキスをする。
「ジェ、ジェイド」
「今はジェイと呼んでください。あなたの名前は?」
「うん。ルーって名乗ってる」
「じゃあ、ルー。おかえりなさい」
「えっ」
「あなたに会ったら、言いたかったんです」
ああ、泣きそうだ。
ルーはたまらなくなった。
ジェイドはどれだけ待っていてくれたんだろう。
帰りたかった。
ジェイドのところに戻りたかった。
約束は果たせなかった。
この世界で目を覚まして、最初に思ったのはジェイドのことだった。
でも会いたくても会えないと思っていたのに、こうしてジェイドがおかえりなさいと言ってくれて、ルーは泣きそうになりながら笑った。
「ただいま」
ジェイは微笑みで答えてくれた。
「どこから話しましょうか」
「あのあと世界はどうなったんだ?」
それだけは聞いておかないとならないとルーが尋ねると、ジェイは感情のない声で救われましたよと答えた。
「ちゃんと残されたレプリカにも人権が与えられるようにしておきました。キムラスカもマルクトもダアトも混乱は起こりましたけど、だいたい平和でしたね。みんなもそれぞれの道を歩んでいましたよ」
「そっか。みんなが救われたならよかった」
そう言ったら、ジェイの表情がますます冷たいものになる。
俺なんか間違えたかと思ったが、すぐにジェイはルーに笑いかけた。
「すいません。少し『ルーク・フォン・ファブレ』が戻ってきた時のことを思い出して、嫌な気分になりました」
「え、俺?」
「あなたは帰ってこなかった。帰ってきたのは、アッシュとあなたが統合したとかいうまったくの別人の『ルーク』です」
「大爆発ですか?」
ディストが聞くと、それを無視して、ジェイはルーに向かって話を続けた。
「私はあなたを待っていました。『ルーク』が戻ってきたあとは、私のあなたを取り戻す方法を探し求めた。経緯は省きますが、ローレライと交信に成功しまして、時間を巻き戻してもらったんです」
「ローレライ万能ですね。そこまでのことができるなら、自分だけで世界を救ったらよかったんじゃないですか」
それもやはり無視して、ジェイはルーに笑いかける。
「時間を巻き戻すといっても、まったくの過去に戻ることはできません。同時間軸に同一人物は存在し得ない。だからここは、あったかもしれないもしもの世界なんですよ」
「意味がわからねー」
「平行世界論ですか。興味深いですけど、あなたが若返っている理由はなんなんです? 別次元のことだろうと、七年分時間を巻き戻したなら、あなたもう二十八歳のはずでしょう」
「あ、それは俺も知りたい」
ルーが言うと、やれやれといった感じで、ジェイは答えた。
「事故です」
「なんだよ事故って」
「そうですよ。それで納得しろと?」
「時間を巻き戻すことを考えた時、色々と実験しまして。結果譜術が暴走して若返りました。偶発的な事故なので、再現はできません。まあその暴走の結果ローレライと交信できたのですから儲けものでしたね」
平然と話すジェイを、ディストは絶句して見つめる。
ルーは最初から理解できないので、ジェイドってすごいんだなと素直に感心した。
「そうだ。アッシュも戻ってきてるんだけど、それはどうしてなんだ?」
「ロー レライの気分の問題でしょう。ローレライにとってはアッシュも愛子ですからね。帰ってきた『ルーク』はアッシュでもなかった。あなたとアッシュは同一の存 在ではないことを強くいい含めたら、納得してくれまして、それではじめてあの結末があんまりだと思ったらしいですね」
それよりとジェイが続け時、研究室の扉が大きく音を立てて開けられた。
「ルーはいるか!?」
「アッシュ? なんだよ急に」
「なんだじゃねー! アリエッタが出て行ったぞ!」
「どこに!?」
「行き先はわからねー。見た奴の話だと、泣いてたって言ってたな」
「イオンはどうしたんだ?」
アリエッタが泣きながら出て行く理由など、イオンのことしか考えられないが、オリジナルイオンはまだ生きている。
「すでにレプリカが導師役をやっているからな。オリジナルは隠し部屋で臥せってる」
「アリエッタが自力でイオン様がレプリカだと気がついたんでしょうかね。探すにしてもどこへ行ったらいいのか」
戸惑っている三人に向かって、ジェイが声を上げた。
「私が探してきましょう」
「誰だテメー」
「居所がわかるんですか?」
「俺も行く!」
ルーが言うと、ジェイは安心させるように笑いかけた。
「彼女が行く場所はライガクイーンの所以外にあり得ません。あなたがついてきてくれるなら、何があったのか聞き出すのも容易でしょうね」
「おまえ、陰険鬼畜眼鏡か!?」
「今は眼鏡じゃないですよ。相変わらずガラが悪いですねアッシュ」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ! 早く追いかけなきゃ!」
「大丈夫ですよ。先回りできます」
ジェイは笑顔でそう言った。
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