明らかに研究室だとわかる部屋で、焔によく似た髪と翡翠の目をした子供は途方に暮れていた。
目が覚めたら、目の前には締りのない顔をしたよく知っている相手が見つめていた。
(なんでジェイドじゃないんだ)
自分は死んだはずなのにとか、手足がやたら短くふにふにと柔らかいのはなんでだとか、どうしてこ
の洟垂れ――いや、死神が目の前にとか、そんなことを考える前に、そう思ってしまった。
自分が死んでも守りたかった人。
生きるという意味を教えてくれた人。
帰ってきてくださいと願ってくれた人。
これがローレライが見せた夢だというのなら、なぜ目の前にいるのがジェイドではないのか。
相手がティアかガイだというなら、まだ納得もできたが、何故ディスト。
「目が覚めましたか?」
「えーっと一応は」
「よろしい。では、あなたは自分がなんなのかわかりますか?」
自分がなんなのか。
誰なのかではなく、なんなのか。
問われた意味は明白だった。
でも、そんな答えがわかりきった問を、何故この相手にされなくはならない。
「俺を作ったのはお前だろ? 今更何言ってんだ? っていうか、ジェイドどこだよ」
「なぜあなたがジェイドを知っているんですか!? というか、自分がレプリカだということを何故自
覚できたのです?」
「自覚って、だって今更みんな知ってることじゃねーか」
「……みんな?」
「みんな」
そう頷くと、よく表情が変わる締りのない顔が、能面のように固まった。
整った顔は、そうすると、なんとなく彼の幼なじみである死霊使いに似ていてなんだか切なくなる。
本当に何故ここにいるのがジェイドではないのか。
ジェイドに会いたい。
思いに浸っていると、真剣な顔をしたディストが、肩を掴んで潜めた声で聞いてきた。
「あなたは誰です?」
「だから、知ってることをなんで聞くんだよ。それより俺は――」
「ルーク」
「なんだよ」
「あなたは、そう名乗った。刷り込みもされていないのにですよ。ならば万が一にもオリジナルの記憶
があるのかとも思いましたが、あなたは自分が私に作られたレプリカだと知っている。そしてジェイド
――彼の存在を、何故昨日誕生したばかりのレプリカであるあなたが知っているのか。納得のいく説明
をしてもらいましょう」
「昨日誕生したばかり?」
そう聞き返すと、それだけで、死神と自分を呼ばせている男は、何かを納得するような表情を見せた
。
「あなたにとっては、そうじゃないということですか。ならば聞きます。あなたは、いつ自分がどれほ
ど前に作られたのか知っていますか?」
「七年前……いや、ちょっとまてよ、俺が昨日作られたってことは、今七年前なのか!?」
思ったのはジェイドの事だった。
七年前ということは、ジェイドは自分のことを知らない。
やり直すということは考えつかなかった。
だって、約束したのは七年前のジェイドじゃない。
自分が変わったように、ジェイドも旅の間に変わったのだ。
あの約束は、共に旅をしたジェイドが相手じゃなければ意味が無い。
きっと今のジェイドに会っても好きになると思う。
けれどそれは、ジェイドという未来の存在を、過去の彼に押し付けることになるだろう。
そんなことはできないと思った。
アッシュのことを、ナタリアのことを考える。
誰だって、誰かの身代わりにされるのはつらい。
それが自分自身だったとしても。
でも――――。
「俺……ジェイドに会えないのか? 会っちゃ駄目なんだよな? でも、俺は……俺……は……」
涙が溢れるのを、止めることができなかった。
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