家族と縁が薄いのは、アリアバートもジュスランも同じだった。
共通の過去に起因する母親たちの不和を、ジュスランがどう思っていたのかをアリアバートは確かめたことはない。
自分たちが従兄弟であるという事実は、実際は兄弟でもあるという隠された真実をより複雑なものにしている。
アリアバートは幼い頃から常にジュスランを意識していたが、ジュスランにとっての自分がどんな存在なのかは聞くのは怖かった。
常に過小評価されることに慣れていたアリアバートは、ジュスランにとっても自分は取るに足らない存在であるかもしれないという不安を忘れることができない。
父親に軽んじられてきた日々が、したたかな母親という存在が、アリアバートの性格を決定した。
アリアバートは自分の存在の価値を証明し続けなければならなかった。
証明したかったのは父親にだったのだが、ジュスランと自分が兄弟だと知ったときから、ジュスランに自分を認めさせたいと努力し続けていたのは事実だ。
ずっとジュスランが好きだった。
それがどういう意味を持つものなのか、互いに家族を失って5家族の当主となった今でもよくわからない。
ただ、手を伸ばしたのはアリアバートだったが、ジュスランがそれを受け入れた理由は多分自分たちに流れる血のせいだろうとアリアバートは思っている。
自惚れではなく、タイタニアで一番に名をあげられるのは自分だと思うが、ジュスランにとってそれが意味があるとは思えない。
自分たちに流れる濁った血の存在が、ジュスランを惹きつけたように感じる。
ジュスランが何を見ているのかは、何度肌を重ねてもわからない。
彼が見ているものを知りたいと思うが、理解できないから惹かれるのだと思わないでもない。
髪の色と同じ褐色の瞳は、いつも奥深い輝きを放っていて、アリアバートの心を捉えて離さない。
ジュスランが好きだ。
それを自分の中で確認することは、アリアバートにとって習慣であり、大切な儀式でもあった。
「なにを考えている、ジュスラン」
「いや、考えても詮無きことだ」
ベッドの上で、アリアバートの腕に抱かれながら、ジュスランはどこか遠くを見ているようだった。
アリアバートはジュスランのように哲学的思考は得意ではない。
そうでなくても、自分の腕の中にいるときぐらい、アリアバートのことを考えてほしかった。
だがそれが無駄な願いだということもアリアバートは理解している。
「ならば、こちらを向いてくれないか」
ジュスランを背後から抱きしめた姿勢のまま、深く口付けると、ジュスランが甘い声をあげた。
もう2度ほど貪りあったあとだったが、口付けだけで、互いに熱が上がっていく。
抱きしめている間は、ジュスランが自分のもののような気がした。
それが錯覚だとしても、深い充足感がある。
とりあえずは、それで満足だった。
アリアバートは権利に伴う義務を十分以上に果たしていたが、高望みはしない主義だった。
それは、母の言葉のせいもある。
誰からも嫌われない生き方を、できるかどうかはともかく、アリアバートは目指している。
だが、ジュスランを見ていると、その生き方に意味がないような気もするのだ。
ジュスランが手に入るなら、何を失っても後悔などしないのに。
彼のために死にたい。
時々そう思うことがある。
ジュスランが藩王になるのなら、絶対の忠誠を誓ってもいい。
アジュマーンへの畏怖とは違った意味で、アリアバートはジュスランを畏敬している。
藩王になりたいという野望は、アリアバートにもないわけではないが、より相応しいのはジュスランだと思っている。
能力以上に、より単純に、ジュスランの敵になりたくなかった。
腕の中のジュスランは、力が抜けて、アリアバートの胸に寄りかかっている。
何度抱き合っても、この瞬間は胸が痛くなる。
この関係に名前はつけられない。
それでも、ジュスランを愛しいと思うことをやめられない。
「ジュスラン……」
好きだと言う代わりに、何度も名前を呼ぶ。
何度言っても、足りない気がする。
「アリアバート」
ジュスランの唇が自分の名前を呼ぶと、己に特別な価値があるような気がした。
もう一度唇を重ねると、ジュスランの喉を飲みきれない唾液が伝う。
それを唇で辿ると、ジュスランが艶然と笑った。
いつ見ても凄絶なほどの色気だった。
二流の芸術家にとっての理想の美貌と言われる個性のない自分から見たら、ジュスランのほうがよっぽど美しく見える。
ジュスランの体を自分のひざの上に乗せると、ゆっくりとアリアバートは自分自身で彼の秘所を貫いた。
すでに何度か吐き出された体液で満たされた部分は、抵抗なくアリアバートを受け入れていく。
鼻にかかった甘い声がジュスランから漏れるたびに、アリアバートを受け入れた部分がきゅっと締まって、互いに快感を生み出した。
「あ……ああ……んっ! ア…アリア……バートぉ!」
「くっ、ジュスラン!」
公爵になる前から、何度も抱き合った体は、お互いの快感を深く導き出すことができるほど慣れている。
女のように柔らかな肉ではないが、溺れてしまうほどにいい体だった。
快感に忘我しているジュスランをキレイだと思う。
繋がるたびに、このまま溶けてしまえばいいのにと思うのは何故だろう。
何度も深く突き上げて、アリアバートはジュスランの最奥で、熱情の証をはじけさせた。
深く眠りに入ったジュスランの体を清めて、アリアバートはベッドで彼を抱きしめて目をつぶった。
彼のために死にたい。
その眼差しに届かなくても、それが本当の願いだった。
「ジュスラン」
大切な宝石を愛でるように、アリアバートはジュスランを抱きしめる腕に力を込めた。
タイタニアに転機を迎えさせる戦いの一年前の話である。
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