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亀更新で二次創作やおいを徒然なるままに書き散らすブログです。ジャンルは様々気が乗った時に色々と。基本は主人公受け強気受け兄貴受け年下攻めで。でもマイナー志向もあり。
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バレンタインフリーSSです。
如月×龍麻で、壬生×龍麻、オリジナル龍麻の従妹つき。
ご自由にお持ち帰りください。

 高校卒業から5年以上、龍麻は日本に戻っていなかった。
 はじめは、墓参りがてら中国に修行に行ってから、結局そのまま京一と修行を続け、気がついたらそれだけの歳月が過ぎていた。
 恋人ふたりは放置である。
 忘れていたわけではないのだが、そう言われても仕方がないだろう。
 根に持つ忍者と、情が深すぎる元暗殺者を恋人に持ちながら、音信不通はいくら龍麻でもあまりな仕打ちだ。
 だが、それでも去年の3月には日本に戻ってはいたのだ。
 よくわからない人違いから来るトラブルにより、あまり口にしたくない場所で宝探しなどをするはめに陥ったが。
 5月にとある場所で忍者装束の如月と再会したときは、お互いを見る表情が痛かった。
 商魂たくましい骨董屋の若旦那は、現在ネットショップまで開いているらしく、コードネームはJADEである。
 そのまんまかよという龍麻の突っ込みは無視された。
 ある事情に如月も巻き込み、全てに一応のカタがついたのが少し前だ。
 新しくできた仲間に別れを告げて、龍麻は新宿に戻ってきた。
 怒っているかと思っていた壬生の、無言の慈愛の視線に、別の意味で心臓が痛くなった龍麻だった。


(服装のセンスはともかく、カッコよくなりすぎだろ!)


 黒いグラサン越しにも壬生の愛の視線を感じ取れてしまう特異体質をちょっと恨んだりもした。
 再会の瞬間は、猫の首を掴むように龍麻を捕まえた如月によって用意された。
 まさに猫の子のように壬生の前に突き出されたのだが、龍麻のわけのわからない言い訳をさえぎって、壬生はサングラスをはずすと、口元でフッと笑い、龍麻の髪を軽く梳いて一言だけ言った。


「おかえり、龍麻」


 その言葉にどれだけの想いがこもっているのか、気づかない龍麻ではなかった。
 百万の言葉より大切な想いに、龍麻も笑って応えた。


「ただいま、紅葉」


「最初からそういえばいいんだよ。今は全員東京にいるからね。連絡済の蓬莱寺くんと美里さんは後回しにするとして、恨み言を聞かされるのは覚悟しておくんだね」


「だー意地悪いな翡翠は、性格さらにひねたんじゃねーの」


「……誰のせいだと思っているんだか」


「如月、龍麻だって反省しているんだし、もうそのぐらいしてあげても」


「あいからず、君は龍麻に甘いな」


「人のことは言えないんじゃないか」


 学生時代よりも親密になっているふたりに、龍麻は唖然とした。
 いっしょにいた京一はほとんど変わらないし、黄龍の器として一度は神を受け入れた龍麻はあの頃から成長が遅くなっている。
 だから空港で学生と間違われて拉致され、再び学生服を着るはめになったわけだが、忍者のコスプレ――いや、如月は本物の忍者だが――で、相変わらずの素っ頓狂な招き猫マニアを余すところなく、再開してからも見せられていた龍麻は、二人の会話を聞いて5年という歳月の重さを初めて考えた。


(もしかして、俺より新密度上がってる? なに、俺抜きで、ふたりができちゃったとかありえねー? その場合、やっぱり俺が身を引くわけ?)


 そんなわけはない。
 商売柄、二人で会う時間が必然的に増えたことと、同じ人間を愛する同士として、5年間放置された時間を龍麻の話題で互いに埋めていたのだ。
 それは親密度は上がりまくりだろうが、愛ではなく、友である。


「龍麻、具合が悪いのかい。何か温かいものでも作ろうか?」


「放っておきたまえ。変なことを考えたに決まっている。まったく君という人は」


 とりあえず、恋人たちの正式な再会は無事に済んだ。
 それから二月まで昔の仲間へのあいさつ回りで大変な日々で、結局三人とも恋人らしいことは何もできなかったのだった。


「というわけで、チョコレートケーキを作ろうと思う」


「何がというわけなのかはわからないが、どういう風の吹き回しだい? たしか君はチョコレートだけは他人に渡さない主義だったと思うが。まさかついに蓬莱寺君に頼み込まれて作るようになったなんていうのなら、僕にも考えがあるよ」


「なんで、俺が京一にチョコなんて作ってやるんだよ、もったいない」


 如月家の台所で、龍麻は真剣に顔をしかめた。


「そうだな。君はそういうひとだ。ではなぜだい?」


「学生時代、男の手作りチョコなどいらねーと言い張っていた俺は心が狭かった。美味ければ手製に男女の区別はない!」


「まあ、それはそうだね。壬生が聞いたら喜んで凝ったチョコレートを作るだろう」


 その時は、ホットチョコレートをさりげなく出したという話を壬生から聞いていた如月は深く頷いた。
 家事全般が万能というより趣味である彼の苦悩は深かったなと、如月は高校時代を振り返って笑みを浮かべた。


「それだよ、それ! 俺ばっかりもらうんじゃ悪いだろ。やっぱせっかくのバレンタインなんだし」


 龍麻が言うと、如月は一瞬固まったが、すごい勢いで台所に入ると龍麻の額に手を当てた。


「いったいどうしたんだい、龍麻。熱があるんじゃないか? 君がそんなことを言い出すなんて!」


 イベントに興味が薄く、ジャイアニズムを実践し、特にチョコレートには目がない龍麻の台詞とは思えず、如月は本気で龍麻の体調を心配した。
 このあたりは、手芸妖怪仕置き人と大差がない。


「だーっ! 俺だってたまにはイベントにあやかりたくなるときもあるんだよ! 5年だぞ5年! そりゃ俺が悪いんだけどさ、俺だって寂しくなかったわけじゃないんだからな!」


 正直に言えば、修行の間はふたりのことは忘れていた。
 でも、きっと待っていてくれると思ったから、修行に打ち込めたのだ。
 自分がここにいるというだけで十分だと言われても、何かふたりに喜ぶことをしてやりたかった。


「……龍麻、きみってひとは……」


 如月は赤くなると、龍麻の唇に軽くキスをした。


「期待しないで待っているよ。壬生には今年はチョコレートを受け取ってくれるらしいが、ケーキはやめておくよう伝えるよ」


 それだけいうと、秘拳黄龍をくらう前に如月は居間に避難した。
 取り残された龍麻も真っ赤だった。


「忍者め、どこでアメリカナイズされやがった」


 ケーキを焼きながら、龍麻はぶつぶつと呟いた。
 龍麻は人よりも成長が遅い。だが、残された時間はおそらく二人よりも短いだろう。
 それが器の宿命だ。
 だからこそ、緋勇家は女が継ぐのだ。
 器ではないものが。
 そのことを、半身である壬生も、四神の中でも最も黄龍に近い玄武たる如月も、口には出さなくても気がついているのだろう。
 不完全な陽の器として生まれた龍麻には、黄龍の力はその命を削る方向へと働いている。
 完全な器だったなら、龍麻は人ではなくなっていただろう。
 限りある短い命でも、龍麻は人でありたかった。
 この5年間の修行は、少しでも力を制御して命の消耗を遅らせるためでもあった。
 本当はずっと3人でいっしょにいたかったのは龍麻も同じだ。
 だが、長く共に生きるために、修行はどうしても必要だったのだ。


「ま、運命なんてものに、最後まで従ってやる気はないけどな」


 だから、龍麻は最後まであがくのだ。
 なによりも、愛する人たちのために、龍麻は何一つ諦めはしない。


 バレンタインデー当日。
 如月家の居間は見えない嵐が吹き荒れていた。


「何故、君がここにいるんだ」


 言外に家主の自分は呼んでないと主張する如月は、龍麻にどことなく似ているが、人外の美貌の少女を睨みつけた。
 緋勇麻麟。彼女は龍麻の従妹であり義妹でもある。
 中学生にしか見えない外見ながら、恐ろしいことに龍麻とは二つしか違わない。
 高校時代からの如月の天敵だった。


「ふーん。ひーちゃんの手作りのチョコレートケーキをバレンタインに食べる権利は、私にももちろんあるはずでしょ、ね? ひーちゃん」


「そりゃ、まあ。麻麟が食べたいって言うなら何でも作るぜ」


 シスコンの龍麻は久々に会った妹にメロメロだった。


「龍麻?」


 如月の無言の問いに、龍麻はふるふると首を振った。
 いくら恋人のように義妹を溺愛する龍麻とはいえ、この場に麻麟を呼ぶほど無謀ではない。


「なら壬生か。どういうつもりなんだい、君は」


「え? 麻麟さんが今年のチョコレートはどんなのか聞いてきたから、龍麻と如月とバレンタインパーティーをするんだって言っただけだけど。いけなかったかい」


 実は壬生と麻麟は親友で、毎年バレンタインにはチョコレートを麻麟に送っていた。ちなみに、ホワイトデーには壬生にクッキーが送られる。
 反対じゃないかと突っ込んではいけない。
 麻麟は龍麻以上のチョコ好きなのだ。


「だが、今日は!」


「翡翠、紅葉は天然だから」


 肩に手を置いて首を振る龍麻を見て、如月はガックリとうなだれた。
 目の前ではすでに、いかにも仲良さげに歓談する壬生と麻麟の姿がある。


「壬生。報復はさせてもらうことにするよ」


「お手柔らかにな」


 いきなりクナイを研ぎだした如月を無視して、龍麻は自慢のチョコレートケーキを差し出した。


「うっきゃあー美味しそう! ひーちゃん天才!」


 人形のように整った外見を見事に裏切るリアクションで麻麟は褒め称えた。


「チョコレートクグロフかい。これは見事だよ。腕を上げたね、龍麻」


 クグロフとはマリーアントワネットが考案したケーキだと言われるが、そのクグロフをチョコででコーティングしたケーキは、外見は見事なできばえだった。
 とある場所での調合作業が結果的に料理の腕を上げたらしい。


「味にも自信はあんだぜ、その前に、お前のも出せよ」


「今回はブランデー入り生チョコにしてみたんだ。どうかな?」


 綺麗に盛られたひとつを口に含むと、ブランデーの香りとチョコレートの甘さが口の中で交じり合って溶けた。
 腕を上げたのは壬生も同じだった。
 龍麻は口にチョコを含んだまま、壬生にキスをして舌を絡ませた。
 キスは当然チョコの味だった。


「た、た、た、龍麻!」


「極上だな」


 場所を選ばない龍麻の行動に、いつも無表情の壬生の顔が百面相している。
 少し離れた場所で、麻麟は口を押さえて赤くなっていた。
 クナイを研いでいる如月は気がついていない。


「如月、いつまでもそんなもの砥いでないで、俺の自信作を味わえよ」


「わかったよ。……ところで、何故そのふたりは奇妙な格好をしているんだね?」


「ま、たまにはいいじゃん。面白いし。麻麟も紅葉もそろそろ元に戻れよ」


 誰のせいでと、二人の視線は少し冷たかったが、おとなしく無言で切り分けられたチョコレートクグロフを口にした。
 途端に三人の時が止まった。


「「「美味しい!!!」」」


 異口同音に叫ぶ三人に、龍麻はにやりと笑った。


「俺の実力思い知ったか」


 高笑いする龍麻に、三人とも何も言わずケーキを食べ続けている。
 もともと3人とも甘いものは嫌いではない。
 それが龍麻の作ったものならなおさらだ。


 そんな彼らを見ながら、龍麻は口の中で小さく呟いた。


「いつまでも、こんな日が続けばいいのにな」


 好きな人と、ずっといっしょに平和に生きること。
 それだけが、幼い頃から龍麻が夢見た全てだった。
 龍麻は願いを叶える神を信じない。
 だから、自分に誓った。
 ずっといっしょにいようと。


 望んだ全てが、ここにあるから。




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2005年のバレンタイン記念フリーSSです。
ご自由にお持ち帰りください。
時間設定としては、九龍妖魔学園紀の黄龍の後ですね。
九龍妖魔学園紀と関係ない話なので魔人に入れます。
麻麟はオリジナル設定の龍麻の従妹で何故か壬生の親友で如月の天敵です。

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