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亀更新で二次創作やおいを徒然なるままに書き散らすブログです。ジャンルは様々気が乗った時に色々と。基本は主人公受け強気受け兄貴受け年下攻めで。でもマイナー志向もあり。
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バレンタインです。
壬生×龍麻で、如月×龍麻。
如月は匂わせる程度ですけどね。

 その日は、戦闘の時だってこんなに緊張しねーよと内心冷や汗がダラダラと出るほど張り詰めた雰囲気が朝から漂っていた。
 かつて、これほどまでに緊迫した状況に追いこまれたことがあっただろうか。
 思わず反語表現を使ってしまいました。
 先生褒めてください。
 犬先生は国語担当じゃないや。
 それはともかく、冗談でなく生命の危機を何度も乗り越え、生死の境をさ迷ったことさえある緋勇龍麻十八才乙女座A型は、かつてない戦場を前に、はっきりいってかなり腰が引けている。
 いいから、俺を家に返してくれ。
 そんなささやかな呟きも虚しく、誰かがまた宙を舞う。
 帰れ、お前ら。


 朝食ヌキの龍麻の朝はコールタールのように真っ黒な泥水コーヒーではじまる。
 よくあることだが、いつものように金縛りのせいで強張っていた身体をほぐしながら、かなり温めのコーヒーに口をつけようとしたら、いきなりカップが割れた。


「ふ……不吉な」


 ノリで呟いたが、龍麻の人生自体不吉でないことがあまりないので、特に気にしなかった。
 虫の報せとかが日常的にある世界で生きてるが、あんまりありすぎるので全部無視することにしている。
 そんなことはどうでもよく、汚れたテーブルを片付ける手間の方が龍麻には問題だった。
 この時点では、今日という日がどういう意味を持つのか、まったく気付いていなかった。
 わかっていれば、なんの警戒もせず登校することなど絶対しなかっただろう。
 真剣に逃亡の手はずを考えたはずだ。
 気がつかなかった龍麻に罪はないが、かなり迂闊だったことは確かである。


 何故なら、今日は二月十二日の金曜日だからだ。


「ひーちゃん! 俺は信じてるぜ!!」


 扉を引くと同時に叫びながら抱き付いてきた木刀赤毛サルに、条件反射で技を決めてから、龍麻はようやく教室中、いや、学校中が熱気と殺気であふれていることに気がついた。


「なんだ、こりゃあ」


「ひーちゃん。愛がいてーよ」


「醍醐……なんか、変じゃねぇ?」


「かまってくれよぉ」


 泣きが入ってる京一を無視して、困ったような顔で固まっている醍醐に向かって小首を傾げると、醍醐の身体の陰から小蒔が飛び出してきた。


「ひーちゃん! もうもらった?」


「おはよう小蒔。って何を?」


「何って……ひいちゃん、もしかして気付いてないの?」


「意味がわからん」


「チョコだよ。チョコ! ガッコ来る途中とかさ、渡されたりしなかった?」


 焦れたような小蒔の言葉を聞いても、龍麻はピンとこなかった。
 小蒔がいきなり宇宙人にでもなったような気がした。
 女という生き物は、時々理解不能なことを言い出す。
 小蒔はまだわかりやすい方だったのに、彼女もやはり女だったのかと失礼な考え、しばし黙考したあと、ようやく言葉の意味を理解した。


「もしかして、バレンタインか?」


「他に何があるのさ。下馬評トップのひーちゃんなら、雪崩のように押しかけられてもおかしくないと思ってたんだけどな」


「ひーちゃんは硬派なんだよ! 第一な、超絶辛党のこいつにチョコなんて贈って喜ばれるわけねーじゃねえか。な、ひいちゃん?」


「だが、龍麻はチョコなら食べると聞いたが」


 醍醐の一言で、教室が静まり返る。
 ずっと聞き耳を立てていたらしい、女子連の瞳がキラキラとというよりはギラギラと血走ってる気がするのは気のせいだろうか。
 遠巻きに彼らを見つめる男子たちは、諦めにもにた空虚な笑いを張り付かせ、こっそり溜息をつくものもちらほらと見られる。
 女子にとって、バレンタインは本気と遊びが交錯する一大イベントだが、男にとっては勝ち組と負け組がこれ以上ないぐらい明かとなる複雑な日なのだ。
 本気で欲しくなくてもモノ欲しそうに見えないようにするのに苦労するし、誰にももらえないのは、なんだかんだ言ってもかなり寂しい。
 ギリチョコだって、それがたとえチロルチョコでももらえると嬉しい、男とは哀しい生き物だ。
 だが、このクラスでは、バレンタインは彼らとは無縁のイベントだった。
 下級生に圧倒的人気を誇る剣道部主将の蓬莱寺京一、頼り甲斐がありながらなんか可愛いと評判の醍醐雄矢、そして、春に転校してきてから、学校中の視線を集める辛口美少年緋勇龍麻、ついでに桜井小蒔の人気も裏ではかなり高い。
 そんなメンツが揃っているクラスで、本命どころかギリすらあやしいC組男子の気分はすでに葬式だ。
 進路のことなどどうでもいいい気すらしてくる。
 妬む気力すらなくしたその他男子たちは、もはや生きる屍だった。
 合掌。


「なんで、そんなことお前が知ってんだよ! 俺きいてねーぞ、ひーちゃん!」


「あ、いや、俺もたまたま食べてるのを見かけた時聞いただけで、他意はないぞ」


「そこで念を押すとこが怪しいだろ! なんで相棒の俺がしらねーのに、醍醐が知ってんだよ! 冷てーじゃねぇか」


「バカかお前は。知ってたけど」


「あれ? 京一知らなかったんだ。ひーちゃん、甘いもの苦手だけど、チョコだけは大好物なんだよ」


「こ……小蒔まで知ってて、なぜ俺が知らねぇ」


 醍醐でさえ知ってるのにという呟きに、ちょっと傷ついたらしく、たそがれている醍醐に同情した小蒔が、京一をひっぱたく。
 スパパーンっという、気持ちのいい音がなりひびく。
 蓬莱寺京一───彼は一日最低一度は小蒔か杏子にひっぱたかれている。叩いている当人たちの意見では、拳でないだけありがたいと思えということだ。


「あんたと醍醐くんをいっしょにすんな! 醍醐くんに失礼だぞ。下心まるだしの京一とはちがうの!」


「下心ってなんだ! 俺のひーちゃんへの愛は純粋だ!」


「嘘つけ! 不純の塊のくせに! ひーちゃんが穢れるからくっつくな!」


「さ、桜井、もうそのへんで」


「醍醐くんは、黙ってて!」


 愛ってなんだ。友情はどうしたよ。
 下心はないが、龍麻への友情が純粋とも言いきれない醍醐はおろおろと右往左往する。


「殺気だってる理由はわかった。が、何故今日?」


 バレンタインデーは明後日だ。
 龍麻の疑問に、三人はちょっと口をあけたまま固まる。


「当日は日曜だもん」


「龍麻の家にたどり着けたものがいないのは有名な話しだしな」


「呼ばれないと、俺たちだって行けねーんだから、普通の女にはムリだろう」


 龍麻は新宿内のあるアパートで自炊をしてるが、何故かそこを探すことができたものはいなかった。
 住所が示す場所をどうしても探せない。
 理由は龍麻も知らないが、龍麻が案内しない限り誰もアパートには着けないらしい。
 住んでる住人が皆怪しいので、別に俺のせいじゃないよなと龍麻は思っている。
 住人同士の交流は皆無なので、真相は霧の中だ。


「明日も休みだし、みんな、今日にかけてるんだよ」


 まさに決戦の金曜日というわけか。


「しかしなぁ、俺ひとつももらってないぜ。それにさ、俺女の子にもてたことないし」


 なんだと、おりゃぁぁぁぁ! どの口がいいくさるんじゃぁぁぁぁ!!! というその他男子の心の叫びは龍麻には当然聞こえない。
 女の子にもててる自覚は、本気で龍麻にはなかったので、下馬評トップというのは納得がいかなかった。


「ひーちゃん……本気なんだね」


 溜息をつく小蒔となんともいえない困った表情の醍醐と何故か嬉しそうな京一。
 龍麻の筋金入りの鈍さはわかっていたはずだが、よもやここまでと小蒔はあきれたし、醍醐はちょっと複雑───何が複雑なのかわからないところが───京一の考えてることは、誰にでもわかる。


「いや、だって、俺バレンタインにチョコなんてもらったことないし、妹の麻麟はくれたけど、今年は修行中でいないし、俺とは無縁のものだと思ってたから、マジで忘れてた」

「そんなわけ……う~ん、あるかも」


「だろ? 俺に声かける女なんて、普通いねーよ。京一につきあってナンパしても、みんな固まるしさ」


「いや、それは……」


「ちょっと……ううんっと……かなり違うんじゃ」


 龍麻の容姿は言われてる美少年という形容に似合う繊細なものではないが、かなり整った部類に入る。
 どこか硬質で、人形のような冷たさがあり、悲現実的なのだ。
 かなり大雑把で適当な性格を知っている彼らでも、気を抜けば見惚れてしまう。
 免疫がなければ、それは固まるだろう。


「女にはひーちゃんの魅力はわかんないんだよ。気にすんなって。ひーちゃんには俺との熱い友情があるだろ」


「真神一の女好きに言われてもなっていうか、暑苦しいからやだよ俺」


「何いってんだよ、ひーちゃん! 俺は生まれ変わったんだぜ。ひーちゃんとふたりで己を磨くことを誓ったんだ。本命以外には、もう手を出さねーよ」


「はあ、そりゃエライエライ。いつまで続くのか知らんが、本命なんていたんだお前。俺に宣言しなくてもいいけどよ」


 それはきついぞ龍麻。醍醐と小蒔は思ったが、京一は気にせず、龍麻の手を握る。
 すかさず叩かれたが。


「聞きたいか?」


「いや、別に」


「俺の本命は─────」


「誰なのかしら?」


「み……美里」


「なんだ、葵が本命なのか、わりと身の程知らずだな京一」


「ちっ……ちが─────うぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」


 いつのまに来ていたのか、龍麻の隣にちゃっかりと佇む菩薩眼は、おとくいのアルカイックスマイルを京一に向ける。


(目が、目が笑ってないよ、葵)


 内心怯える小蒔だったが、フォローする気はまったくないらしい。
 所詮ふたりは親友だった。
 最大の敵を前に京一は内心怯んだが、弱みを見せるわけにはいかないと余裕の笑みを……形だけ見せる。
 一般女子は怖るるに足らず。
 いくら決意を固めたからといって、この菩薩様を敵に回す勇気があるものは学園内にはいまい。
 裏密あたりが怪しい薬入りなどを渡しそうだが、よもや龍麻がアレを選ぶことなどあり得ない。
 おそらく仲間内女子で龍麻との親密度最高値のミサをライバルリストから外した京一は、龍麻の行動を一番知らないのかもしれない。
 その頃、ミサは、鳩の血入り(他いろいろ)チョコレートという予想に違わぬ怪しいしろものを用意していたが、それは京一用だった。
 京一に惚れてるわけじゃないのだが、ミサは京一がお気に入りだ。
 めくるめく邪妖の世界へのパートナーに怪しい実験などする気は、とりあえず今のとこミサにはなかったので、龍麻用には鳩の血しか入れてない。
 場面を戻して、見詰め合う京一と葵は、はたから見てるだけなら美男美女で、お似合いと言えないこともない。
 なんだか、少女マンガの一シーンのように美しくはまっている。
 事情を知らないものが見ればの話しだが。
 内幕を知ってる小蒔と醍醐は、思わず手を取り合ってしまい、ふたりしてちょっと赤くなるという可愛らしい光景を演じていたが、それはたぶん現実逃避だろう。
 当事者の龍麻は、どうでもいいから、はやく帰りたいと、先を思って憂鬱だった。
 女の子にもてた記憶はないが、世界をかけて供に戦った仲間たちが皆いかれていることは龍麻も十分承知している。
 京一の気持ちもよくわかっているが、言葉にしない気持ちを察してやる気はまったくないので、葵の存在はありがたかった。
 イベントで片付けられたくないのだ。
 その時自分がどうするかは知らないが、勢いで告白されても受ける気は100%ない。
 寒い微笑を応酬するふたりをチラっと見て、葵の耳元で呟いた。


「葵を選ぶべきなんだろうけどな」


「いいのよ。わたしは」


 葵は小さく笑った。


「そこで、世界をつくるな!」


 京一の叫びが虚しく教室に響く。
 

 緋勇龍麻受難の一日の、これが幕開けだった。


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