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亀更新で二次創作やおいを徒然なるままに書き散らすブログです。ジャンルは様々気が乗った時に色々と。基本は主人公受け強気受け兄貴受け年下攻めで。でもマイナー志向もあり。
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ここから「告白」の直後の話になります。

 何もかもが最低だった。



 身体は軋みをたてて、昨晩の行為の無慈悲さを訴えているし、目眩と貧血と吐き気で、怒りの言葉さえ出てこない。
 殺しててでも抵抗すればよかったんだと言われれば、まったくその通りで、今まで三蔵は自分に手を触れようとした男たちを生かして帰したことはなかった。
 どんなに不本意だったとしても、逃げなかったのは自分だ。
 それでも、許す気は当然なかった。
 自分勝手な理屈で自分を抱いた男の始末をどうするのかは、目が覚めてから考えようと思っていた。
 疲労と、痛みで、身体が熱を帯びているのが、自分でもわかる。
 事実だけをみれば、三蔵は一方的な被害者とは言えない立場だ。
 言葉だけとはいえ、悟浄を受け入れるようなことを口にした気がする。
 悟浄が例外だったわけじゃない。それは絶対に違う。
 抱かれたかったと思ったことなど一度もなかった。
 一瞬でも、抱きしめられたいと感じてしまった相手は、悟浄ではないのだ。
 最低だ。
 血と精液の匂いがする布団に沈みながら、三蔵は小さく呻いた。
 隣で暢気に寝ている男は、本当に満足そうに見えて、沸々と殺意が沸いてくる。
 なら、何故自分はこの変態の強姦魔をさっさと撃ち殺さないのか。それは多分考えても無駄だ。昨夜殺せなかったのなら、今起きてこいつと顔を合わせても、弾はきっとそれるだろう。
 悟浄を殺せないとは思わない。
 考えるまでもなく、あの三人の中で一番最初に殺すとしたら、悟浄に決まっている。
 莫迦で、猥雑で、いつだって碌なことをしでかさない男だ。
 しまいに、三蔵を強姦までしやがった。
 女日照りのせいか、苛ついていたのも、おそらくは欲求不満だったのだろうとは簡単に予測がつくが、悟浄が自分を求めるとは考えたこともなかったのに、何故こんな状況にあるのだろう。
 もういっそ呆れるしかない。
 許さないと決めたが、怒りはもうなかった。
 あれは、事故のようなものだ。そうとしか思えない。
 睦言のように囁かれた戯言を、三蔵は一欠けらも信じていなかった。
 悟浄との行為は、セックスなどじゃなかったと思う。
 別段戒律を真面目に守っているつもりはなかったが、三蔵が性に対する興味が薄いのは確かなことで、この顔に釣られた下種どもに言い寄られた以外、まともな経験などひとつもなかった。
 それでも、あれは違った。
 悟浄がどう思っていようと、あれはただの屈辱的な暴力だった。
 自分が人形になったような気がした。
 意思もなく、ただ男に揺さぶられるだけの抱き人形。
 そんなものに貶められた気がした。
 だが、悟浄が三蔵をそんなふうに思っているはずがなかった。
 信じているわけじゃなく、三蔵はそれを知っている。
 タイミングが悪かったのだろう。多分お互いに。
 いつもの悟浄なら、こんなことはしでかさなかっただろうし、いつもの三蔵なら、笑えない冗談として流せただろう。
 いつものように、脅しで数発撃ち込めばよかっただけだ。
 理由はどうあれ、悟浄は本気だった。
 だから、本気で殺す以外の方法などなかったのだ。
 そして自分は撃てなかった。結局それだけだ。
 あの時三蔵は、本当は悟浄を見ていなかった。
 無理やり抱かれている最中ですら、考えていたのは―――消せなかった肖像は、たったひとりの相手だった。


「なんでだ……八戒」


 悟浄を煽ったのは、おそらくは八戒だろう。
 なんとなく、そんな気がした。
 というより、それしか考えられない。
 八戒に対する怒りも嫌悪もないことが信じられなかった。
 こんな卑劣な画策をされて、それでも八戒が自分を裏切ることが想像できなかった。
 しかし、八戒は嘘をついている。
 他の誰にでもなく、自分自身に。
 何故それが判るのか、考えたことはなかった。それでも確信があった。


「おまえは、間違っている」


 八戒が何を考えているのか、わかったことなどほとんどない。
 大切な人を失って復讐のために生きているのは自分も同じだが、生きるために他人を殺すことはしても、直接関係ない人間や妖怪まで皆殺しにする狂気は自分にはない。
 その生き方を責めるつもりなどなかったが、理解できると思ったこともなかった。
 あいつのことは、何もわからない。だけど、あいつが嘘をついている時だけは、いつだってわかった。
 気がつけば、八戒のことばかり考えている自分に、三蔵はぞっとした。
 ダメなのだ。八戒は、八戒だけはダメだ。
 何がダメなのかもわからなかったが、三蔵は自分の気持ちを否定するしかなかった。


(俺は、自分をいためつけたかったのか)


 くだらない。なんてくだらないことを考えたのか。
 だが、あのまま悟浄が帰ってこなければ、確実に自分たちのバランスは壊れてしまっただろう。
 手を伸ばしそうになったのは、三蔵の方だ。
 崩したくなかった関係は、八戒と自分の位置だった。
 受け入れられていると、三蔵の奥底では八戒の視線の意味をわかっていた。わからない振りをしたのは、失いたくなかったからだろう。


 守らなくてもいいものが欲しかった。それは、変わらない)
 あの三人は強い。自分が守らなくても失われることはない。
 それは、もう失えないということなんじゃないのか。
 自覚などしたくなかった。大切な人は、師匠だけでよかったのに。
 あのサルと、ここで寝こけている河童なら、心配する必要もないし、こいつらはいつだって勝手に戻ってくるのだと思っている。
 八戒はまだ、信用できなかった。
 生きることを必ず選ぶと、それが本当には信じられない。
 いつだって、八戒に対しては失うかもしれないという恐怖感がどこかにあった。
 八戒に何を求めているのか、奴が求めるものは何か、答えは見つからない。
 そしてたぶん、自分たちはあまりにもすれ違っている。
 悟浄に犯されてようやくわかったことがある。
 本当は、八戒に求められたかった。
 抱かれたかったわけじゃない。ただ、悟空が必ず帰ってくるように、八戒の居場所は三蔵の側なのだと認めさせたかったのだ。
 傲慢な話だが、それが正直な気持ちだった。
 渡せるものは何もない。心だってやれない。だけど、側にいたかったのは、八戒の方だった。
 もし、三蔵を求めたのが八戒だったなら、きっと抵抗もなく受け入れてしまっただろう。
 心も身体も、受け入れることを喜んだかもしれない。
 それが、致命的な間違いだとわかっていながらも。
 これは、恋じゃない。
 恋愛感情でもなく、肉欲でもなく、ただ側にいたい。
 八戒に求めるものは、それだけだった。
 それだけではあったが、八戒以外では誰も変わりにならないのだ。
 悟空も、悟浄も、八戒とは違う。
 だがそれは、他の二人にも言えることで、順位を付けるようなことではない。
 自分にとっての存在のあり方が違うだけなのに、互いにそれを伝えることすらしてこなかった。
 必要ないと思っていた。


「俺という存在を、誰かのものにすれば……莫迦が……今更なんだよ」


 俺から逃げたいのかと、三蔵は八戒の気持ちを推し量った。
 八戒になら、何をされてもきっと許したのに。


「莫迦だ。お前は」


(一番莫迦なのは、俺だがな)


「あ~苦悩してるとこわりーんだけどさぁ……」


 反射的に銃口の照準を眉間に合わせたまま、三蔵はぐしゃぐしゃに乱れた赤い髪を眺めた。


「口を開くな。耳が腐る」


「ああ! そうね! 俺には謝る資格もありませんよ! というか、あやまらねぇ」


 悟浄の表情はやけに真剣だった。
 卑屈な後悔が、どこにも見えない。それはそれでむかついた。


「人をモノのように扱っておきながら、なんのつもりだ貴様」


「それについては、誠心誠意謝らせていただきます。っと、謝罪なんているかとか言わないでくれよ。乱暴だったのは悪かった。セックスは自分勝手にするもんじゃねーの。お互いに気持ちよくなきゃ意味がねー」


「貴様のしたことは、単なる暴力だ」


「否定はしねーよ。三蔵がそう受け取ったなら、それが事実だ―――けどな、一言だけいわせてくんねーかな。それさえ言えば、そのまま撃ち殺されても文句ねーよ」


 三蔵はため息をついた。


「言ってみろ。くだらない言い訳なら、望みどおり地獄に送ってやる」


「好きだ」


「そんなに死にてーか」


「ちょっ……ちょっとタンマ!」


「一言といったはずだな。未練はもうねーな。死体は荒野にさらしてやるから気にするな」


 昨晩の夜明けから、何を血迷っているのか。
 特に怒りはもうなかったが、念のために殺しておいた方がいいかもしれない。三蔵は本気でそう思った。


「実は俺サマ……惚れた相手とするのははじめてだったのよ。だから、余裕なくがっついちゃって。ホント反省している。もう絶対、あんな乱暴なことはしません!」


「貴様、なに考えてやがる」


 不穏な気配を感じて、眉間に照準を合わせたまま、三蔵はベッドの上であとずさった。
 果てしなく、嫌な予感がした。


「もう乱暴はしねーよ。ホントに、あんなことがしたかったんじゃねーんだ。ただ―――」


 悟浄は自嘲気味に言葉を続けた。


「あんたが欲しかった。他に何も考えられなかったんだよ」


 そんな言葉は聴きたくない。聞くべきじゃない。俺はこのまま引き金を引くべきだ。
 冷静な自分が命令するが、引き金を絞る指は震えたまま動かなかった。


「今だって、三蔵が欲しくてたまんねーんだ。抱きたいってだけじゃねーよ」


「そんな言葉が、理由になるのか」


「さあな。でも本気だからしかたねーさ」


「俺はお前を許さない」


「ああ。わかってる。でも俺は、三蔵が欲しい。三蔵の全部が欲しい」


「お前にも誰にも、やれるものなんてひとつもねぇ!」


「俺が欲しいだけさ。それだけ言いたくてよ」


 悟浄は三蔵の言葉を待っているらしく、銃口を向けられた視線をそらすことなく、見つめ返してくる。
 時が止まったように、三蔵は身動きができなかった。
 長い沈黙が続いたあと、三蔵はゆっくりと口を開いた。




「俺は…………――――――――――――――――――」




 夜がもうすぐ明けようとしていた。

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