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亀更新で二次創作やおいを徒然なるままに書き散らすブログです。ジャンルは様々気が乗った時に色々と。基本は主人公受け強気受け兄貴受け年下攻めで。でもマイナー志向もあり。
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それが、たったひとつの嘘だった。


「お前の嘘は、すぐにわかんだよ」


 八戒の目を真っ直ぐ見つめて、三蔵は言った。
 紫色の宝石が、八戒の嘘を責めても、口元の笑みは消えなかった。
 ただ、純粋に嬉しいと感じる。
 どんな嘘も、見破ってくれる三蔵が、狂おしいまでに愛しい。
 それでも、八戒はもう迷わなかった。


「あなたには、かなわない。でも、これが僕なんです。それだけは、あなたにも譲れない」


 罪の贖いを求めたりはしない。
 自分は嘘をつき続けるだろうと八戒は思った。
 いや、知っていた。
 嘘と本当が交じり合ってできた自分。
 それが、八戒という名の嘘だった。
 嘘でできた存在は、嘘なしでは存在し得ない。
 もう悟能には戻れない自分を知っている。
 ならば、八戒という嘘をつきとおすしかなかった。
 ただ、自分でも判別がつかない嘘を、いつだって見破る三蔵の存在が苦しく、そして大切なのだ。
 扉の向こうで得た答えは、断罪され続けることこそが本当の八戒の望みだということ。
 揺ぎ無く自分の中にある神聖な存在である三蔵を欲しいと思う気持ちは、嘘であり、本当でもある。
 だが、己の渇望の全てを捧げる存在よりも、悟浄が大事だった。
 自分が八戒でいるために、悟浄の存在を失うことはできない。
 どこまでも矛盾する想いこそが、自分が八戒であるという証でもあった。


「馬鹿だなテメーも」


「性分ですね。でもお互い様でしょう。あなたの真実は見つかりましたか?」


 意地の悪い八戒の質問に、三蔵は答えなかった。
 ただ、いつの間にかケンカをはじめている悟浄に視線を向けて呟いた。


「俺も馬鹿か」


 そういうと、面白そうに成り行きを見つめている自称愛の伝道師を無視して、じゃれあう二人に向かって立て続けに銃弾を打ち込むと、マルボロソフトの赤を一本取り出して一服した。


「あぶねーじゃねーか生臭坊主!」


「三蔵俺悪くねー!」


 口々に文句を言う二人を銃口で黙らせると、三蔵は勢いよく煙を吐き出した。


「河童は回収したし、今日中にとっとと町をでる」


「あら、もう夕方よ、もう一日ぐらい泊まってけばいいのに。楽しかったし」


 すべてが分かった今も無邪気に笑う彼女を、一瞥もせず三蔵は素通りした。


「真実なんてものは、人に見せられても意味ねーんだよ。愛とやらに答えがあるとは思えねーが、探したいなら自分の真実を探すんだな」


 苦笑すると、彼女は八戒に話しかけた。


「素直じゃないわね、彼」


「素直な三蔵なんて、三蔵じゃありませんよ」


「あら、のろけ?」


「僕はあなたがやりたかったことに興味はありませんし、個人的には感謝もしてますけど、三蔵を傷つけることを許すつもりはないですよ」


「悟浄と違って複雑ね。あなたも彼も」


 彼女は妖艶な美貌を子供のように綻ばせたまま、八戒に語りかけた。


「私の欲しいのは、愛という感情が生み出すサンプルなの。でも、愛の伝道師を名乗る以上、愛を成就させる手伝いも勝手にしてるわ。珍しいサンプルをありがとう。あなたとあの小猿さんの愛は、それで成就しているのね」


「あなたのいう愛がどういうものか知りませんが、ええ、多分そうなんでしょうね」


 悟空と三蔵の絆は、余人が入る隙間がないが、悟空は三蔵が欲しいわけじゃない。
 そして自分は――――――


「八戒、置いてくぞ」


「ああ、今行きます。じゃ、さようなら愛の伝道師さん。もう会わないことを祈ってますよ」


 祈りなどとおに捨てた口で、八戒は微笑んだ。


「私は愛の伝道師。新たな愛を求めて旅に出るわよ。じゃあね。幸せな罪人さん」


 八戒が振り向くと、その姿はどこにもなかった。




 宿に戻って用意を済ませると、八戒はジープの運転席におさまった。
 ぎくしゃくした雰囲気はなかったが、何かが確実に変わったことを、八戒は不安を感じながらも、何かを期待している。


「今出れば、次の町にはつくかもな」


「かも? かもなのかよ」


「三蔵、俺腹減ったー」


「やー、また僕たち夕日に向かって走るんですねぇ」


「八戒、寒いぞ」


「うるせーよ。さっさと行け」


 自分たちは、いつも夕日に向かって走っているのは本当だ。
 西へ、西へ、その先に何があるのか、本当にはわからない。
 だがこのたびが、牛魔王の蘇生実験の阻止だけが理由ではないことは、もう誰もが分かっている。
 三蔵なら、運命などくそくらえだと言うだろうが、自分たちの出会いにも、この旅にも、何がしかの作為が隠されていると八戒は思う。
 聡い三蔵は気がついているはずだ。
 だが、確信がとれないことを口にしないもの三蔵だった。


「ねえ、三蔵」


「ああ?」


「僕たちは誰もあなたより先に死なないから安心していいですよ」


「ついに悟浄の馬鹿が伝染したのか」


「きついですねー。本気ですよ」


「……おまえらが死なねーことぐらい、とっくに知ってんだよ」


 微かな痛みが胸に走ったが、八戒は笑顔を崩さなかった。


(あなたより先には絶対に死なない)


 それが、三蔵にも見破ることのできない、たったひとつの嘘だった。


(いつか、この嘘が本当になるように)


 八戒はジープを西に走らせた。

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長らくお待たせしました。
ようやく完結です。
そして、次は三蔵視点の「真実」と繋がります。
時間は並行してますけどね。
よろしかったら、感想などいただけると嬉しいです。

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