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亀更新で二次創作やおいを徒然なるままに書き散らすブログです。ジャンルは様々気が乗った時に色々と。基本は主人公受け強気受け兄貴受け年下攻めで。でもマイナー志向もあり。
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謎の女再登場。

 目が坐っている。
 苦虫を噛み潰したような不機嫌な表情を隠そうともせず、らしくなく三蔵の視線は空をさ迷っている。
 内心のイライラをぶつける対象が存在しないことが、余計に三蔵の神経を逆撫でしているのだろう。
 誰に対してムカついているのか、わからないことにムカつく。
 そんな表情だった。



 病人を興奮させるのはよくないが、ではこの現状をどうすればいいのか、困るべきか、それとも素直に面白がるべきか、八戒は悩んでいた。
 食事が並べられたテーブルを囲んでいるのは4人。
 紅い髪の青年のかわりに三蔵の正面に座っているのは、黒髪に紫眼のゴージャスな美女。
 非の打ち所のない完璧な笑顔は、何故か挑戦的で、三蔵の苛立ちは紛れもなく彼女に対するものだろう。


(もしかして、喧嘩を売ってるんでしょうかね)


 やたらと高まる緊張感をものともせず、悟空は食事の攻略にかかっている。
 三蔵の熱が下がって、とりあえず安心したらしい。
 苦虫を噛み潰したような表情の三蔵は、軽く舌打ちをして、女から顔をそむけている。
 つい先ほどまで寝こんでいたとは思えないぐらい、いつも通りに傲岸不遜な三蔵の態度に、心の中だけでため息をついて八戒は笑った。


(やせ我慢が、得意な人ですから)


 それでも、意地を張れる程度には回復したということだろう。
 得体の知れない相手に弱みは見せられないということだろうが、やはりどこか三蔵らしくないきがして、八戒はチリチリとした痛みを持て余す。
 三蔵が視線を外す理由。
 三蔵が見たくないのは、おそらくは、彼女ではない。


「冷めるわよ」


 少し厚めの唇に浮かぶ微笑は、なんだか例の菩薩のようでもある。
 何を考えているのか、余人には窺い知れない、そういう笑み。


「食事をしてからと言ったな」


「ええ、ご飯は温かいうちに食べるのが一番よ」


「冷めたらマズイもんな」


「誰がそんな話をしてんだ! てめーは黙って、メシでもくってろ!」


「くってんじゃん! 三蔵こそ一口ぐらいくっとけよ。ずっと食べてないんだし、ハラへったら力でねーぞ」


「ハラが減っては戦にならないわよ」


(するきなんですか)


「そうそう」


「だから、そういう話しじゃねぇだろうが! 頷いてんじゃねーよ! このバカザルがぁぁぁ!!」


 元気になってよかったと、ここは喜ぶべきだろうか、笑いながら八戒はやはり悩んでいた。



「バカはどこだ」


「食事はまだ終ってないわよ」


「俺は終った」


「っていうかさ、あんた誰?」


「あたったら、ご褒美というパターンかしら」


「その場合、商品は……」


「ゴキブリ野郎のことなら、どうでもいいがな、どういうつもりなのかは、一応聞いといてやる」


「なんで、ゴキブリなの?」


「触覚があるから!」


「生命力が強そうというのもありますね」


「だから、それはどーでもいいだろうが!」


 キレた三蔵がテーブルを叩くと、女はイタズラっぽく唇を吊り上げると、首を傾げた。


「求めない人に与えてあげるほど、優しくないのよ私はね」


「それは、誰のことですか」


「誰だと思う?」


 求めることに臆病なのは、悟淨も自分も、そして三蔵も同じだろう。
 どういうつもりなのか、彼女の意図が読めない。
 自分たちへの敵意が欠片も感じられないことが、かえって落ち付かない気分にさせる。
 敵意ではない挑発。
 それは、なんのためなのか。
 名すら明かさないこの女性が、ただの女であるはずもなかったが、どうにも警戒心を削がれてしまう。


「悟淨に近づいたのは、なんのためです」


「世の中には偶然ってけっこうあるものよ」


「”三蔵”の仲間だから、ですか」


「だから、偶然って、けっこうあるものなのよ。私だって、紫の目の人が”三蔵”だったのには驚いたわ」


「なんだ、それは」


「悟淨と私のひ・み・つ」


 遊ばれているらしい。
 悟淨をキーワードに、三蔵の神経を逆撫でして面白がっているようだが、それで反応する三蔵の心の動きに八戒は虚心ではいられなかった。
 悟淨は知らないだろう。
 三蔵の抱える脆さに、悟淨は気がつかない。
 悟淨が惹かれるのは、三蔵の強さだから、そして三蔵も悟淨に弱みを見せるようなマネをしたことはないはずだ。


(あなたが、僕にその脆い心を見せる理由はなんですか)


 三蔵自身が望んでいるはずもない弱さに、どこかで期待してしまう。
 求められているのではないかと。


(浅ましいですね)


 頑なに前に進む強さに焦がれたのは本当だったが、この執着の源は、きっと時折見せる儚さのせい。
 三蔵自身気がついてはいない心の揺れに、八戒はどうしようもなく惹かれてしまう。
 望んだものは、なんだったのか。
 まばゆい金色の光を手に入れられるかもしれないという誘惑に、本当の願いを忘れてしまいそうだった。
 本当の願い。


(あなたの、望みはなんですか―――)


 それは、誰への問だったのか。


「時間稼ぎは、いい加減にしてもらおうか。俺に言いたいことがあんなら、さっさと言え」


「それは私の台詞よ。言いたいことがあるんでしょう。あなたが」


「お前に言う言葉はねーな」


「私には? じゃ、あるのね、言いたいこと」


「さあな」


「なー、さっきから何いってんだよ。ぜんぜんわっかんねーよ」


「バカは黙ってろ」


「なんだよ、それ!」


 言葉―――三蔵が倒れた理由。
 伝えたい言葉と、欲しい言葉。


「僕らはみんな悟淨が好きなんです」


「はぁ?」


「八戒、三蔵の熱移ったのか?」


 突然の八戒の発言に、三蔵と悟空だけではなく、謎めいた笑みを浮かべたままの女性も固まっている。


「だから、悟淨がいないとダメなんです」


「帰ってきて欲しいの?」


「ええ、とても」


 胡散臭いぐらい爽やかな笑顔で、八戒は答えた。



「俺は言ってねーからな」


「わかってますよ。悟淨が好きなのも、悟淨に帰ってきて欲しいのも僕だけということで、悟淨にはそういうことにしときますから、後は自分でなんとかしてくださいね」


「おまえは、どういうつもりなんだ」


「僕は欲が深いので、不戦勝では満足できないんです」


 逃げ場所として八戒を選ぶならば、三蔵は自分自身を許せないだろう。


「どうせなら、ちゃんと欲しがってもらいたいですから」


「どいつもこいつも、バカばかりだな」


「褒め言葉として受け取っておきます」


「それにしても」


「ええ、反応に迷いますね」


「すっげー! なにこれ! おっもしれー!!」


「動物は、簡単でいいな」


「ははははは」


 目の前に扉がある。
 部屋の真中に、裏も表もない、扉が一枚、そこに佇んでいる。
 なんだか間抜けな光景だが、女は笑顔で手招きする。


「夢の扉に、いらっしゃ~い」


 宿屋の部屋の真中に扉がある理由とか、どうやってそんなもん持ちこんだんだとか言う前に―――開かれた扉の向こう側に広がる怪しい空間はなんなのか。


「これ、なんだか聞いても良いですか?」


「企業秘密よ」


「嘘くせー」


 うんざりしたような三蔵の呟きには八戒も同感だったが、彼女の思惑はどうあれ、乗ってみないことには悟淨を返すつもりがなさそうなので仕方がない。
 これは多分、ゲームなのだ。
 賞品は悟淨なのだろうか、それとも、悟淨もまたゲームの駒のひとつなのか。
 キーワードを握っているのは、彼女ではなく、三蔵なのかもしれない。
 少なくとも、彼女が誘っているのは、三蔵だけだ。


「ルールは簡単。扉の向こうにいるはずの悟淨を見つけて帰ってくるだけ。ただし、1度通ったらこの扉は消えてしまうから、そのつもりでいてね」


「ええ! それ、帰ってくんの、どーすんだよ!」


「帰りの扉は悟淨が持ってるから大丈夫よ。でも、見付けただけじゃ、帰れないわ」


「どーゆーこと?」


「開封の呪文が必要ってことよ」


「セオリー通りだと、それは自分で探せということなんでしょうね」


「大正解! ヒントは本当の言葉ね」


「くだらねー。河童のために、こんな茶番に付き合ってられるか、俺はおりるぞ」


「怖いの?」


「なにがだ」


「本当のことを知るのが」


 三蔵の耳元に女が案が何かを囁くと、三蔵の顔色が変わった。
 甘いと思っていたものが辛かったような、そんな複雑な表情で拳を握り締めると、吐き捨てるように言う。


「見つけ出してぶっ殺す。二度と手間かけさせないように、頭の風通しよくしてやるから、あとは好きにするんだな」


「はい、これで全員参加決定ね。じゃ、いってらっしゃ~い」


「って、体当たりすんじゃねー!」


「あっ、先に行くなんて、ずりーよ三蔵!」


 身体で扉に押しこまれた三蔵を追いかけて、悟空も扉に飛び込む。
 後を追おうとした八戒の後ろを、女の笑いを含んだ声が追いかけた。


「願いは、本当じゃないと届かないのよ」


「わかってますよ」


 軽く笑って、八戒は答える。
 どこまでも落ちて行く感覚に酔って、意識が混濁し、消失した。



「俺って、もしかして、すっごくなさけねぇ?」


「反論はしませんけど」


「うぉぉ! は……はっ……八戒……なんで、おまえ」


 突然後ろに現れた八戒に驚いたのか、腰を抜かしてこちらを見上げている悟淨の姿は、本人の言葉通り、確かに情けなかったかもしれない。


(ああ、なんだか、怒りもわいてこないんですが、どうしましょうか)


 見渡す限り何もない空間に、悟淨と自分の気配しか感じられない。


「もしかしなくても一番のりみたいですけど、どういう理屈なんでしょうね」


 もう少し苦労するかと思ったが、あっけないぐらいに簡単に悟淨が見つかってしまったので、かえってどうしたらいいのかわからない。


「自覚はないんですけど、もしかして僕、ものすごく悟淨のこと愛してたんでしょうか?」


「俺に聞くか、それ」


 しゃがみこんだまま、悟淨が嫌そうに呟く。
 隣に座って、何もない白いんだかなんだかよくわからない空間をぼーと見ていると、悟淨がどうでもいいように呟くのが聞こえた。


「やっぱさ、俺、あいつ好きだわ」


「それで、いいんじゃないですか」


「お前は、それでいいのかよ」


「だって、僕が決めることじゃないでしょう」


「それもそうか」


「本音を言えば、箱の中にでも閉じ込めて誰にも見せたくないと思わないでもないですが、悟淨がいないのは、僕がいやなんです」


「それって、愛の告白かよ」


「そうかもしれませんね」


「誰かが欠けんのはさ、俺もなんか、あんま考えたくねーんだよ。これから先、ずっといっしょなんて考えただけでうんざりすんのに、お前らがいない明日って想像つかねーな」


「あなたたちと出会う今日だって、想像してませんでしたけどね」


「そんなもんかもな」


「でも、とりあえず、この状況を説明して欲しいんですけど……」


「聞きたくねーから、今すぐ死ね」


「は?」


 銃声と同時に、悟淨の髪が数本パラパラと落ちる。
 気配もなく、いつの間にか三蔵が悟淨の正面にたち、悟淨の額に照準を定めている。


「さっ……三蔵様、もしかしてお怒りですか」


「怒ってないわけないじゃないですか」


「今度ははずさねーから、よけんなよ。避けるとくらう数が増えるからな」


「おっ、おい! 頭はしゃれになんねーって。少しは俺の話しも聞けよ、いいから!」


「聞きたくねーと言ったはずだ」


 三蔵が指に力を込めた瞬間、上から降ってきた何かに押しつぶされた三蔵の手から、銃が転がり落ちる。


「あっ、悟淨じゃん」


 三蔵の背中に乗ったまま、悟空はにぱっと笑った。


「どうでもいいから、さっさと降りやがれ、このサルぅ!!!!」


 三蔵の絶叫が、何もない空間に虚しく響き渡る。
 目標物は発見したが、帰れるかどうかは、なんとなくあやしかった。

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