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亀更新で二次創作やおいを徒然なるままに書き散らすブログです。ジャンルは様々気が乗った時に色々と。基本は主人公受け強気受け兄貴受け年下攻めで。でもマイナー志向もあり。
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あなたは太陽。
あなたは月。
何故、気づいてしまったのか──

 あなたは太陽。
 迷えるものを導く、荘厳なる輝き。
 その輝きに惹かれたものの、魂さえも焼き尽くす灼熱の炎。


 あなたは月。
 人を惑わす、はかなく無慈悲で空ろな光。
 誘いながら拒絶する、切ないほどに残酷で臆病なやさしい氷。


 なぜ、気付いてしまったのか。


 なぜ──



「どうするんです、悟淨」


 自分は今、どんな顔をしているのだろう。
 どこか冷めた目で自分を見つめながら、八戒は悟淨に重ねて問う。
 八戒からそらされた、悟淨の視線は戻らない。
 冷静に観察する八戒の目には、悟淨の表情が痛みをこらえる怪我人のように見えた。


「お前はどうする気だって聞いてんだろ!」


「三蔵が起きますよ」


「八戒っ!!」


 悟淨に胸座をつかまれても、八戒の顔に貼りついた笑顔に変化はない。
 ようやく自分と目を合わせた紅い瞳に、八戒自身の顔が映っている。


「案外間抜けな顔してますね」


「なんだ、そりゃぁ?!」


「いえ、僕の顔のことです」


 八戒の胸元を掴んだまま、悟淨が力尽きたようにずり下がってため息をつく。
 事態が悟淨の頭の許容範囲を超えたらしい。
 相変わらず、わかりやすい反応だ。


「わけわかんねえよ、お前……」


「そうですね。僕にもよくわかりません」


 悟淨の腕をはずすと、八戒は氷水に浸してあったタオルを絞って、汗が滲む三蔵の身体を拭き清める。
 花びらを散らしたような紅い痣が、所有の印のように白い肌に刻まれている。
 事実を知っていても、痛ましい気がまるでしない。
 こうやって見ると、それはかえって三蔵の肌を彩る飾りのようにさえ思えてくる。


(あなたは、何にも汚されることは無いんですね)


 紅い模様をひとつずつ探ると、三蔵の身体が微かに震える。


(この世で一番キレイな人……)


 白く華奢な喉に手を伸ばして、軽く力を込めようとした途端、強く腕を握られて、八戒は驚いた。


「やめろ」


 八戒の腕を掴む悟淨の手が震えている。
 赤く染まった顔が、なんだか歪んで見えた。


「どうかしましたか、悟淨?」


「お前今、自分がなにしようとしてたか……!」


 どこかで見たような表情を浮かべる悟淨に、八戒は首を傾げる。
 どこで見たのだろう。


「わかってねぇのか?!」


 叫びに似た悟淨の声に反応したのか、三蔵の身体がびくっと小さく痙攣する。


「三蔵?」


 目を覚ましたらしい三蔵への呼びかけに、悟淨は弾かれたように部屋を飛び出す。
 その後姿を見つめながら、八戒は頭の遠くでかすかな記憶を手繰っていた。


(ああ、あれは――)


 昔よく見たことがある。


(――泣き出す寸前の、子供の顔――)


「悟淨……?」


 か細い三蔵の声が、冷水をかけられたように、八戒の耳に突き刺さった。
 鋭い痛みは甘くもあり、八戒は微笑む。
 きっと自分は、今までのどんなときよりも、優しい顔をしているだろう。


「目が覚めましたか、三蔵」


 八戒はそっと、三蔵の肩に手を置いた。



 八戒を確認すると、三蔵は一瞬硬直してから、もう一度目を瞑った。


「お前だけか……」


「ええ、今は」


 強張っていた身体から、ゆっくりと力が抜けていく。
 閉じた瞼が開かれる瞬間を、八戒は食い入るように見つめる。
 自分がどれほど無防備な表情をしているのか、三蔵は多分知らない。
 八戒とふたりっきりのとき、三蔵が普段とはまったく別の顔を見せることを、おそらくは本人すら気がついていないだろう。
 三蔵は凪いだ水面によく似ている。
 へたに刺激さえしなければ、一日中だって黙っているほど反応が少ない。
 最小限の言葉で三蔵の意図を汲める八戒を相手にするとき、三蔵は驚くほど穏やかだ。
 それに気がついたとき、八戒は三蔵のそばに居場所を見つけた。
 許されているという安心感に隠されて、自分が一番危険な位置にいることが分からなかった。
 真っ直ぐ八戒を見つめる紫の瞳に、いつもの苛烈な光はない。
 揺れる眼差しには、はっきりと苛立ちの色が表れていたが、三蔵は何も言わなかった。


「何も聞かないんですね」


「お前はもう、知っているはずだ」


 何をとは、どちらも言わない。


「なら、言うだけ無駄だな」


「そうですか?」


 三蔵が強い態度をとり続ける限り、八戒が迷うことはない。
 時折見せる三蔵の不安定さが、八戒の心を揺さぶる鍵だった。


「あなたは何故、悟淨を撃たなかったんですか」


「撃つ価値もねえからだ」


「撃てなかった――では、なくて?」


「どいつもこいつも、よっぽど早死にしてえらしいな」


 枕元に隠してあった銃を、三蔵は八戒の頭に押し付ける。


「あなたに、僕が撃てますか」


「死ね」


 銃声が部屋に響く。


「外れましたね」


 八戒は三蔵から視線を逸らさずに微笑む。
 少しもよけようとしなかった八戒を、三蔵は苛立たしげに睨んだ。


「……あの馬鹿は、俺の身体が欲しいと言った。そんなに欲しいならくれてやるさ。いまさらもうどうでもいいものだからな」


 それが本気ならば、三蔵がこんなにも傷ついている理由はなんだというのか。
 悟淨に陵辱されたことだけが原因ではないはずだ。
 それにしても、悟淨の気持ちは三蔵にまったく通じてないらしい。


「身体だけならくれてやる。だが、八戒――お前は俺の、何が欲しいんだ」


「何も……何もいりません」


 驚いたことに、それは八戒の本心だった。
 もう抱えきれないほどたくさんの大切なものを、八戒は三蔵から受け取っている。
 三蔵のすべてが欲しいという小暗い執着は、心の一番奥に確かに消せずに存在するが、奪い尽くし大切なものを破壊するようなことを、八戒はしたくなかった。
 それが自分の本性だとしても、したくなかったのだ。


「ただ、僕があなたにつけいる隙を、見せないでほしいだけです」


「何を言ってるんだ、お前は」


「さあ、なんでしょうね」


「やはり、死ね」


 もう一度銃を構えようとする三蔵の腕を、そっと撫でると、そのまま八戒は三蔵の顔に手を伸ばす。
 絹糸のような髪に軽く触れ、耳元から顎にかけての輪郭を指で辿る。


(ここで、撃ってくれればいいのに……)


 そう思いながら、八戒は三蔵を確かめる指を止めることができない。
 三蔵は動かなかった。
 互いの視線も外さない。
 不思議な静寂の中で、気がつけば密着といっていいほど至近距離に互いの顔があった。
 自分は今、ちゃんと笑えているだろうか。
 三蔵の瞳が軽く伏せられるのを合図に、八戒は三蔵にキスをした。
 軽く触れるだけのキスから、角度を変えて深いキスに。
 ゴトっという大きな音をたてて、三蔵の銃が床に転がり落ちる。
 勘違いのしようもなく、三蔵の舌は八戒に応えている。
 絶望にも似た暗い喜びを感じながら、八戒は三蔵の唇に酔った。
 三度目のキスをすると、手持ち無沙汰に遊んでいた三蔵の腕が、八戒の背中にまわされる。
 誰でもいい。
 八戒は祈った。
 この許されざる罪人を、今すぐ罰して欲しい。
 自分は必ず、この尊い人を、煉獄の闇に引きずり込むだろう。
 それだけはしたくない。したくないのに。
 八戒の心の叫びに答えるものはどこにもない。
 いつのまにか、三蔵の目尻から涙がこぼれている。


「泣かないでください。あなたにそんな顔をさせたくないんです」


「俺は泣いてなんかいねえ」


「泣いてます」


「黙れ!」


 きつい視線は、涙でぼやけて、子供のように頼りなげに見える。


「僕はあなたについていきます。たとえあなたに拒否されても、僕はあなたを追い続ける」


「……勝手にしろ」


「そうさせてもらいます」


 日が沈みかけている。
 赤く染まった室内で、三蔵を抱きしめていた八戒は、自分たちが見られていることに気がつかなかった。

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