士魂号でシンクロテストです。
リツコとガンパレからヨーコさんが出演です。
「グリフ」
「あら、シンジ君。あなたのシンクロテストはまだよ」
レイを追いかけてきたシンジは、三番機の前で機械を操作している整備班長である赤木リツコ博士に遭遇した。
彼女は一日のほとんどを整備室か実験室で過ごしているのだから、そこで彼女に会うのは当たり前と言えば当たり前だが、ミサトに対するほどではないが、シンジはリツコが苦手だった。
リツコからは隠しようがない科学者の匂いがする。
それが否応無しにラボの記憶を思い出させた。
それに、リツコはレイを実験材料のように見ていることがシンジにはわかって、リツコを好きになれなかった。
それが全てのチルドレンに向けられたものならまだ納得がいったのだが、あきらかにリツコはレイだけを人形のように感情がないものとして扱っている。
それはシンジには許せることではなかった。
「すいません。綾波の実験を見たくて。僕も一緒に乗るんだし、シンクロテストというものを前もって知っておきたかったんです」
「そうね。あなたははじめてですものね。いいわ、ヨーコ、シンジ君にテストの説明をしてあげてちょうだい」
三番機の整備担当である小杉ヨーコがシンジをモニターの前に案内した。
ヨーコは背の高い気さくな人で、シンジも嫌いではなかった。
案内されたモニターには、レイの脳波や脈拍、シンクロ数などが、波形として表されている。
それがいい状態なのか悪い状態なのか、それはシンジには分からなかった。
「ヨーコさん。綾波って、なんで怪我したんですか。実験が失敗だった聞きましたけど」
「ソレハ、ヨーコにも分かりません。ただ、レイちゃんには珍しいぐらい、感情の幅が乱れたせいだと、ヨーコはキイテマス」
「感情のゆれがそんなに影響するんですか」
「士魂号はシンケイセツゾクでソウジュウします。感情が乱れると、シンケイセツゾクにもエイキョウします。士魂号にはココロがあります。彼女と心を合わせないと士魂号は答えてくれません」
「機械に心があるんですか」
「ヨーコはあると知っています。だから、シンジくんも彼女をわかってやってください」
「ヨーコさんにとって、士魂号は女の人なんですね」
「シンクロシステムはシキュウと同じです。だから士魂号は女の人です」
「ヨーコ、しゃべりすぎよ」
「おお、赤木ハカセ、ごめんなさいです」
子宮と同じだというシンクロシステム。
感情に左右される機械。
それもまた、ネルフのオーバーテクノロジーなのだろうか。
それはどこか、不吉な感じがした。
(綾波)
今、三番機には綾波が乗っている。
今度は大丈夫なのか、シンジは心配だった。
どうして会って間もない少女にここまで心を奪われてしまうのだろうか。
恋愛感情がどういうものなのかシンジは知らない。
綾波に感じている気持ちは、もっと切実で、それでいて自然なものだった。
「いいわ。レイ。成功よ」
リツコの声でシンジは現実に引き戻された。
なにがどう成功だったのかもわからないが、何もなくてよかったと思った。
「今日はどんな感じがした?」
「碇君を見ました」
「シンジ君? そう、それは面白いわね」
リツコは少し考えると、シンジの方を向いて言った。
「シンジ君。ついでだから、このままあなたのシンクロテストをして、レイとの相性を調べたいの。急だけど、三番機に乗って頂戴」
「今すぐですか」
「ええ、そう。いつ使徒が現れるか分からない今、実験は早目にしておきたいのよ」
「わかりました。乗ります」
不安がないといえば嘘だったが、レイが見ているものを、シンジも見たかった。
成功すれば、レイといっしょに三番機に乗れるのだ。
それは、シンジにとって、少しだけ嬉しいことだった。
はじめは、他人と一緒に乗ることを怖れていたのに、現金なものだった。
「そこに、更衣室があるから、専用のプラグスーツに着替えて頂戴」
「はい」
三番機の中は、確かに子宮に似ていた。
ショック緩衝用のLCLという液体は呼吸が可能で、微かに血の味がする。
プラグの中は薄暗く、温かい。
イヤホンから、シンクロテスト準備の様子が聞こえてくる。
「テスト開始」
リツコの声が聞こえるのと同時に、全ての音と映像が、シンジの前から掻き消えた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
次に生まれたのは、映像の奔流。
嵐のような光景に、ただシンジは流された。
『使徒とはどういう存在だと思う』
『実験体の癖に抵抗するな』
『生殖実験は人類の希望なのだ』
『あなたは死なないわ。わたしが守るもの』
『嫌い! 嫌い! みんな大嫌い!!』
『好きって事さ』
『シンジにはわからないんだよ!』
『生きていれば、どんな場所でも天国になるわ。だって生きてるんですもの』
『わからない。でも、碇君といっしょに生きていたい』
入り込んでくる映像の意味などわからない。
ただ、最後に笑っているレイともう一人誰かの姿を見たような気がして、シンジの意識は途切れた。
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