遠い昔。
金剛国で死を迎えてから、影王はずっと半身を捜し続けていた。
生きていた頃は、あれほど憎んだ双子の弟を、死を迎えた今になっては、なんの迷いもなく愛していると思える。
いや、生まれる前から影王はマダラを愛していた。
憎まずにはいられないほど、ただひとりを求め続けていたのだ。
だがこの闇の中には、ふたりを隔てるものは何もない。
ようやく見つけたマダラの魂を抱いて、影王は幸せだと思った。
ただひとりの半身の魂は温かかった。
ここにはふたりを邪魔すものは何も無い。
マダラの魂は安らいでいるようだった。
闇がどこまでも広がる、転生前のアガルタの空間で、影王はマダラを抱いて眠りにつこうとした。
その瞬間、ふたりだけの空間に異分子が現れた。
「マダラ!」
そう叫んだのは、影王が嫌悪してやまないひとりの男だった。
人影はふたつ、もうひとりは、男の半身である赤い髪の戦士だろう。
マダラの魂を抱きしめたまま、影王はふたりを睨みつけた。
「探し物はこれか? カオス……」
「影…王…!」
カオスに見せ付けるようにマダラの魂を抱きしめながら、影王はひっそりと微笑んだ。
マダラは誰にもわたさない。
俺たちはひとつの存在なのだから。
「これがマダラの魂だ。現世での戦いを終えて眠っている。わかるだろう? 安らぎに満ちているのが……俺たちはここで眠り続ける。戦いからも……総ての憎しみや、苦しみからも解放されて……」
金剛国でのように、傲慢にカオスは告げた。
「マダラをよこせ。戦いはまだ終わってはいない」
どれだけの時が経とうとこの男は変わらないと影王は嘲笑った。
お前の望みなど、わかりきっている。
欺瞞に満ちたお前の望み。
アガルタに呪われた狂人が。
「───あいかわらず血に飢えているな、カオス」
カオスのマダラへの執着の本当の理由を影王は知っている。
忠誠などまやかしに過ぎない。
この男は、いつでも自分を偽っている。
「お前が欲しているものはなんだ? 戦場か? 血か? 殺戮か? 俺は知っているぞ! マダラという王のもとでなら、お前は安心してそれらを手に入れられる」
カオスの動揺した姿を、影王は心から見下していた。
お前には、マダラに触れる資格などないのだと。
そして、つきつけた。カオスの本当の望みを。
「本当は、お前自身が王になりたいのだ!! その野心を、お前はマダラにすりかえているだけなのだ!!」
カオスは立ち尽くして、震える声で反論した。
「……違う……俺は……」
愚かな男だと影王は思った。
誰にもマダラは渡さない。
それがカオスだったならば、なおさらマダラを渡すことはできない。
「マダラは渡さん」
その時、どこかで扉が開く音が響いた。
それが意味することを、影王はよくわかっている。
何故人は過ちを繰り返すのか。
人間たちの欲望を影王は憎んだ。
この音は、欲につかれた人間がアガルタの門を開いた証。
「いやだ!」
地上へと魂が呼ばれる。
マダラの魂はすでに影王から引き離されていた。
「現世になど行きたくない……! もう転生はしたくない……!!」
マダラと俺を引き離さないでくれ。
強烈な吸引力に、影王は必死で抵抗した。
扉を閉めなくてはならない。
マダラ、マダラ、マダラ、マダラ、マダラ!!
転生を逃れるのと引き換えに、影王は自らの魂ごとアガルタの扉を凍りつかせた。
マダラは転生した。
ならば、いつかこの扉を開きにやってくるだろう。
そのときこそ、俺たちはひとつになるのだ。
片翼の黒き天使は、再び半身と出会う日まで氷の中で眠りについた。
カオスと聖神邪がどうなったのか、影王は知らない。
ただ、あの狂人にマダラが傷つけられないことを祈りながら、影王は深い眠りの中でマダラを想った。
影王がマダラと出会うのは13年の月日を待たねばならなかった。
------------------------------------------------------------------------------------------
ギルガメッシュサーガは影王のマダラへの愛が全開でしたね。
憎しみでも、愛でも、マダラだけがすべての影王にとって、カオスの存在は醜悪なのでしょう。
聖神邪とはまだ分かり合えそうですけどね。
[0回]
PR