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亀更新で二次創作やおいを徒然なるままに書き散らすブログです。ジャンルは様々気が乗った時に色々と。基本は主人公受け強気受け兄貴受け年下攻めで。でもマイナー志向もあり。
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魍魎戦記マダラのマダラ総受けです。
本館改造前の5555HITキリリクでORIGN様に捧げたものです。
性描写がありますので、自己判断でお読みください。

 ヨミの城から戻った後、反乱軍の居城で、マダラを迎えて酒宴がもうけられた。
 カオスの半身を繋げる手術や、ロキの治療など、忙しく走りまわって休む間も無かったマダラを労うためでもあり、真王マダラのお披露目の意味をあって、略式ではあったが、宴はそれなりに豪華なものだった。
 真王に対する期待は大きい。
 神の国アガルタへと民を導く唯一の王たるもの。
 遠い伝説が、現実として存在する興奮に、誰もが湧きあがっている。
 すべての元凶たるミロクの血を継ぐということで、マダラに不信感をもつものも少なくなかったが、宴が盛り上がるにつれ、そんなわだかまりもどうでもいいものになっていったらしく、いつのまにかマダラの周りには人だかりができている。
 輪から少し離れた場所で、カオスはその光景をじっと見詰めていた。


「どうしたの、カオス?」


「いや、なんでもない」


 寄り添うようにカオスの側から離れようとしないジャミラに、カオスは微かに笑って見せた。


「……かわったわね」


「何がだ。俺は――」


「かわったわよ。あなたの、そんな顔、見たことなかった――これも、マダラのおかげなのかしら」


 ジャミラの表情は、どこか淋しげだった。


「私には、できなかった……」


 こたえる言葉を、カオスは持っていない。
 ジャミラを愛しいと思わないわけではなかったが、それは多分ジャミラが望むような激しいものではない。


「それでも俺は、お前にここにいてほしい」


 それが、ただのエゴだとしても。


「カオス、私は――」


「カオス様」


「徐福――なにか、あったのか」


 いつのまにか、片目のイニシエが背後に控えていたが、いつものことなので、カオスは驚かない。
 カオスの導師であり忠実な臣下たる徐福は、アガルタの秘儀科学者だった。
 マダラを育てた汰々羅、聖神邪の師たる諏駒禰、そしてカオスの家庭教師だった徐福は、日修羅三賢人と呼ばれたアガルタの秘儀精通者――イニシエだ。
 異常な長寿で世界を見守ってきた三賢者も、徐福以外はふたりともミロク率いる金剛国によって命を失った。
 カオスの反乱軍に集った仲間達は、金剛国によって国や家族を失ったものたちばかりで、金剛国に滅ぼされたホウライ国の廃皇子カオスの存在は、彼らにとってカリスマともいえた。
 マダラが消息を絶っていた3年という月日は、けして短くないはずだが――カオスに心酔していたはずのものたちさえ、マダラの周りで屈託の無い笑顔を見せている。
 それは、カオスが見たことのない表情だった。
 幻でも見るように、その光景を遠くに感じながらマダラを見つめるカオスに、徐福は呟くように淡々と声をかける。


「お繋ぎいたしましたお身体の調整をなさらねばと」


「完全とは言えないという事か」


「そんな!」


 ジャミラの顔から血の気がひく。
 カオスへの想いを認めたときから、ジャミラは臆病になった。
 カオスを失うことを怖れ、些細なことにも動揺する。
 もともと、女としてしか生きられない、戦士には向かない気性の女だった。
 そんなジャミラを可愛いと想う気持ちもあるが、どこかで違うという声がすることもある。
 すべてが終ったら、答えもでるのだろうか。
 ジャミラの一途な想いを知りながら、保留にするのは卑怯なことなのか。
 カオスにはわからない。


「ご心配するほどのことではございませんが、カオス様は長い間半身をギミックにて代用しておりました。これからの戦いは、小さな違和感が命取りになる激戦となるでしょうから、調整がどうしても必要なのです」


「拒絶反応とか、そういうことではないのね」


「これは、もともと俺の身体――お前が取り戻そうとしてくれた、俺自身の半身だ」


 己の左半身を人質としてミロクに服従していた屈辱を、カオスはけっして忘れてはいない。
 結果的に、半身を取り返したのはマダラだったが、命をかけてカオスの半身を取り返そうとしたジャミラに、カオスは感謝している。
 ジャミラは、哀しいまでに女だ。
 しかしそれ故に、すべてを投げ打ってでも、己の心に殉じようとする激しさを見せることもある。
 この想いに報いることが、正しいことなのだろう――そのはずだ。


「心配はいらない。俺は必ず、この戦いを生き延びてみせる」


 お前のために――そう言いきれたら、この空虚な飢えに似た想いも癒されるのか。
 広間から抜け出すカオスと徐福に、宴に夢中になったものたちは、誰も気がつかない。


「カオス?」


 遠くで、マダラの声が聞こえたが、カオスは聞こえなかったふりをした。


「よ! なに、カッコつけて黄昏てんのよ」


「うるさいぞ、お前」


「ひっでーなぁ。それが長年の相棒に言う言葉かよ」


「いつからそういうことになったんだ」


「生まれる前からじゃねーの」


「気のせいだ」


「……っだ~っっっ! ホント、そういうとこは、ぜーんぜん変わってねーん
だけどな!」


 酒瓶を片手に、カオスの寝室に断りも無く入りこんだ聖神邪は、勝手に寝台に座り込むと、カオスの人でなし度を並べ立てだした。
 何をしにきたんだこいつはと思いながら、カオスはその理由をもう知ってるような気がした。
 理由のない行動を聖神邪はしない。
 聖神邪が動くには、それ相応の理由がある。
 だが、その理由を、カオスは考えたくなかった。


「ジャミラに何いったんだよ、お前」


「どういうことだ」


「お前もひでーやつだよな。だからやっぱり俺にしときゃよかったんだよ。あ~あっ、たくっ、ジャミラもホント見る目ねーよ」


 ニルヤの城で過ごした幼い頃の記憶は、遠い日の夢のようなものだ。
 ジャミラが自分に好意を持っていることも、聖神邪がジャミラを好きなことも知っていたが、あの頃のカオスには特に意味のあることではなかった。
 姉上さえいれば、他に誰もいらないと、そう思っていた。
 ホウライが滅んだあの日、カオスを庇って死んだあの人さえ側にいたなら、こんなふうに迷うこともなかっただろう。


「なに、しけたツラしてんだぁ~? 辛気くせー」


「もう、酔ってんのかお前」


「誰が酔ってんだよ! 誰が!」


「重症だな。黙れ少し」


「くっ、苦しい~っっ! くそっ! 離しやがれ、クソ馬鹿カオス!」


 片手で聖神邪の顔を抑えると、蒲団に突っ伏した体がジタバタとあばれる。
 もがいていた手足から力が抜けたのを確認して、カオスは手を放す。


「うん?」


 本気で息が止まっている。
 無言で聖神邪の身体を仰向けにすると、カオスは鳩尾にシャオロンをぶち当てた。


「がっ! げっ――げふっ……はぁ……は……ははははって、オイ!!」


「あいかわらず、丈夫な体だな。本当に生身なのか」


「人を殺しかけといて、それかぁぁぁ!! 今、ちょっと、本気だっただろぉ!!」


「このぐらいで、お前が死ぬようなら、とっくの昔に始末している」


「こ、これが――従兄弟で幼馴染で親友の俺様に対する仕打ちかぁぁ!」


「死なないだろ――お前は」


「お前って奴はよぉ……こんな人でなしなのに、何故、お前ばかりがもてやがる……納得いかねぇ……」


 ジャミラのことを言っているのか。
 もしかすると、まったく吹っ切れていないのかもしれないとも思ったが、聖神邪の気持ちを知っていてジャミラを譲るような真似はカオスにはできないし、する気もない。
 欲しいと思ったものをあきらめたことがないカオスに、聖神邪の気持ちは捉えがたかった。


「それで、本題はなんだ?」


「ああ? 本題……本題ねぇ――カオス、お前さ、本気でマダラを王さまにす
る気なのかって、ちっとばかり気になんだろ」


「お前なら、相応しいとでも言う気か」


「あったりまえっって言いてぇとこだが、真王がマダラだってのは確定だろ。俺はあいつが気に入ってるから、別にそれはもういいけどよ。王さまってのは、なんかあいつのガラじゃねーよーな気がすんだよ。あいつにとって、俺らって、仲間なんじゃねーの?」


「それでも、アガルタの扉を開けるのはマダラだけだ」


「お前さぁ、マダラのこと、どう思ってんのよ」


「どう?」


「らしくなく、曖昧なんだよ、お前の態度が。優しくしてみたり、突き放したり、あれは混乱するぜ。この反乱軍のリーダーはお前だ。だが、お前は始めからマダラを王として迎えるために、組織を率いてきた。マダラが王になるのは、お前の中では確定なんだろうが、肝心のマダラの本心ってやつは、確かめたことあんのか?」


「マダラは真王だ」


 そして、カオスは真王に従うために存在する。
 この命も魂も、ただそれだけのためにあったのだ。
 それが宿命だと、カオスの死んだ姉は言った。
 あなたは真王には成り得ないと。
 姉のために、真王になりたかった。
 死んでいった一族のために、真王になることを義務だと信じていた。
 だが、姉がマダラを守れと言うのなら、その言葉に従うことに否やはない。


「真王なら誰でもいいのか……それは、あいつじゃなくてもいいってことかよ」


「さっきから、何が言いたいんだ、ユダヤ!」


「その名前は禁句だぜ、カオス」


 月明かりで照らされた赤い髪が、闇の中で輝く炎のようだ。


(俺の……魂の半身――真王を守護する青の戦士の対たる運命を背負う赤の戦士――俺のただ1人の同胞)


 こんなにも近いのに、聖神邪の言葉がわからない。
 真王はマダラで、マダラは真王だ。
 そこに疑問の余地はないのに、この男は今更何を言っているのか。


「俺は、マダラに従うだけだ」


「時々お前は、どーしようもなくバカになるよな」


「お前に言われる筋合いはない」


「わかってねーから、バカなんだよ」


 いつものふざけた様子は、今の聖神邪には見られない。
 カオスを哀れむように見つめる視線に、苦々しい怒りを覚えたが、視線を外したのはカオスのほうだった。


「やめ、やめ。これだけ言ってもわかんねーやつに、何言っても無駄だしなぁ。とっとと部屋に帰らせてもらうぜ」


「なら、さっさと戻れ」


「へいへい――カオス、もし……もしもだけどな、ジャミラと……いや、やっぱやめとくわ」


 一人残されたカオスは、苛立ちのままに、寝台に放り投げられた酒を飲み干した。
 満月に少し足りない歪んだ月が、深い森を照らしている。
 月を見るのはよくないことだ。
 月は人を狂わせる。


(いっそのこと、狂ってしまえたら――)


 そんなことを思う理由はないはずなのに、マダラに再会してから、何度もそんなことを考えている。
 マダラの心――それは、聖神邪になら、わかるのか。
 カオスの知らない3年間を共に過ごした彼なら、マダラをあんな風に笑わせることができるのか。
 マダラは、カオスが従うべきただひとりの王――だが、マダラがどういう人間なのか、カオスはほとんど知らないといっていい。
 知ることが怖い。
 何故――?
 窓の外をぼんやりと眺めていたカオスは、城門の側に人影を見つけて緊張する。


(敵――違う? 誰だ?)


 人影は、そのまま森の中に姿を消した。
 月明かりが照らしたのは――


「マダラ――?」



 回廊は闇に包まれている。


「うぉぉぉ、なんか出そーだぜぇ。灯りぐらいケチケチしねーでつけろよ。ビンボーくせぇ軍だよな」


 カオスの部屋から聖神邪の私室はけっこう離れている。
 聖神邪は用心しながら、暗い廊下をキョロキョロと見回した。


「あいつが出てこねーともかぎらんし。別に怖いわけじゃねーけど」


 誰に向かって言っているのか、ぶつぶつと言い訳しながら、聖神邪は自分の部屋を通り越して、マダラの部屋に向かった。
「落ち込んでるお子様の様子でも見てくるか」
 負けず嫌いで気が強いが甘ったれな子供は、カオスの態度にむくれているはずだ。
 カオスの言動の矛盾は、マダラにとってわけがわからないだろう。


「ガキだしな」


 ――どっちも。
 カオス自身にもまったく自覚がないのだから、他人には手のつけようがない。
 実のところをいえば、聖神邪にも確信があるわけではなかったが、カオスの気持ちのいくつかは、付き合いの長さから推測はできるのだ。
 推測はできるが、どの気持ちが一番強いのかはわからない。
 選択するのはカオスだ。
 どれも本心なら、カオスがどの道を選ぶかは、カオスが自分で選ぶしかない。
 おせっかいなのはわかっているが、放っておくことはできなかった。


「久遠……あんたとの約束は守るさ」


 幼い日の約束を、聖神邪は忘れたことはない。


『カオスを助けてあげてね』


 カオスの姉の久遠は、聖神邪にとっても姉に等しい存在だった。
 彼女の喜ぶ顔が見たくて交わした約束は、彼女の死と同時に絶対のものになった。


(けど、オレはしたいようにやらせてもらうぜ)


 宿命など、関係ない。
 運命などに振りまわられる気はさらさらない。


「オレは、オレの望みのままに生きて、そのために死ぬんだよ」


 マダラに命を預けるのは、あの少年が真王だからではなく、マダラがただマダラであるから。


(オレが選んだのは、真王じゃなく、ただのガキのマダラだ)


 カオスが求めるマダラは、どのマダラなのか。
 それによって、これからの展開はまったく違ったものになるだろう。
 ジャミラは、自分のすべてでカオスを欲している。
 不器用で傷つきやすい彼女を、カオスが幸せにしてくれればいいと思っていたし、もし平和さえ手に入れることができたなら、それは実現可能なことだと思っていた。
 ――マダラが現われさえしなければ。
 マダラが今のような人間じゃなければ、カオスが迷うこともなかったのだろうか。
 ただひたすらに忠誠を誓うのか。
 それとも、あくまで敵として対するすることになっていたのか。
 そんな仮定は無意味だろうが、ジャミラのことを思うと、考えずにはいられない。


「カオス、お前は、マダラとジャミラを選ばなきゃならなくなったとき、どうするつもりなんだ」


 想像することすら困難な未来は、それでも有り得ないことではない。
 自分はどちらを選ぶのだろう。
 マダラとカオスのどちらを――
「とりあえず、目の前の戦いが終ってから……か」
 全部笑い話になる日が来るかもしれない。
 苦笑しながら、聖神邪はマダラの部屋の扉を勢いよくあけた。


「よぉ! お利口にしてっかぁ……って、なんでいねーのよ」


 部屋は空っぽで、ベッドには温もりがない。


「キリンのとことか……いや、あの奥手がそりゃ、ねーだろ」


 泥酔したマダラを部屋に放りこんだのは聖神邪だ。
 酔いが冷めて、いきなりマダラがトチ狂ったとも考えにくい。


(手順ふまねーと動けないタイプだよな、あれは。もしやるとしても、最終決戦の前夜あたりだろ)


「俺のヨミに外れはねー!」


 だとしたら、マダラはどこに行ったのか。
 今の状況でひとりで行動するほど、マダラは愚かではない。


(それに、この瘴気はなんだ?)


 部屋に満ちた闇が、物理的粘度を持っているように重い。
 この気配には覚えがある。
 マダラによく似た――そして正反対の――マダラの半身。


「まさか、影王――」


 だとしたら、人を呼ぶ時間はない。


(俺に、マダラの気配が追えるのか?)


 微かな霊気の糸を辿って、聖神邪は部屋を飛び出した。



 夢を見ていた。
 泣きたくなるぐらい、優しい夢。
 欲しいと思っていた手がここにある。
 側にいて。
 もう離さないで。
 ひとりにしないで。
 混濁した意識のなかで、それが現実にはありえないことだということを、マダラは気がつかない。
 これが本当のことだと思った。
 こうなることを、ずっと望んでいたのだと。
 すべてが、なんだか遠く感じられる。


「影王……」


 夢の中で、マダラは泣きながら微笑んだ。



 マダラの気配がはっきりとわかる。
 宿命という鎖で繋がれた、ただひとりの王の存在を、全身が感じている。


「マダラ……!」


 森の奥には、小さな湖がある。
 そこにマダラがいると、カオスのどこかが確信している。
 嫌な予感に急き立てられて、カオスは走る。
 マダラのことしか考えられない。
 わからない。わからない。わからない。
 自分にとってのマダラという存在の意味が、もうカオスにも理解できない。
 わけもなく許せないと思う。
 憎しみにも近いぐらい、こんなにもマダラのことしか考えられないのに、マダラが見つめるのは、どうして自分だけではないのか。
 世界に自分とマダラしかいなくなれば、マダラは自分を見るだろうか。
 いつから、こんなにも、マダラがすべてになってしまったのだろう。


(お前を、ずっと殺したいと思っていた)


 己が真王になるために。


(今は、前よりもっと強くお前をこの手で殺してやりたい)


 守りたいと、同じぐらい強く思っているけれど。
 今は、不思議なぐらい、カオスの中にはマダラしか存在しない。
 迷いは、もうなかった。
 マダラに対する自分の気持ちがどういうものでもいい。
 誰にもマダラはわたせない。
 これが、すべてだ。


(マダラを俺から奪うものは、すべて排除する)


 カオスは自分が笑っていることに気がつかなかった。



 水の感触が、マダラを優しく包み込む。


(服……どうしたんだろ)


 関係ないことが、頭に浮かぶが、それも泡のように意識の底に消えていく。
 全身を、なにか温かいものが撫でまわしている。
 嫌悪感はなかった。
 たくさんの腕で抱きとめられているような感触。


「マダラ……」


 耳元で囁かれる声があまりに優しくて、涙が止まらない。
 彼の声が、こんなに優しいはずはないのに。
 憎んでいると、誰よりもマダラを憎んでいると叫んだ双子の兄の声を、忘れていない。
 過去を変えることができない以上、敵同士になるしかないのだろう。
 影王が自分を憎むのは当然だと知っている。
 自分は、影王のすべてを奪ったのだから。
 それでも、懐かしいと思う気持ちを抑えられない。
 自分たちが戦うのは運命だと知っていても、それは間違いだと強く思う。
 どれだけ強い憎しみをぶつけられても、影王に引き寄せられる心を消せない。
 だから、優しい声に逆らうことができない。
 涙が溢れる。
 優しくしてくれて嬉しい。
 たとえそれが、幻だとしても。


「お前には、わからないだろう――お前は、いつだって、奪うばかりだ」


 責める声は、それでもどこまでも優しい。


「お前を求めるものの心など、永遠に理解などできはしない」


 ふいに、四肢を引き上げられて、ようやく今まで水中にいたことがわかった。


(息……)


 重力がいきなりかかって、首がのけぞる。
 見開いた目に、歪んだ月が映った。
 何か、得体の知れない触手の塊が、マダラの手足を拘束し、全身を這いまわっている。
 脈打つ肉隗は、水とは違うヌラヌラとした液を滴らせ、マダラの細い身体を蹂躙する。
「誰もがお前を選ぶ。愛されるために生まれてきた永遠の子供。自分が、どれだけの犠牲の上に存在するのか、考えたことはないだろう?」
 でも、影王は愛してくれない。


「俺はお前への贄。お前という神に捧げられた供物――俺という犠牲の上に、
神としてのお前が存在する」


「ひゃっ……んっ……くぅぅ!」


 触手が強くマダラ自身を締め付けて、目の前が一瞬暗くなり、マダラは喉の奥で悲鳴をあげた。
 手足を縛る力もだんだん強いものになっている。
 優しく撫でるようだった触手の動きは、強く明確なものに変化していく。
 性的なものに疎いマダラは、自分に何が起こっているのかわからなかった。
 ただ、身体が熱くて、溶け崩れてバラバラになった思考を、必死でかき集める。


「お前は俺からすべてを奪った。俺のチャクラ、俺たちの母親、そして姉――最後に俺自身の心――」


 影王の声が遠い。


「お前を憎むことだけが、俺に残された唯一の砦だった……それすらもお前は奪った」


 下半身を撫でまわしていた触手のひとつが、確かめるようにマダラの秘所をつついて、一気にその内部へと入りこむ。
「ひっっ!」


「欲望というものを……お前は本当の意味で理解しない」


 脈打つ存在感が、身体の内部からマダラを圧迫するが、痛みは欠片もない。
 強烈な違和感だけが、それが自分の中に存在する確かさをマダラに教える。


「やぁ……いや……だっ」


「嘘だろう? お前は怖いだけだ。自分を手放すことが怖いだけ。楽しむことを教えてやろう。怖がることなど何もない。お前は、どんなことにも汚されたりしないのだからな」
 自分が求めていたのはなんだったのだろう。
 苦しくて、なんだかよくわからない。


「お前を支配することなど、誰にもできはしない」


「あ……あぁ……んっ」


「奪えばいい……それは、お前に与えられた権利だから……世界のすべてがお前のものなのだから」


 頭が真っ白になる。
 微妙に揺すられ前後する触手が生み出す摩擦で、マダラは気が変になりそうだった。
 悲鳴をあげようとして開かれた口に、別の触手が入り込む。


「んっ……ぐっ……っ」


 喉の奥まで入れられた触手のせいで、息が苦しくて涙が滲む。
 ここまでされても、影王を嫌いになれない。


(全部が影王なんだな)


 そんなことを思う。
 どこかで、喜んでいる自分がいた。
 影王が自分を欲しがっていることに満足している。
 肉体的に与えられる快感よりも、求められているという実感の方が、マダラを熱くする。
 身体の奥が弾けるような衝撃を感じて、マダラは白濁した液を放った。
 意識が浮上した時、何故か、カオスの顔が目に入る。


「カ……オ……ス?」


 強張った冷たい美貌には、明確な殺意が込められていた。


「貴様もマダラが欲しいのか? 汚らわしい罪人が」


「魍魎の分際で!」


「くっ……クククククク……」


 マダラの手足を拘束していた圧迫が解かれ、マダラは音を立てて水中に落下する。
 それほど深くない水底に落ちてから、いきなり浮上する。


「俺が憎いだろう、カオス? そして、俺に身を任せたマダラのことも……気が狂うほどに……憎くてたまらないよなぁ?」


「それが、貴様のマダラへの復讐か。影王!」


「はっ……愚かな男だな……己がマダラに相応しいとでも思っているのか――身の程知らずが」


「貴様……」


「浅ましい。お前の魂がどれだけ腐っているか、お前は必ず思い知ることになるだろう。その時が見物だな。罪を犯すために生まれた狂人が」


 月の明かりの中で、空中に浮かんだ触手の塊は、あまりにも非現実で、滑稽ですらある。


「今日のところは引いてやろう。だが、覚えておくがいい。マダラは俺の半身――決して、お前のものにはなりはしない」


 その声を、マダラは夢の中のようにおぼろげに聞く。


「マダラ」


 愛しげに名前を1度だけ呼んで、肉隗は唐突に姿を消した。
 呆然とするマダラの身体を、強い力で引き上げ、カオスは濡れた身体を自分のマントで包み込む。


「えっ……なっ、なんだよ、これぇ!」


 今はじめて目が覚めたマダラは現状がまったく理解できずに大声をあげる。


(全裸で、濡れ鼠で、そして何故カオスが目の前に!)


 宴会の会場で目の前が回ってからの記憶がまったくない。
 パニックを起こして慌てるマダラをしばらく無表情に睨んでから、カオスは低い声で訊ねる。


「覚えていないのか?」


「って、何を!」


「ならばいい」


「よくねーよ! この状況を説明しろ!」


「うるさい」


 よくわからないが最低に機嫌が悪いらしいカオスは、マントで包んだマダラの身体を乱暴に抱き上げると、無言で城に向かって歩き出す。


「げッ! おっ……おろせっ! 何しやがる!」


「少し静かにしていろ」


 声に殺気がこもっている。


「なぜ、俺がこんなめに……」


 理不尽な状況だったが、ちょうどいい機会かもしれないと思い、宴会で言えなかった言葉を口にする。


「なあ、俺、お前になんかした?」


 沈黙が痛い。


「俺のこと無視するくせに、見られてる気がするし、わけわかんねーよ」


 カオスは口を開かない。


「考えてみれば、お前、初対面からいきなり俺のこと殺そうとするしよ。今でも俺のこと嫌いとかなのか」


 カオスの腕に力が入る。


「カオス?」


「よくも、そんなことが……」


「俺は、マジメに聞いてんだよ!」


「嫌えるものなら!」


 能面のような顔が歪む。


「お前を嫌えるのなら、これほど苦しくもなかった」


「なんなんだよ、それ」


「わからないのならいい」


「本気でわかんねー」


 それは、自分のことが嫌いじゃないということなのだろうか。
 複雑な感情は、マダラには理解しがたい。


(みっともないけど、こういうのも悪くないな)


 カオスに大事にされている気がして、少しだけ気分がよかった。


「マダラ!」


「あれ、聖神邪? なんで?」


 血相を変えた聖神邪を見つけて、マダラは首を傾げる。


「カオス……どういうことだ、これは!」


「説明する必要があるのか」


「てめえ!」


「な、なんでいきなり喧嘩するんだ、お前ら」


「お前の言っていることがわかった」


「それで、どうする気だよ」


「無視すんな、お前ら!」


「俺が狂ったときは……お前が俺を止めろ」


「それを、俺にやれだと……意味、わかって言ってんだろうな」


「お前にしかできないことだ」


「後悔するぞ。あいつは……どうすんだよ……」


 吐き捨てる聖神邪の声が震えている。
 すごい修羅場にいきなり投げ出された気がするが、マダラにはひとつとして言葉の意味が理解できない。


「許しては、もらえないだろうな……だが、俺はもう選んでしまった」


「勝手なこと言ってんじゃねぇ!」


「戦いが終って、まだ命があったら、必ず償いをする」


「最低な野郎だぜ。クソッ!」


「わけが……わからん」


 二人の会話を追うのを諦めて、マダラは目を閉じる。
 なんだか、ひどく疲れていた。



 夢を見ていた。
 とても幸せな夢を。


(俺のすべてで、お前を愛している)


 これは夢だ。


(お前が俺に拘る理由を、俺は知っている) 


 そう、影王はマダラのすべてを知っていた。
 マダラ本人も気がついていない心の底まで。


(半身だからというだけじゃない。すべてを手に入れることが、あらかじめ約束されたお前にとって、俺もまた取り戻すべきひとつにすぎないのだから)


 ずっと、マダラを見ていた。
 影に紛れて、闇の中から、光の中で笑うマダラを見続けていた。


(愛されることを貪欲に求める欲張りなお前は、お前を憎むからこそ俺を求める)


 影王を縛り、自分だけのものにするために。
 傲慢で我侭な魂は、神の王に相応しい。
 淫らで残酷で、それでいてどこまでも穢れることがない。
 すべてを支配しながら、誰にも心を渡さない。
 自分を愛するものすべてを愛する。
 それがどれほど残酷なことなのか、あの魂はわかろうとしないだろう。


(それが、お前の本当の姿)


 だから、影王はマダラを憎む。
 強烈な憎しみだけが、影王をマダラの中で特別にするから。


(これほどまでにお前を憎めるのは俺だけだ)


 意識が溶けていくのを感じて、影王は自分に暗示をかける。


(俺はすべてを忘れる。お前を愛していることをすべて。そして、俺の魂が存在するかぎり、お前を憎む)


 憎しみこそが、影王の存在理由だから。


(おやすみ、マダラ。いつか、お前が俺を殺したら、その時こそ愛してると告げよう)


 意識が覚醒して、影王は眉をしかめた。
 時間も方向もない歪んだ空間で、どれほど時がたったのかという疑問は無意味かもしれないが、時々おこる意識の断絶は不愉快だ。
 出口も入り口も破壊された異次元で、影王はひずみを探している。
 このまま朽ち果てるわけにはいかない。


「マダラをこの手で殺すまではな」


 アガルタの扉など、本当はどうでもいいような気もする。
 マダラと殺し会うことだけが、影王の望みだった。
 どちらか生き残った方が、アガルタの真王となる。
 どちらでもかまわない。
 それで、すべてが終るなら。
 この呪われた運命に終止符がうてるなら。


(マダラを殺したら、世界を滅ぼすのも、面白いかもしれないな)


 それは、とても楽しいことのような気がした。



「で、俺は何故、お前の部屋に連れこまれているんだよ」


 抵抗空しく、マダラは身体中をタオルでゴシゴシと拭き取られるままになっている。
 聖神邪には、すまねえと謝られて逃げられてしまった。
 カオスは無言のまま、鬼気迫る勢いでマダラを揉みくちゃにすることに熱中していて、マダラの言葉にはいっさい返事をしない。


(俺がいったい何をしたっていうんだ)


 滴った雫を拭き取られるのは、子供のようで恥ずかしい。
 しかも、相手はカオスなのだから、もうどうしていいのかわからない。


(拷問かよ、これ)


 よくわからないが、とてつもなく怒っていることだけはわかる。
 ようやく満足したのか、タオルを外したカオスがマダラの顔を覗きこんだ。


「な、なんだよ……」


 カオスのが目が坐っているように見えるのは、気のせいなのだろうか。


(それより、服)


 裸で城の中は歩けない。
 無言のまま自分を凝視するカオスに焦れて、怒鳴ろうとした瞬間、いきなり押し倒されて、タイミングを外した。


「なっ!」


「マダラ……」


「あっ……ああ?」


「俺を憎んでくれ」


 カオスの言葉は、やはり意味不明だった。
 耳元に口付けられながら、マダラぼんやりとこれも夢かなと考えていた。



 優しくはできなかった。
 乱暴に、機械でも扱うように、マダラを傷つけた。


「いたっ! いっ……くっ――っん……もう、やめっっ……」


 何度も気を失っては、苦痛と衝撃で目を覚まし、マダラの声は掠れて切れ切れになっている。
 子供っぽさが抜けない顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。
 獣のような体制を無理やりとらせて突き上げると、くぐもった悲鳴が漏れる。
 表面は冷静に見せながら、気が遠くなるほどの快感をカオスは感じていた。
 この手の中にいるのは、マダラなのだと思うと、それだけで何度でも昇りつめることができる。


「マダラ」


 行為の残酷さとは裏腹に、愛しさを込めてマダラの名前を呼び続ける。
 おそらくマダラにはもう聞こえていないだろう。
 波が襲ってきて、何度目かの絶頂を、カオスはマダラの中に解放する。
 白と赤の痕が、べっとりとマダラの内股についている。
 乱暴にぐったりとしたマダラの身体を裏返すと、涙に濡れた頬に唇を押し当て、強くマダラを抱きしめる。


「俺だけを……俺だけを見てくれ……マダラ」


 それが、不可能なことだとわかっている。
 カオスに裏切られたショックは大きいだろう。
 だが、カオスだけを憎むことは、マダラにはできないと頭ではわかっている。
 何にも、誰にも捕らわれることがないマダラ。
 こんなことに意味はない。
 マダラを傷つけるだけの行為。
 ただのやつあたりだ。
 影王の言葉は、カオスの精神の奥深くをジワジワと蝕んでいた。


(マダラを殺したいと、あの時ほど強く感じたことはない)


 カオスは半身ではありえない。
 ならば、どうすればマダラの魂に己の存在を刻み込めるだろう。
 血と精液で汚れた痕を、カオスは丁寧に舌で舐め取る。
 完全に気を失ったマダラの身体は、まったく動かない。
 苦くて鉄っぽい舌を刺す味が、カオスを興奮させる。
 心を犯すことなどできなくても、今ここにいるのは、まぎれもなくマダラなのだ。
 世界など、いくら裏切ってもかまわないと思った。
 マダラが手に入るなら、何もかも失ってもいいとさえ思う。
 この想いは、影王に劣るというのか。
 マダラのためなら、いくらでも罪を犯そう。
 ジャミラのことは、もう頭にはなかった。
 すまないと思う気持ちすら、どこを探してもない。
 マダラと比べることができるものなど、どこにもない。
 真王であるから、マダラを意識した。
 マダラがマダラだから惹かれた。
 マダラの力とそのカリスマに嫉妬して、憎んで、そしてそれでも惹かれる自分を持て余していた。
 誰よりも力を欲したカオスの理想そのままを具現化した存在であるマダラを、諦めることなど絶対にできはしない。
 どちらのマダラを欲しいのかと、聖神邪は聞いたが、カオスにとってマダラと真王という存在は切り離すことができなかった。
 真王はマダラでなくてはいけなく、マダラは真王でなくてはならない。
 それが、カオスにとっての真実だった。
 真王に従うことが前世からの約束ならば、それがマダラであることをカオスは感謝する。
 絶望的なまでの痛みも苦しみも、それがマダラゆえのものならば、いっそ甘美にすら思える。


(俺はまだ、正気だろうか)


 止めろと言った言葉を、聖神邪は正確に読み取っただろう。
 共にマダラを守護するために存在するカオスの半身。
 カオスを殺せるのは、彼以外にいない。
 確実に訪れるだろう破滅を、カオスはどこかでもう知っていた。
 これが罪の始まり。
 最悪の運命へ向かう最初の扉を、カオスは自分の手で開いたのだ。
 マダラを求めるがゆえに、己が犯し続ける罪をカオスは――断罪者の存在のために忘れた。
 罪は必ず裁かれる。
 裁かれることは、許しを得ることでもあるのだから。
 自分は空っぽだとカオスははじめて気がついた。
 ジャミラを愛せるはずなどなかった。
 愛を求める彼女に、与えてやれるものなど、自分はひとつも持っていない。
 カオスの中にぽっかりと空いた虚無は、マダラという絶対の存在でしか埋めることができない。


「はっ、はははははははははっ――――」


 笑いがこみ上げて止まらない。
 神になりたいと望み、すべてを踏みつけていた自分が滑稽だった。
 神が人になることはあっても、人が神になれるはずもない。
 カオスはずっと、絶対者を求めていたのだ。
 自分を鎖に繋ぐ相手を、気が狂うほどに求めていた。
 完膚なきまでに奪われたかった。
 すべてを捧げ、服従する相手をこそ、求めていたのだ。
 神は何も捨てはしない。
 顧みることなく、奪うだけだ。


「マダラ」


 なんて理想的な、俺の神――いっそ陶然としてカオスは微笑む。
 血の気の失せたマダラの額に、今は消えている竜の紋章に、そっと口付ける。


「世界が終るまでの忠誠を――俺の、ただひとりの王たるマダラに――ここに
誓う」


 誰も知らない――これがカオスの誓約だった。
 世界が終る日を待ち望むときがくることを、カオスは知らない。
 それでも、誓約が破られることはなかった。
 遥かな時の果てに、永遠の終息を得るまで続く果てしない輪廻の鎖――宿命のためではなく、カオスが自ら繋がれることを選んだ、これが本当のはじまり。
 すべてを決める運命のときは、もうすぐだった。
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初めて書いたマダラSSですが、同好の士のORIGN様に捧げさせていただきます。

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