この作品は、エヴァンゲリオンとガンパレードマーチのクロスオーバー作品です。
原作の設定はほぼ完全に無視のマイ設定となっております。
そして、このサイトでは珍しく女性向けではなく、カップリングは男女のものしかありません。
嘘です。カヲル×シンジとかあります。
一部女性向け表現や、残酷描写は盛りだくさんです。
自己判断でお進みください。
シンジ×綾波がお嫌いな方は読むのをお薦めいたしかねます。
アスカも救済する予定です。
それでも読みたいという方のみ先にお進みください。
「学徒動員」
バスの中で、碇シンジ14歳は不安に怯えていた。
徴兵されるということの意味が、シンジにはまだ理解できない。いや、理解したくなかった。
つい数日前までは、何の変哲もない普通の中学生だったのだ。
少なくとも表向きは。
内向的で、どちらかというとネガティブな性格のシンジは、こんな日がいつか来るのではないかと、常々考えていた。
だから、徴兵の辞令自体には驚かなかったが、想像することと現実には大きな隔たりがある。
成績も運動神経も平凡な自分が、戦場に出るという事実がどうしても飲み込めない。
そして、辞令にあった司令の名も、シンジに現実感を失わせている原因のひとつだった。
そこには、碇ゲンドウとはっきりと書いてあった。
10年も前に自分を捨てた父親の名は、他人のようにしか感じられなかった。
「いまさら」
憎しみも、愛情もそこにはなかった。
そんなものは、この10年の口に出すことのできない日々の繰り返しで消えていた。
ただ平凡に生きること。
それだけを求めて生きてきたというのに、たった一枚の紙切れがこれまでのシンジの努力を無に帰そうとしている。
簡単に認められるはずもない。
平凡という言葉に逃げることは、もう許されないかもしれないと、シンジは心底から怯えていた。
何よりも、平凡ではいられなくなるかもしれない自分自身が怖かった。
1999年に南極で起こった事件により、世界のほとんどが壊滅した。
ユーラシア大陸と南アフリカ大陸はほぼ全滅。
南アメリカとオーストラリア大陸も、今は人類のものではない。
予言された破滅は、誰も予想がつかない形で訪れた。
南極大陸から溢れ出した、幻獣、あるいは使徒と呼ばれるATフィールドと呼ばれる絶対障壁を持った怪物たちという、人類の天敵の出現である。
そのグロテスクな外見とは裏腹に、彼らには高度な知性があった。
そして、彼らは人間を戯れに殺しつくすことを楽しんでいたのだ。
あらゆる武器が彼らには通用しなかった。
ヨーロッパに核を落としたアメリカは、残り少ない人類の最後の希望ともいえたが、作戦は結局失敗に終わった。
核攻撃は効かなかったわけではない。
幻獣の多くを消滅させることに成功したと記録には残っている。
だが、あふれ出てくる幻獣の数は、核攻撃によって消滅できた数を大きく上回った。
無限に増殖し続ける幻獣に対し、これ以上の核攻撃は無意味だった。
残り少ない人類を共に滅ぼし、結局は増え続ける幻獣に対して人類は打つ手を持たなかった。
その人類の最後の希望となったのが、特務機関ネルフである。
どこから手に入れたのか不明ではあったが、そのオーバーテクノロジーは、ある程度幻獣に対して有効であったことは間違いない。
その結果、人類と幻獣はほぼ拮抗状態にまで戦線を落ち着かせた。
2014年5月初頭現在。
人類は日本の本州以北と北アメリカ大陸に限って生存し、今も幻獣たちとの戦いを続けている。
生き残った人類の多くはクローンに置き換えられていた。
これもネルフの技術であり、死ぬために生まれてくる工場の大量生産品だ。
残り少ないオリジナルの人類は手厚く保護され、戦場にはクローンたちが送り込まれていく。
彼らは多くが年齢固定型であり、強化された肉体を持ち、生まれたその日から戦場へ出荷することが可能だった。
生殖能力を予め奪われ、ただ戦って死ぬための道具に過ぎない。
シンジの世代はその99%がクローンだという。
年齢固定型ではなく、セカンドインパクトと呼ばれる幻獣の進行の年、ネルフによって実験的に作り出されたプロトタイプクローンである。
ネルフが研究していた人型戦車へのシンクロ率が最も高く設定されたタイプで、その成長にはオリジナルの人類と同じだけの年月が必要となる。
年齢固定型クローンは、彼らが成長するまでの場つなぎとして生産されているのだ。
シンジはクローンではない。
特権階級にあるもののみが、自分の遺伝子を残すことが許される。
人工授精ではあるが、クローンとは決定的に異なっている。
ただし、その子供たちも、他のクローンたちと同じように生体強化されることはまぬがれない。
幻獣と辛うじて拮抗状態にある人類は、より強い肉体を持つ彼らに未来を託すしかなかった。
クローンとシンジの違いは、生殖能力があるかないか、それだけしかない。
もっとも、シンジが両親の元で暮らしたのは3歳のときまでだ。
詳しくは憶えていないが、3歳のとき事故で母を失ったシンジを、父親のゲンドウはネルフの研究施設であるラボに放り込み、その後一切の連絡を絶った。
特権階級の碇家の子息であるシンジは本来なら徴兵などされるはずもないのだ。
だが、碇家の当主であった母を失い、その夫であった父親に捨てられたシンジはなんの後ろ盾も持たずにラボへと送られた。
そこで行われたのは、女性化による生殖実験である。
特権階級の子息は男性に偏っている。
跡継ぎを男性と考える風潮が残っているせいだが、ようするに生殖能力を持つ子供の男女比率が著しく男性側に偏っているのだ。
オリジナルの人間の冷凍卵子や冷凍精子にも限りがある。
より必要なのは、卵子の方だった。
生殖能力を持ちながら、バックに何も持たないシンジは、ラボにとって格好のモルモットとなった。
女性ホルモンの大量投与と、数度にわたる手術、オーバーテクノロジーによる卵巣と子宮の生成。
男性としての機能を奪われたわけではないが、二年ほど前のシンジは限りなく女性に近かった。
それも、幼態成熟したかのように、身体だけが大人の女のようなグロテスクとも思える身体にされ、毎月卵子を提供させられた。
結果からいえば、実験は失敗とも成功とも言えなかった。
シンジの卵子は、受精はするが、着床しなかったのだ。
何度実験を繰り返しても同じだった。
ついには、シンジ自身の身体への着床が試され、それも失敗に終わると、シンジは研究員の男性への玩具へと下げ渡された。
それからの毎日は、職員の欲望を処理するだけの、実験体以下の獣のようなものだった。
処分されないために、シンジは男たちの欲望をすべて受け入れた。
いつか、すべてを消してやる機会をうかがいながら。
機会は思ったよりも早く来た。
タイミング的には、ラボの上層部がシンジの処分を考えた時期とタッチの差だった。
理由は分からないが、ラボが突然閉鎖されたのだ。
それも、職員と実験体の強制処分という乱暴なやり方でだ。
悲鳴と血飛沫が溢れる所内を、シンジは必死で抜け出した。
後から考えてみれば、シンジが助かる可能性は限りなく少なかったにもかかわらず、シンジは逃げ延びた。
街の明かりを見たとき、涙が溢れて止まらなかった。
ラボに入れられてから、8年の歳月が過ぎていた。
それから2年。
偽造した身分を手に入れたシンジは、生体強化クローンという、ある意味平凡な生活を送ってきた。
怪しまれないよう、偽りの身分で整備中等学校にも通い、どこまでも目立たない学生を演じきった。
この頃には、シンジは中性的で通る体つきになっていた。
男性器の裏に隠れている小さな女性器は、裸になってもあまり目立たない。
女性ホルモンの投与を止めてから、胸も微かな痕跡を残すだけだった。
このまま整備士になるのもいいかと考えていた矢先に、シンジは徴兵の辞令をもらった。
シンジと同じ年代の生体強化クローンなら、いつきてもおかしくはない辞令だ。
だがそこには、今までの偽りの偽名ではなく、碇シンジの名と共に、ネルフ司令碇ゲンドウの名が記されていたのだ。
シンジはそれですべてが判った気がした。
ゲンドウは、ラボで行われていた全てを知っていたのだ。
知っていながら放置した。
シンジがあの虐殺を免れたのも偶然ではなく、ゲンドウの意思によるものだろう。
そして、今までのシンジの全ての行動は、ゲンドウの監視下にあったのだ。
それを知ったとき、シンジは決定的に壊れた。
憎しみなど感じない。愛情など最初からありはしない。
ただ、真っ暗な空洞だけが、シンジの胸の中に巣くっていた。
バスを降りたシンジを、真っ赤なスーツに銀の十字架のペンダントをつけた派手な女性が待っていた。
辞令と共に入っていた写真に写っていた女だった。
(なんだろう、この派手な人)
異常な環境で育ってきたシンジには、思春期特有の思考が存在しない。
彼女の美貌も、豊かな胸も、シンジには一切関心がなかった。
ただ、単純に派手な女の人だという感想しか浮かばない。
「キミ、碇シンジくんね。よかったぁ! 遅刻しちゃったかと思ったじゃない。わたしは葛城ミサト……一応作戦指揮官よ。お父さんから聞いてない?」
スーツに付いていた階級章は、よく見れば千翼長のものだった。
とてもそんな上官とは思えないが、何故作戦指揮官が直々に自分を迎えに来るのか、シンジは不審に思った。
「辞令と……葛城さんの写真しかもらっていません」
「あ、あらら、そうなの? じゃ、まあ教室にでもいっしょにいきましょうか」
「教室ですか、葛城さん」
自分は戦車兵として徴兵されたのではないのか。
疑問をぶつけると、ミサトはにっと笑った。
「ミサトでいいわよぉ。これから戦友になるんだしねぇ。で、疑問の答えだけど、今うちの部隊にいるのは学生ばかりなの。九州撤退戦からこっち、あなたたちチルドレンに頼るしか道がないのよ。でも、大人のわたしたちはともかく、まだ学生のあなたたちに戦争ばかりやらせるわけにもいかないっしょ? だから、戦闘がない日は学生としてお勉強ってわけ」
「軍務教練もかねてですね」
「おお、かしこいわねシンジくん。その通りよ。私が教官もかねているから、ビシバシしごくわよぉ~」
「わかってます。生き延びるためなら、なんでもしますよ」
死ぬならもっと前に死ぬべきだったのだ。
ここまで生き延びてしまった以上、簡単に死ぬ気はなかった。
凍りついたようなシンジの表情に、ミサトは疑問を感じた。
(平凡なおとなしい子って調査表には書いてあったけど、ちょっちイメージが違うんじゃな~い? ま、写真で見るより美少年だけどねぇ~。あの司令の息子だもの、普通の子のわけがないか)
「じゃ、いくわよ」
ミサトは路肩に乗り付けていた青いルノーの助手席にシンジを押し込むと、思いっきりアクセルを踏み込んだ。
シートベルトは辛うじて間に合ったが、その乱暴な運転以上に、シンジには気になることがあった。
「ミ、ミサトさん!」
「なぁに! 話すと舌かむわよ!」
「学校って、もしかして、すぐそこなんじゃないですか?」
バス停のほぼ目の前に校門があり、ミサトのルノーは通学中の女子学生を轢き殺さんばかりの勢いで校舎裏の建物の前で急ブレーキをかけた。
「はーい。とーちゃーっく。ここが人類最後の砦よ」
肉体的に強化されているとはいえ、このGは少しきつかった。
ふらふらする身体で、車を降りたシンジの前には、プレハブの二階建ての建物があった。
「人類……最後の砦?」
「ちょーっち見栄えは悪いけどね。その分すごいのよぉ~」
何がすごいのか、聞くだけの気力はもうなかった。
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