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亀更新で二次創作やおいを徒然なるままに書き散らすブログです。ジャンルは様々気が乗った時に色々と。基本は主人公受け強気受け兄貴受け年下攻めで。でもマイナー志向もあり。
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そして二人は出会った。


 

 

「ブルーファースト」



 プレハブの2階は教室になっていて、部屋は二つしかなかった。
 一組が実際に戦闘に出るパイロットや指揮車の人間が集められ、二組は整備や救護衛生などを担当する人間たちが集まっているのだとシンジはミサトに説明された。



「実際には寄せ集めの独立愚連隊みたいなものだけどねぇ。そのかわりぃ~、正規の兵隊にはできない真似もできるってわけ。ネルフってのは情報管制は厳しいけど、現場の判断に任せてくれるありがたーい組織でもあるわけよ。そこんとこも聞いてないんだ?」


「それって、いい加減なだけじゃないんですか」


「ちょっち違うかなぁ。シンジ君が思ってるほど、ここは長閑なとこじゃないの。あなたたちは選ばれたチルドレン。実験的な意味もかねて最前線に送られることが予め決められた独立部隊よ。どこよりも死の可能性が高い場所。私たちはあなたたちを死なせないためにできる限りの術を教えるわ。だから、死にたくなかったら、ちょー厳しい特訓にも耐えてもらうし、死ぬ寸前まで、あなたたちを鍛えることになると思う。恨んでくれてもかまわないわ。でも、生きのびたいのなら闘いなさい。それが私に言える数少ないことよ」



 その言葉は、思った以上に真摯な言葉ではあったが、シンジの心を揺るがすほどではなかった。
 生き延びたいのなら?
 言われるまでもなかった。生きて、生き抜いて、この世の最後まで自分だけは生き残る。
 そのためにふざけた辞令を破り捨てずにここに来たのだ。
 ラボでの実験の悲惨さも知らない女の言葉に耳を傾けるほど、シンジは世界を信じていなかった。
 この残酷で滑稽な世界で、信じられるものなど何もありはしない。
 それでもシンジは生きたかった。
 生き延びて笑ってやりたかった。
 何を笑いたいのかは分からなかったけれど、それだけが今のシンジを支える全てであった。



(僕が何を考えているのか、あなたにわかるのか)



 あのラボ以上の地獄など存在しない。
 ミサトにそれを伝えるつもりはなかった。
 だから、シンジもミサトが見てきた現実を知るつもりはない。
 いやでも、自分は戦場に出なくてはならない。
 あの父親ならば、戦場に出ない自分など何の価値もないのだろう。
 ゲンドウが何を考えていてもかまわない。
 ただ、シンジは生きることだけに執着していた。
 無駄な反抗をして、処分されることだけはごめんだった。



「やっほーみんなぁ! 三番機のパイロットのご到着よぉ。仲良くしてあげてね」



 ミサトの言葉と同時に、いっせいに視線がシンジに集まった。
 思ったよりも閑散とした教室では、席についているものの方が少なく、集まった視線の多くは好奇心と、微量の敵意も含まれているのをシンジは感じた。



「候補生やなく、本決まりでっか、ミサトはん」


「ちょっと、どきなさいよ! へぇ、あんたがウワサの碇司令長官殿のご子息ってわけ? 適性値が高いからっていい気にならないでよね。実戦とシミュレーションじゃ全然違うんだから。あたしの一番機の足を引っ張るような真似したら殺すわよ」



 関西弁にジャージ姿の少年を蹴り飛ばして、シンジを睨みつけた少女は、真っ赤な髪と白い肌をした美少女だった。
 人種的に白人種との混血だということが容姿や体形から一目で分かった。
 彼女もまた、シンジと同じく特権階級の人工授精児なのだ。



「僕はシンジ。君のほうが僕のことをよく知ってるみたいだけど、君の名前を聞いていいかな」


「はーん? このあたしの美貌に目をつけたって無駄よ無駄。あたしは子供は相手にしないの。でもまあ名前ぐらいは教えてあげるわ。あたしの名前はアスカ――惣流.アスカ.ラングレー よ。同じパイロットとして特別に名前で呼ぶことを許してあげるから、ありがたく思いなさいね」


「わ……わいは、鈴原トウジ。一応2番機の候補生や。よろしゅうなって、惣流! さっさと足どけんかい!」



 踏みつけにされたまま、少年は叫んだが、アスカには完全に無視された。
 ある意味颯爽としたアスカと土台のように踏まれているトウジを、あらゆる角度から写真で撮りまくっている眼鏡の少年が、冷めた表情でシンジを見つめた。



「俺も一応2番機パイロット候補生の相田ケンスケ だよ。よろしくな碇」


「うん。よろしく」



 ケンスケの視線には、どこか嫉妬の色があった。
 理由は分からない。
 そもそも分かることの方が少ないのだ。



「はいはい。これでパイロット同士の挨拶は済んだわね。これからいっしょに戦うんだから仲良くしてねぇ。連携は大事よぉ~後で、整備の人たちとも会わせるから、シンジくんもいい印象与えるようにしたほうが得策よ。何しろ機体の整備は彼らの腕にかかってるんだから。自分の機体担当者とは仲良くしとくのは大切ね」


「ミサトさん。聞きたいことがあるんですけど」


「うーん、な~にかな~?」


「適性値ってなんですか?」


「ありゃりゃ、それも聞いてないの?」


「はい。初めて聞きました」



 それもも何も、何一つシンジは聞いていない。
 戦車兵として徴兵されたことは辞令で知っていたが、自分が乗る機体が既に決められていることも聞いていないし、適性値など言葉の意味も分からない。
 ラボでの実験データは全てゲンドウが握っているはずだが、なんの適性値が高いというのだ。
 自分も知らないことが、この場では既に既成事実となっていることが気持ち悪かった。
 まさか自分がされていた実験を知る者がいるとは思えないが、シンジがゲンドウの息子であることや、他にもシンジが知らないデータを彼らは知っている。
 それは嫌悪感を持つのに十分すぎる状態だった。



「シンジ君、あなたがこれから乗る人型戦車士魂号は、乗る人間を選ぶのよ」


「選ぶってどういう意味ですか」


「言葉どおりよ。士魂号に選ばれた人間しか起動することもできないの。使徒との戦闘ともなると、高い適性値、つまり機体とのシンクロ率が求められる。あなたの適性値は、ここにいる誰よりも高いと報告されているわ。だからこそ、複座式の3番機のパイロットにあなたが選ばれたのよ」


「複座式ってことは、僕にはパートナーがいるってことですか?」



 それは面倒だなとシンジは思った。
 平凡な仮面をかぶり続けるなら、命を懸けるような戦場で素顔を知られる相手などいてはならない。
 戦闘中でまで普通を装える自身は、さすがになかった。



「そうよぉ~。楽しみしてなさいシンジ君。あなたのパートナーのレイはすっごい美少女だから。襲っちゃダメよぉ~ふふふふ」


「ちょっと、ミサト、あんな人形女のどこが美少女よ! あたしに勝る美少女なんてこの世に存在するわけないじゃないの!」



 もともといい印象を持っていたわけではないが、シンジはミサトに決定的に嫌悪感を持った。
 よりにもよって襲うだと。
 ダメだといいながら、それを期待するようなミサトの台詞に、シンジははっきりと怒りを抱いた。
 自分が経験してきたからこそ、シンジは男よりも女の側に感情移入する傾向がある。
 数え切れないほどの陵辱を受けながら、シンジの精神は潔癖な少女のようなところがあり、ミサトの言葉がシンジの逆鱗に触れたのは当然といえば当然だった。



「そういえば、レイ遅いわねぇ」


「いつものことじゃない」


「あたたた。綾波は授業にはあんまりでないんや。無口で無表情やから、声もかけずらくてな」


「でも、今日はラボから直行させるって、昨日赤木班長言ってましたよ」



 ラボのひとことで、シンジは硬直した。
 使徒殲滅のために、あらゆる研究所があり、それはすべて通称ラボと呼ばれていることはシンジも知っていた。
 ラボの全てがシンジがいた場所のような狂ったところではないことも。
 だが、その多くが不条理な人体実験を重ねていることも事実なのだ。



「あの!」



 シンジは思わず声を上げてしまった。



「……その子は、ラボの出身なんですか?」



 答えたのはミサとではなくアスカだった。



「珍しくないわよ。アタシだってラボ生まれだし。両親はいたけど、ラボで育ったようなものよ。ファーストはある意味特別だけどね」


「君もラボで育ったんだ」


「それがどうしたっていうのよ。父親がネルフの司令だからっていい気にならないでよね。ここでは実力がすべてなんだから」



 アスカの台詞から、シンジは推察できた。
 ここでは、シンジがラボで育ったことを知るものはいないのだ。
 そして、3番機のパイロットだというのに、ファーストと呼ばれるラボ生まれの特別な少女とは、シンジも噂には聞いたことがある。
 ラボで最初に調整された強化クローンの少女。
 そのコードネームを頭に浮かべようとしたとき、教室のドアが無造作に引かれた。



「あらレイ遅かったじゃない」



 無感動にこちらを見つめる少女の顔は、半分が包帯で包まれていた。
 制服から見える手足にも包帯が巻かれている。
 そして、その髪は、鮮やかに青く、瞳は血のように赤かった。



「……ブルーファースト……」



 思わず、吐息のような声がシンジの口から漏れた。
 少女は確かに美しかった。
 だがそれは、何か大切なものがごっそりと抜け落ちた空虚な美しさだった。
 誰が見ても、綾波レイは人形のような少女だというだろう。
 シンジはだが、そこに何か強烈に引き合うものを感じた。



「あなた、誰」



 レイは、真っ直ぐシンジを見てそう言った。
 それが多分、二人にとってのすべての始まりだったのかもしれない。
 シンジはこの出会いを、忘れることはなかった。
 いつまでも。
 いつまでも。

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