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亀更新で二次創作やおいを徒然なるままに書き散らすブログです。ジャンルは様々気が乗った時に色々と。基本は主人公受け強気受け兄貴受け年下攻めで。でもマイナー志向もあり。
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最終勝者は誰でしょう?

「ラーメン王国札幌出身を舐めるなよ?」


 龍麻はニヤリと笑った。


 ことは数日前に遡る。
 言わずとしれたラーメン大王蓬莱寺京一が、何を思ったのか、変なことを言い出したことが、全ての発端だった。
 京一の言動がいつもおかしいことは置いておく。


「なんかよ、たまには家庭の手作りラーメンとか食べてみてー気がしねーか?」


「ほぼ毎日ラーメンばっかなのに、まだ食べたりないわけ? しかも家庭の手作りラーメンってなんだい京一。それって、インスタントじゃん」


 呆れたように小蒔が言うと、京一はむきになって反論してきた。


「馬鹿いうなよ。ちゃんと手作り用生めんだって売ってんだぜ。スープから手作りして、チャーシューも自家製。それが手作りってもんだろ。なぁ。ひーちゃん」


「麺から打たなきゃ、手作りとは言えないな」


「京一くんったら」


 葵は責めるような視線を京一に向けた。
 なぜそんな視線が向けられるのか分からない京一は、ガマのように脂汗を流した。
 俺は何か、とんどもない間違いをしたのかと自問自答する姿を、醍醐がはらはらと心配してみているが、醍醐にも葵の視線の意味がわからないのだからフォローの仕様がない。
 なにより、醍醐も葵に対しては腰が引けているので、わかっていても役にはたたなかっただろう。


「ひーちゃんも、その手作りラーメンっての食べたいの? 意外だね」


「小蒔、龍麻が今までにラーメンのスープを残したことがあった?」


「あれ、そういえば、おかわりもしていたような気が……」


 そう、口には出さなかったが、龍麻は京一にも劣らないラーメン好きであった。いや、京一を軽く越えるかもしれない。単にラーメンだけにこだわらないだけで、ラーメンに対する色々な深さは京一の比ではない。
 札幌にいたころは、札幌ラーメンマップの購入を欠かしたことはないし、自ら新たな店の発掘にも精を出していた。
 ラーメン王国札幌の名店すべてを食べ歩いた男なのだ。
 特に味噌ラーメンにかける拘りは、誰にも譲れない。
 京一の味噌ラーメンが好きなどという言葉は、ひそかに味噌ラーメンへの冒涜だとさえ考えていた。
 京一はラーメンばかり食べているが、奴にはラーメンへの愛が感じられないと龍麻は思っている。
 スープの最後の一滴まで飲み干す。
 それがラーメンという芸術への礼儀だろう。
 葵も口にして聞いたことはないが、常に龍麻を見ている(ストーカーにあらず)葵には龍麻の気持ちがよくわかっていた。
 だからこその言葉だった。
 龍麻の前で、ラーメンの話題は禁句である。


「京一」


「え~っと、なんだよひーちゃん」


 脂汗は冷や汗にと変わっていた。
 なんだか知らないが、とてつもなく怖い予感がする。
 京一は自分のうかつな発言を後悔した。


「そこまで言うのなら、お前は手作りラーメンを作れるんだな?」


「はい?」


 自分は手作りラーメンを食べたいとは言ったが、作れるとは言っていない。
 そう思ったが、長い前髪から見え隠れする座った眼光を前にして、否定の言葉を紡ぐことはできなかった。


「次の日曜は、翡翠の家でラーメンパーティーだ。各自自分の作ったスープを持ち寄って、翡翠の家でラーメンを作る。もちろん京一、ラーメン大王と名乗るんだから、それなりのものは用意してこいよ」


「いや、ひーちゃん。俺、作る方は……いえ、なんでもないです」


 そもそもラーメン大王なんて名乗った覚えもないとは、やはり言えなかった。


「じゃ、ボクと葵も参加するね。醍醐くんはどうする?」


「いや、俺は遠慮させてもらおう。とても龍麻の口には合わせられそうにないからな」


 俺だってそんな自信ねーよとは、京一に言う余地は残されていなかった。
 龍麻の前で手作りラーメンの話など振った京一が悪い。


「そうね。私も龍麻の口にあうかは自信がないけれど、頑張ってみるわ」


 にっこりと菩薩の笑みを浮かべて、葵は言った。
 もちろん謙遜である。
 龍麻の好みはチェック済みだし、料理には自信がある。
 少なくとも京一に負けることはあり得ない。
 それだけで、葵は充分だった。


「じゃ、決まりな。俺のラーメンも期待してろよ。本場の味を教えてやるからさ」


 こうして、なし崩しにラーメンパーティは決まってしまった。
 そして、家主の承諾を取っていないことを突っ込むものは誰もいなかった。


 決戦の日曜日。
 如月家は異様な熱気に溢れていた。
 どこから嗅ぎつけてきたのか、壬生と劉がメンバーに加わっている。
 会場提供者の若旦那は、呆れたように沈痛な顔をしながら、実は内心喜んでいた。
 真神連、特に京一と龍麻に連れまわされ、彼はいつの間にかラーメン中毒になっていたのだ。
 普通なら嫌いになりそうだが、避けて通れない道は受け入れることを学んだ彼は前向きにラーメンを好物にすることにした。
 もちろん京一には内緒である。
 同類に見られるのも、からかわれるのもまっぴらだ。
 家主権限で審査員となった如月は、龍麻の手作りラーメンという言葉だけでトリップしていたが、それに気がついたのは壬生と葵ぐらいだろう。
 龍麻はラーメン作成に燃えているので、ほわーっと幸せオーラを出している如月にはまったく気がついていなかった。


 付け焼刃でラーメン修行をした京一は、スープ鍋を前に固まっている。
 その間にも、参加者は既に自慢のラーメンを作り終えていた。


「はーい! 一番桜井小蒔行くよ~!」


「へぇ」


「おや、これは」


「意外によくできてるなぁ。旨いぞ桜井」


「麺は満点やね」


「おいしいわよ、小蒔」


 口々に褒められて、小蒔はへへへへへと照れ笑いを浮かべた。


「ひーちゃんの採点はどう?」


 審査員は如月だが、やはり龍麻の評価が一番気になって、小蒔は表情に乏しい龍麻を覗き込んだ。


「麺は80点をつけてもいいな。店に出しても通用するレベルだ。すごいぞ小蒔。ただ、醤油ラーメンと太麺の組み合わせは失敗だったな。細麺にしていたらさらに旨くなったはずだ」

「ええっ、それっておいしくないってこと?」


「いや、素人としては十分以上だ。いい嫁になれるぞ、な、醍醐」


「な、な、な……いや、確かに俺もそう思うが、いや、その」


 赤くなった醍醐を見て、小蒔もなんだか頬が熱くなってきた。
 なんだろこれと悩む小蒔の自覚ももうすぐかもしれない。


「ありがとう、ひーちゃん。醍醐くん」


「よかったわね。小蒔」


「うん。次は葵だね」


 葵が出したのは、柔らかくて大きなチャーシューが乗った味噌ラーメンだった。
 半熟の煮卵とひげをとって炒めたもやしが乗り、海苔がトッピングされている。
 細かく刻んで油通しした葱が少し脂の多いスープに一面に散っていて、一歩間違えればくどくなるコクのあるスープをあっさりと仕上げている。


「こ、これは!」


 審査員の如月が感嘆の声を上げた。
 それほど、葵のラーメンは完璧だった。


「ひゃー店のラーメンよりうまそうや」


「さすがだね、葵!」


「うむ。これは見た目も味もすごく旨い」


 龍麻はスープを一口すすると、きらっと目を輝かせた。
 前髪に隠れて見えないが。


「極めたな葵。出汁と鶏がらスープと合わせ味噌と大蒜の絶妙なコンビネーション。豚の背脂を惜しげもなく使いながら、しつこさがない。麺もチャーシューもトッピングも完璧な出来映えだ。これなら札幌で店を出せるぞ」


「龍麻に喜んでもらえて嬉しいわ」


 紅葉は無言で葵に賛辞を送った。
 やはりライバルといえるのは最終的に彼女しかいない。
 手芸アサシンは、葵に真剣な視線を向けると、穏やかな慈愛のまなざしが帰ってきた。
 その微笑を見るたびに、紅葉は深い苦悩に襲われる。
 龍麻に相応しいのは、やはり彼女しかいないのではないのかと。
 葵が紅葉と龍麻の二人の関係にエールを送っていることを紅葉は知らない。
 よって彼の苦悩はいつまでも続くのだった。


「あ~、俺のも一応できたんだけど。ひーちゃん食ってくれるか?」


 審査員はあくまで如月である。
 しかし、京一にとっては龍麻の機嫌を取らなくては意味がないのだ。
 勇気を出して、京一はラーメン丼を龍麻の前に差し出した。
 しかし、帰ってきた反応は。


「却下だ」


「一口も食べてねーじゃん!」


 京一のラーメンは、工夫は見えなかったが、ごく普通の味噌ラーメンだった。
 謎の物体が入っていたりとか、スープがあり得ない色をしていたりもしない。だが、龍麻の評価は厳しかった。


「食欲をそそる香りがまったくしないんだよ。お前、出汁抜きの味噌汁に市販の麺を放り込んだだけのものをラーメンと言い張る気か? 正気で言ってんだろうな。ああ?」


「出汁ならちゃんと入れたぜ! そりゃ、麺は買ったけどよ、でもよォ」


「ためしに聞くが、出汁は何を使った?」


「味の素」


「そりゃ、化学調味料だ!」


 龍麻の怒りの裏拳をくらった京一は、一発で倒れた。
 秘拳黄龍じゃなかっただけマシだろう。


「ああ、猿に調理は無理だよ龍麻」


「京一くんにラーメンが作れるなんて、龍麻だって思っていなかったわよね?」


 葵が少し気の毒そうに京一を見ると、龍麻はぐれぐれの態度で畳みに座り込んだ。


「だから、ラーメンへの愛の深さを教えてやっただけだよ。ラーメンは一口では語れない奥が深いものなんだ。それをこいつは、毎日のようにラーメンラーメンと、ラーメンに味の素を入れるような奴がラーメンを語るなってんだ」


 かなり鬱屈が溜まっていたらしい。
 札幌のラーメンマニアを甘く見てはいけない。


「最後に僕のラーメンを食べてくれないかい、龍麻?」


 だから審査員は如月だというのは、本人も含めて全員もうどうでもよかった。


 紅葉が出したラーメンは、見るからに毒々しかった。


「赤いな」


「そうやな、真っ赤や」


「じ、地獄ラーメンか?」


「やっぱり、料理は愛なのね」


「葵? 正気に戻って!」


 龍麻は見た瞬間に、紅葉の想いが感じられて、不覚にも感動してしまった。


「激辛味噌ラーメンか」


「「「「「う!」」」」」


 味見をした全員が辛さの余り、悲鳴をあげそうになった。
 もちろん龍麻を除いて。
 龍麻はすごい勢いで麺をすすり、スープを最後まで飲み干すと、紅葉に笑いかけた。


「よく俺の好みがわかったな?」


「いつだって、君を見ているからね。で、お味はどうだい?」


「やっぱり、葵の言うとおりだろう」


 ラーメン丼を抱えたまま、二人はいつまでも見詰め合っていた。
 そんなふたりを見守る周囲の目も温かい。
 ただ、自慢の塩ラーメンを食べてもらえなかった劉の寂しい独り言だけが虚しく響いた。


「わいのラーメン。中国から仕入れた岩塩使った自信作やのに」


 気にするな、劉。
 忘れられた審査員の如月が、口直しに君のラーメンを食べて、その旨さに驚愕しているぞ。


 狂乱のラーメンパーティは、ラーメンは愛ということで終幕した。
 隠れラーメン好きの家主も大喜びだった。
 気絶したままの京一は、醍醐に回収され、月曜日には何事もなかったかのように登校して、帰りはやはりラーメンだよなと懲りないことを言って、龍麻に吹き飛ばされたそうだ。

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