柳生との戦いで瀕死の重症を負った龍麻は、桜ヶ丘中央病院に入院していたが、クリスマスイブに退院することになった。
入院中は入れ替わり立ち代り見舞い客が訪れたが、退院手続きを取っていた龍麻を迎えに来たのは京一だけだった。
それは龍麻が京一と一部の人間にしか退院の日にちを教えていなかったせいだった。
「なあ、ひーちゃん。今日はクリスマスイブなんだし、一緒に過ごしたい女の子のひとりぐらいいるんだろ?」
龍麻は困惑した。
京一の心遣いは嬉しいが、一緒に過ごしたい相手はいるが、それは女の子ではない。
カミングアウトしてもかまわないのだが、なんだかうるさくなりそうで、自然にばれるまではそっとしておいてもらいたかった。
「いや、俺は別にいっしょにいたい女の子はいないけど。イブだっていうなら余計にな」
「ひーちゃんってクールだよな。よし、俺が付き合ってやるよ! 奢ってやるからラーメン食べに行こうぜ!」
「ああ、それでいいよ、でも京一こそ女の子を誘わなくてもいいのか?」
「こんな時ぐらい男の友情優先だろ。俺はひーちゃんがいいなら、いいんだよ」
「男の友情ねぇ」
京一が自分に恋愛感情で惚れてることぐらい龍麻も気がついている。
だが、本人が気がついていないのだから放っておいている龍麻だった。
下手に自覚されて、迫られても困る。
あくまで京一とは親友でいたい。
人を好きになる境目はなんだろうか。
何故人は人を好きになるのだろう。
初めて会ったときから、龍麻は如月が好きだった。
如月の店で初めて会ったときから、何か惹かれるものを感じていた。
義妹の麻麟に指摘されてから、如月に告白したのは龍麻の方だったけれど、自分たちは上手くいっていると思う。
なのにどうして。
真神のみんなと合流して、異次元に飛ばされた龍麻は、そこで比良坂に出会った。
過去を繰り返し、比良坂をかばったとき、彼女は現実に戻ってきた。
まるで最初から龍麻たちといたように。
その時龍麻は思った。
奇跡を信じないといった彼女に訪れた奇跡。
だが、それは特別なことなのだ。
いなくなった人とは二度と会えない。
壬生に会いたいと思った。
今すぐに、壬生に会いたかった。
皆と別れて、龍麻はアパートに向かった。
何故かそこに壬生がいるという確信があった。
「やあ、龍麻。遅かったね」
如月といると龍麻はいつでも落ち着けた。
でも、壬生を見ると泣きたくなってくる。
今も自分を待っていた壬生を見ると、涙が溢れてきそうだった。
「待っててくれたのか」
「渡したいものがあったんだ」
これといって、龍麻の首に巻きつけられたのは、オフホワイトのマフラーだった。
僕が編んだんだと巻き付けられたマフラーは温かくて、息が詰まりそうになる。
「紅葉、俺は紅葉が好きだ」
「僕もキミが好きだよ。許されないことかもしれないけれど」
「俺には翡翠がいる」
「知っていたよ。ずっとキミを見ていたからね」
「だけど、紅葉のことも好きなんだ。二人とも好きだ。二人とも失いたくない。こんな俺はずるいと思うか?」
「如月さんに殴られる覚悟はできているよ。僕とキミは半身だ。キミが許してくれるなら、僕はキミの側にいたい」
「翡翠はそんなことしないぜ」
龍麻は背伸びすると、壬生に軽く触れるだけのキスをした。
「た、龍麻」
「今日は俺のとこにこいよ。明日いっしょに翡翠のとこにいこう」
龍麻のアパートの前で、ふたりはしばらく寄り添っていた。
[0回]
PR