龍麻、君は今どこいるんだい?
僕は任務を止めて、新しい仕事についているよ。
君は必ず帰ると約束してくれたけれど、それでも不安で仕方がなくなる時があるんだ。
もちろん、君を信じてないわけじゃない。
ただ、僕の知らない場所で、君が危険な目にあっていないか、それを心配してしまうのは仕方のないことだろう。
ああ、もちろん君はとても強いけれど、とても危ういのも事実だからね。
そんなことを言えば、きっと君はすごく怒るだろうね。
顔まで思い浮かぶよ。
僕は今、M+M機関という退魔を生業とする組織に所属しているんだ。
仕事で人を殺めてきた僕を、君は一度も責めなかったけれど、暗殺という仕事のあとで君に触れるのは、いつだって苦痛だった。
館長を恨んだことはないし、それは僕が自分で決めたことだったけどね。
つらくないと、思っていたんだ。
君に会うまでは。
殺人者の僕が君に触れるのは、君を汚すようで怖かった。
そんなことはないって、君は怒ったけど、これは僕の心の問題だから。
どんなに君が否定してくれも、本当に怖かったんだ。
君は自分の手だって血塗れだと言ったね。
だけど、僕と君では、やっぱり違う。
僕は仕事を言い訳にしていたけれど、君は自分の手を汚すとき、すべて自分で背負う覚悟がいつだってあった。
その強さがいつだって眩しくて、惹かれずにはいられないのに、それを罪のように感じる自分がいたんだ。
だから、館長に頼んで仕事を止めさせてもらった。
館長は謝ってくれたよ。
今まですまなかったって。
そんな必要ないのにね。
これは、僕の我侭だから。
退魔を仕事に選んだのは、少しでも君と同じ世界にいたかったからなんだ。
どんなに離れていても、どこかで接点が欲しかったのかもしれない。
僕は君の半身として、本当に相応しいんだろうか。
学生のときは考えない日はなかったよ。
だけど、そんなこと関係なかったね。
半身だから僕は君を好きになったわけじゃないし、そんなことだけで君を繋ぎとめられるほど、君は軽い存在じゃない。
少しは自信がついたと思う。
君に必要とされているって、今はちゃんと思えるよ。
蓬莱寺くんに嫉妬していた自分が馬鹿みたいだね。
僕は君の相棒にはなれないし、なりたいわけでもない。
如月さんが君の帰る場所で、僕は君の半身だから、離れているのは寂しいけれど辛くはないよ。
退魔の仕事の関係で、如月さんとは前より頻繁に行き来してる。
話すのは、君のことばかりだけど。
ひとつの場所にいられない君に、ついていけたらどんなにいいだろうと本当は思っているんだ。
でも言わないよ。
君を困らせるつもりはないんだ。
ずっといっしょにいたいけれど、君を縛るのは嫌だしね。
すまないと思って欲しくないんだよ。
君を待つのは僕の勝手だから。
自分勝手なのは僕のほうなんだ。
待つのは嫌いじゃないよ。
帰って来てくれるって知ってるから、待つのも楽しいんだ。
共にいられない代わりに、こうやって僕は空に手紙を出している。
この声が君に届かなくても、空を見るたびに君を想う僕は幸せだよ。
新しいオフホワイトのセーターを編んだんだ。
僕の退魔の腕も上がったから、守護つきのセーターは自信作なんだ。
きっと君に似合うと思う。
君が帰って来たら、如月さんの家でお披露目しようね。
如月さんもきっと喜んでくれるよ。
麻麟さんと如月さんは相変わらず睨み合いをしているよ。
みんな苦笑してるけど、あれはあれで仲がいいんだろうね。
僕には優しいのに。
君がいない間に、麻麟さんはとても綺麗になったよ。
求愛者が群れを成しているけど、お眼鏡にかなった人間はいないみたいだから安心していいよ。
東京の瘴気にも耐えられるぐらい元気になった彼女には、時々仕事を手伝ってもらってるけど、これも君には内緒の約束なんだ。
妹には過保護すぎる君に、こんなこと知られたら、僕にも黄龍だろうね。
いつだって龍麻に会いたいよ。
どこに行ってもいいから、いつか僕のところに帰って来てくれるなら、僕はいつまでだって待てる。
そして、絶対に言わないけど、いつか君と歩める日が来ればいいと願っているよ。
だから、その日まで、待っていて欲しいんだ。
必ず足手まといにならないぐらい力をつけるから。
もちろん言わないけどね。
「愛してるよ、龍麻」
「毎回毎回、うちの縁側でトリップするのはやめてほしいものだよ……はやめに回収に来て欲しいんだが」
骨董屋の若主人は、温めのお茶をすすると、深いため息をついた。
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