何故こんなことになったのか、安原は考えに考え、結局思考を停止した。
常識よさようなら。
今更柳瀬絡みの事柄を考えるだけ無駄である。
柳瀬ことゴードンの妻になり、ついでに組織入りさせられてから、安原は思いっきり日和見主義をつらぬいている。
藪を突いて蛇が出るのは誰だって嫌だ。
男同士で結婚して、しかも相手は何万年も生きているかわからない地球外生物である。
状況になれつつある自分にうんざりする安原だった。
安原の特技は嘘話と毒舌だが、実は家事一般も得意である。
嫌がらせのために、同じような境遇の女子生徒にフリフリの制服を自作してあげたら、大喜びされてしまったこともある。
そこで今回の問題が起こってしまった。
柳瀬は学校では手作り弁当なのだが、その弁当はほとんど味がしない。
なんでも、「戦場では何でも食べられなければ生きていけなかった」かららしいが、いくら二人の側には莫迦しかいないと言っても、組織のことを隠す気がないとしか思えない柳瀬の発言には胃が痛くなるばかりだ。
そんな安原に、マシンガントレイシーは笑顔で提案した。
「じゃあ、ミンミンが作ってあげればいいわよ」
ちなみに安原のコードネームはトンファーミンミンである。
制服はチャイナ服だ。女子の陰謀である。
女性陣に押し切られる形で、柳瀬に手作り弁当を作ることになってしまった安原だが、これって愛妻弁当とかいうんじゃあと思ってひとり赤くなった。
結婚はあくまで組織の掟のために、死にたくないから選んだだけで、自分とゴードンの間には関係らしい関係など何もない。
それでも組織での安原の立場はゴードンの妻であり、学校では不本意ながら公認カップルである。
これで弁当など手渡したら、愛妻弁当呼ばわりされることは間違いない。
だが、弁当を作ってやったら、柳瀬がどんな反応するだろうなと思ってしまった安原は、色鉛筆で設計図のようなものまで作って、栄養バランスのとれた豪華弁当を作ってしまった。
「柳瀬、弁当作ってきたんだけど」
もちろん食べるよなという気迫を込めて、安原はにっこりと笑った。
安原の笑顔に圧されたのか、柳瀬は黙って弁当を受け取った。
「おいおい愛妻弁当かよ。安原のことだから毒でも盛ってんじゃないのか」
「まさか、佐藤くんじゃあるまいし」
案の定予想通りの言われようだったが、安原は柳瀬の動向をじっと見つめていた。
「大丈夫だ。毒には身体をならしているからな。大抵の毒はきかん」
「それが夫の言う台詞かぁぁぁぁ!!!!!」
安原は見物していた莫迦二人を蹴散らして教室から出て行った。
「……夫?」
「まさかとは思ったけど、やっぱり」
安原に蹴り飛ばされた莫迦二人は、こそこそと話しこんでいたが、残された柳瀬は安原特製豪華弁当を、米粒一粒残さずにたいらげると、めずらしく瞳を開いて言った。
「うまい」
食べ物が美味いって言うのは、こういうことだったんだなと、柳瀬はひとり感心していた。
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