夜明け近い公園の木の下で、速水は来須の太い首に手をまわした。
誘ったのは速水だったが、来須がそれにのるとは思っていなかった。
真面目で禁欲的な普段からは想像もつかない荒々しさを持っていることを、既に何度も身体で知っていたが、それだけに取引などに応じる男ではないこともわかっていたつもりだった。
来須は瀬戸口とは違う。
見返りなど与えなくとも、速水の思うとおりに動いてくれるはずだった。
何よりも、恩人たる舞のために。
速水の生きる道は舞と同じなのだから、舞の唯一無二のパートナーとして認められた時から、来須は速水を運命の友に選んだ。
最初は犬のようだと心の中で蔑んでいた。
来須は絶対に裏切らないと知った後でも、人の裏を読んで弱みを握らなくては安心できない性質が邪魔をして、どこか不安でならなかった。
来須を誘惑したのは、誘いに乗らないことを確認したかったからかもしれない。
期待は笑えるぐらいあっけなく裏切られた。
この男も同じなのかと、苦い思いで抱かれたとき、はじめて自分の思い違いを知った。
欲しかったのは自分で、来須はそれに応えただけだということを。
「来須……」
厚志は自分から舌をからめて、来須の口内を蹂躙した。
同じ年代の人間と比べて小柄で中性的な自分と比べると、歴戦のスカウトである来須とでは体格差がありすぎて、来須はいつも速水の誘いに戸惑った様子を見せる。
慣れていないことは分かっていたが、何度自分を抱いても最初のキスのときに浮かぶ微かに照れた表情が速水は好きだった。
もっとも、ほとんど人間にはいつもどおりの無表情に見えるだろうが、来須銀河という人間は思われている以上に照れ屋だった。
なんだか自分の方が来須を犯しているような妙に気恥ずかしい気分になって、来須との逢瀬は速水を純粋に楽しませる。
心が荒んでいるときや、疲れているとき、来須の存在は速水にとって大切な安らぎになっていた。
案外器用な指が速水の制服を脱がしていく。
望まれたこと以外をしようとしない来須を教育するのは楽しかった。
自分を木に押さえつけた体から伝わる鼓動の速さが来須の興奮を教えてくれる。
布越しにもわかる下部の膨らみが、自分への欲望を感じさせて、それだけで速水はこれからの行為に期待する自分を抑えられない。
14という年齢から考えられない経験の多さのわりに、速水は性行為を疎んじてきた。
速水にとって、それは単なる目的達成の手段に過ぎなかったからだ。
そんな自分が、理由もなく来須に抱かれることを許している。
瀬戸口はその戦力が必要だったから、身体を差し出すのは単純に交換条件だったが、来須は違う。
速水は来須が純粋に欲しかった。
夜目にも鮮やかな白い肌が外気にさらされると、来須は細い身体を強く抱きしめた。
白人種の来須のほうが本来は色が白いが、速水の肌は東洋人特有の透き通るようでいて、陶磁器のような滑らかな白さだ。
大きな手のひらで小さな胸の飾りを転がされると、小さな喘ぎが漏れる。
トレードマークの帽子で隠された表情は伺えないが、余裕のない唇が速水の肌をむさぼった。
いざはじまってしまえば、来須の愛撫には容赦がない。
いきなり花芯を握られて、速水は悲鳴をあげた。
「来須! もう少し…あっ……ゆっくり…っん!」
触れられる前から、速水のそれは震えたように立ち上がり濡れていた。
痛みすら、今の速水には快感に刷りかえられる。
「すまん」
いつもどおり、短く来須が謝罪するが、お互い息が上がっているのがよくわかる。
「あっん……やっ…前は………いいから」
来須の肩に片足をかけると、速水は鋭い水色の瞳に舌を這わせる。
「ねっ……来須をちょうだい」
艶めいた声で来須を呼ぶと、ためらうような不器用な動きで、しとどに濡れた秘所に指が差し入れられる。
「ひ…あっ……!!」
柔らかく潤った速水の内部は、ほとんど抵抗らしい抵抗もなく来須の指を飲み込んでいく。
ぐちゅぐちゅと音を立てるそこは、女のように内部できつく来須の指を締め付けた。
「あ…ああああっっっ……来須! ゆ……び…やっ…」
三本に増やされた指が、激しく内臓をすりつけるが、慣れた身体がもっと強い刺激を求めている。
飢えたような悩ましい表情は、昼の速水には見られない淫靡な美しさを醸し出している。
食虫花や蘭に例えられたこともある夜の速水を、来須は月下美人だと言った。
すべてとは言わずとも、淫乱と蔑まれる速水の過去の知りながら、こんなふうに乱れる彼を抱きしめて、穢れなき孤高の花だと微かに笑った。
『僕の手が血塗れでも?』
『お前を穢せるものは存在しない。血を浴びていないものが今のこの世界にどれだけいるのかオレはしらん。世界に愛されるものへの称賛以外の言葉などない』
涙が出た。
本当の笑顔は舞のためだけにある。
なら、来須には喜びの涙を与えよう。
そう決めた。
「……はやく……き…て……」
求めと同時に指が引き抜かれ、灼熱の杭が速水の身体を刺し貫く。
「ああああああああああ!!!!!」
痛みは感じなくても、最初の衝撃だけは受け流すことができず、速水は悲鳴をあげた。
内臓がせりあがり、喉から出そうな気さえする。
「く……る…す……くる……す!」
前後に激しく揺さぶられ、快感で意識が遠くなりそうになる。
快感というより、衝撃の方が強いかもしれない。
技巧をこらさない来須の動きは、激しく純粋だ。
誰に抱かれているときよりも、求められている気がする。
溢れる涙を唇で来須が拭うと、より深く来須自身が速水の中へと潜り込む。
「あっ! ……ん……やっ……」
零れ落ちる言葉にもう意味はなかった。
(ああ、青い光が……)
霞んだ視界に青い輝きが互いの身体に集まってくるのが見えた。
「見えるか?」
速水の両足を抱えなおすと、耳元に来須が囁く。
「きれ…い…」
掠れた声で告げると、いっそう強くある一点を来須は突き上げた。
「………!!!」
「くっ!」
熱い迸りを身体の奥深くで受け止めると、一瞬遅れて速水も欲望の証を来須の手の中に放った。
「やりすぎ」
「すまん」
夜明け近くにようやく開放されると、速水は来須を恨めしげに見上げた。
「いいけどね。誘ったのは僕だし」
すっかり腰が立たなくなってしまった速水を抱き上げようとする来須の手を、一応叩くと、速水はおんぶを要求した。
「ねえ、来須。さっきの光はなに?」
幻覚だったとは思えないが、速水がはじめて見るものだった。見えるかといった来須の言葉をおぼろげに憶えている。
「リューンだ」
「なにそれ」
「お前が精霊に愛されている証だと思えばいい」
「それは来須でしょう」
来須にも青い光は集まっていた。
神秘的な光は、そのまま来須のイメージでもある。
「同じことだ。オレは風を追うものだからな」
何故かは知らないが、速水はその言葉に胸が締め付けられるような気がする。
聞いたことがない言葉。
来須は極端に無口だが、話すときは案外望むままに言葉を返してくれる。
ただそれはいつも説明が足りないし、来須の義姉のヨーコの言葉と同じぐらい意味不明なことも多い。
言葉がないほうが、来須の言いたいことがわかるなと背中に抱きついたまま速水は思った。
「来須はいつか行ってしまうんだ」
速水は世界について何も知らない。
だが、新たなアラダとして覚醒しつつある魂のどこかが真実を知らせる。
「今はまだお前の側にいる」
速水が来須を必要としなくなったとき、来須はこの世界から消えるのだろう。
何もかも手に入れることはできない。
自分にとって一番大切なのが舞である以上、それは確実な未来予想図だとわかっている。
それでも──────。
「いっしょにいたいのは嘘じゃないんだよ」
速水は来須の首に顔を押し付ける。
夜はもう明けていた。
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来須先輩大好きです。
でも先輩は旅人なので、去っていく背中しか思い浮かびませんよ。
エロが書きたかっただけの作品ですが、あいかわらず私のエロって淫靡さが足りない。
速水は舞が至上で来須先輩になついてます。瀬戸口は下僕。
戦場での来須先輩もいつか書きたいですね。
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