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亀更新で二次創作やおいを徒然なるままに書き散らすブログです。ジャンルは様々気が乗った時に色々と。基本は主人公受け強気受け兄貴受け年下攻めで。でもマイナー志向もあり。
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瀬戸口×速水です。
青速水かな。
それは、稀なる歌い手にして、世界と己を偽り、嘘を真実へと変えるもの。
ブータと瀬戸口とシオネアラダの昔と今。

 あしきゆめと人族の地獄のごとき戦場に、精霊の青き輝きが収束していく。


「おお、あれは新たなアラダの光。火の国の宝剣を受け継ぎしもののあかし!」


 ブータは泣きながら歌った。
 長靴の国の戦の歌を。
 ブータの声に唱和して、猫神族たちが絶望より生まれる希望の歌を声を限りに歌いだす。
 ブータは忘れない。
 千年の嘘を真実に変えた戦女神のことを。
 猫は愛するもののためにだけ戦い、愛するものの嘘を本物にするために死ぬのだ。
 新たなアラダは誕生した。
 彼女の望みは果たされる。
 戦うためだけに生まれてきたなどと、彼女はどこまでも嘘つきだったとブータは思った。
 哀れな世界の贄の誕生を祝福し、世界から解放された乙女の幸せを祈る。


「シオネ・アラダよ。稀代の詐欺師よ。死せる後も嘘を貫いた偉大な魔女よ」


 あなたの望みは今こそ成就する。




「キッドよ。何故そこまで彼女を否定するのだ」


 猫神族の王ブータは、瀬戸口の肩にのり、心話で嘆いた。
 全長一メートルの巨体を肩にのせながら、瀬戸口はほんのわずかもバランスを崩さず、校庭で訓練を続ける速水と壬生屋に、睨みつけるような視線を向けている。


「ヌマ……あんたが何を考えているのかは知らないが、壬生屋と俺のことを勘繰っているなら、お門違いだ」


 常のふざけたような態度はなりを潜めていた。
 そこにいるのは、厳粛なる死神。死を呼ぶ舞踏。
 瀬戸口の言葉には、少しの迷いも見えない。


「あの少女と彼女は違う。それが許せないのか」


 女神の嘘をこの古き友は知らない。どこまでも彼女の嘘を信じ生きた千年が、ただの少女を求めた女性と同一だと考えることを拒否するのかとヌマは考えた。


「許せなかったのは自分だ。彼女を守れず、二者を求めたあげく、また大切なものを失った。俺はもう間違えたくない」


「幼き雨の巫女への裏切りだと?」


 人の手によるまがい物とはいえ、あの幼女もアラダには違いなかった。
 その魂は違っても、同じ血と肉体を持つ穢れなき乙女。
 おそらくは、真実のアラダよりも純粋だった幼き魂が散ったことは哀れであった。それでも、愛した魔女の真の願いを知るブータは、瀬戸口(キッド)の迷いを断つためにも仕方なかったのだと思っていた。


「壬生屋はアラダじゃない」


「キッド! それは!」


「そうじゃない、ヌマ。壬生屋と彼女は同じ魂を持っているのだろう? 俺が追い続けたのは幻だった。それでよかったんだ。残酷なのは俺のほうだ。本当は俺は、生身の彼女を求めたことなど一度もなかった。俺はただ、穢れなき女神の夢を見ていただけ。英雄であることを彼女に望んだのは俺のほうだった。そんな俺が壬生屋の手をとる資格などないし、そうしたいとも思わない」


 ああ、それが彼女の嘘だった。ブータは耳をふせた。
 シオネ・アラダは聖女などではなかった。
 誰よりもあしきゆめを殺しつくした残酷な魔女であり、後世にまでその気高さを記させた偉大なる詐欺師。
 彼女が望んだのは、世界の平和でも人を守ることでもなく、聖なる女神としてただ一匹の鬼の心を捕らえることだった。
 笑顔で嘘を突き通した魔女を、ブータはどれだけ愛しただろう。
 来世では、普通の女として彼に愛されたいと願い、全てを巻き込んでだまし続けた傲慢な女を、ブータは真実愛していた。
 猫は愛に命をかける。だが、偉大な魔女に愛された若き鬼は、彼女の嘘をあまりに純粋に信じすぎた。


「あの少女は、アラダの記憶を持たぬし、そなたを慕っておるよ。それでも己を許せぬか」


「長い間ひととして生きて、俺はずいぶんと変わったよ。人のように迷い、何度も誓いを破りそうになったが、どうやらこの誓いは守れそうだ」


「キッド?」


「俺はアラダに忠誠を誓った」


「ああ、それはそうだが……」


「新たなアラダは誰だ? ヌマ」


 まるで憎んでいるような強い瞳を向けているのは、彼の人の転生した少女ではなく、精霊手を手に入れ、小神族の長女イトリの守護を受ける少年の姿だった。


「キッド! アラダは誓いでお前を縛ろうとはしなかったはずだ! おぬしが幸せに生きることを、彼女は真に望んでいたのだ。新たな絢爛舞踏に忠義を誓う理由がどこにある!」


 これもまた嘘だ。
 彼女は鬼の全てを欲した。魂を掛けた忠誠を。来世での愛を。
 臆病な女だった。弱く醜く傲慢で欲張りで、だからこそ誰よりも気高く強くありえたのだ。
 壬生屋という少女は、嘘が得意ではないことを除けば、かつてのアラダそのものだというのに、望みどおり普通の少女になった彼女では、アラダの虚像には勝てぬというのだろうか。
 ブータは愛した友を哀れみはしない。
 彼女は望みのままに我侭に生きたのだ。
 鎖に繋がれながらも、どこまでも貪欲に。


「次のアラダが坊やじゃなければ、俺は壬生屋を愛したか? 違うな。壬生屋には苛立ちしか感じなかった。それは確かに壬生屋が特別なことを本当は知っていたからだ」


「ならば、キッド……」


 猫神族の王として、新たな人族の代表に力を貸そうと決めている。
 キッドが忠誠を誓ったとしても、ただの少女であるアラダの転生を愛して何が悪いのか。


「俺はかつてのシオネ・アラダを崇拝していた。ただ守りたいとだけ思った。母というものに感じる感情と、それは多分よく似ていただろうな。守りたいと思いながら、俺は彼女に守られていたんだ」


「それでいいではないか。それがアラダの望みだったのだからな」


 愛するもののために、猫は嘘を吐き通す。
 母性などではない、彼女が求めたのは狂おしい執着だった。


「ずっと危険な存在だと監視していた」


「だれのことを……」


「坊やさ」


 瀬戸口の紫の瞳が赤く変化しているのが見えた。


「キッド!」


 それは、あしきゆめの瞳。幻獣の、鬼の目。


「壬生屋にも、あの子にも、おだやかな気持ちしか抱けない。今ならあの特攻女を愛しくさえ思ってる。そう、どこまでも守りたいと……そう思うだけだ」


 穏やかな口調とは裏腹に、赤い瞳には欲望の色が浮かんでいる。
 ブータはその意味するところをよく知っていた。
 それは憎悪だ。
 運命など信じない。神は世界を救ったりしない。
 それでも、罪が裁かれねばならないのなら、全ての罰を自分に与えて欲しい。
 世界が全て滅びても、速水が欲しいと哀れな鬼は存在しないだろう何かに願った。


「いつでも始末できるように側にいた。甘やかして油断させるつもりだったのに、いつのまにか惹かれていた。それも、あいつの仮面の下に隠された素顔の方に!」


「キッド、あの少年を憎んでいるのか?」


 新たに自分を縛り付ける鎖を。


「……憎んでいるさ。逃れられない鎖で俺を繋ぎながら、心の欠片さえ渡してはくれない、あの残酷な魔性をな。あいつには嘘しかない。なのに俺はその嘘にだまされたがっている。あいつが新たなアラダだなんてお笑いだが、俺にとってはいい口実だ」


「キッドおぬし……まさか」


「そう、これであいつの側にいる正当な理由ができたんだからな。わかるか、ヌマ? 俺は今嬉しくて気が狂いそうなんだ。俺には利用価値がある。あの性悪な魔王陛下は、もっと強い鎖をつけてくれる。俺の願った通りにな」


 こんな狂人を愛しい存在の側になんかおけないだろうと、瀬戸口は笑いながら呟いた。


「愛するものを食い殺すのが鬼の愛か……それもまた世界の選択かもしれん」


「愛じゃないさ。ただの狂人の妄想だ。俺はあいつのすべてが欲しい。そのためなら、世界を焼き尽くしても後悔しないだろうな」


(アラダよ。稀代の詐欺師よ。あなたの嘘は完璧すぎたようだ)


 嘘を覆すことに、もはや意味はない。
 ならば、猫の誇りに掛けて、美しい嘘を守り続けよう。


「シオネ・アラダは、おぬしの幸せを願っていたよ」


「そうかもな。でもな、ヌマ。幸せなんて、俺にはもうどうでもいいんだ。たとえ辿りつく先が芝村の地獄でも、あいつの視線を俺に向けることができるなら他には何もいらないんだよ」


 それは確かに愛ではないが、愛よりも絶望的なまでに凶悪な狂恋というなの執着であることを、瀬戸口は知っていただろうか。
 アラダの願いは叶わなかった。
 あまりにも鮮やかな嘘ゆえに。
 鬼が選んだのは、優しく完璧な女神よりも、決して切れることのない鎖で己を縛り上げる魔王だった。
 自由など鬼は望んでいなかった。
 縛られることこそが鬼の願い。
 視線の先で、ダークブルーの髪の少年が屋上を振り返った。
 その大きな瞳は、いつもの穏やかなものではなく、どこか挑発するような危険な光を宿している。
 猫は知っている。
 あれは獲物を狙う獣の瞳。


「今生のアラダは、凶悪だな」


 それでも、彼はおそらく神々の愛をすべて手に入れるだろう。
 美しいものに、力あるものに神は惹かれる。
 深淵にも見える闇を打ち消す青き光が、少年の中に眠っているのが見える。
 今はまだ微かなものだが、いずれ雛は孵るだろう。


「近いうちに挨拶せねばな」


「ヌマもだまされないよう気をつけるんだな。あいつは稀代の詐欺師だから」


 ブータは首の鈴をならして飛び降りた。
『稀代の詐欺師』という名を、彼女のためだけにとっておきたいと思った。
 少年は何もかも彼女から奪っていく。
 長い年月を経てはじめて、猫はかつての女神を哀れんだ。




 死んだ女は哀れだが、もっと哀れなのは忘れられた女。
 だから猫は忘れない。
 誰が忘れてしまっても、あの稀代の詐欺師のことを、永遠に語り続ける。

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ブータの話ですかい。
ブータから見た瀬戸口×速水のつもりなんですが、ブータ主役だこれ。
瀬戸口は今でもシオネアラダが好きですが、美化されまくった過去の思い出なんですね。
だからののみと壬生屋にも魅かれているけど、かなり夢見てます。
愛することどころか、好意をもたれることさえ罪だと感じているので、その罪悪感から余計に厚志に傾倒してるようです。
うちの瀬戸口は精神的マゾですので、厚志に傷つけられる自分にウットリしてる変態ですよ奥さん(誰)!
そのうち壬生屋との泥沼書いてみたいなぁ。
もちろん厚志と前世がらみで。

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