タイタニア五家族の公爵のひとりジュスラン・タイタニアが甘いものを好んでいることを知る者は少ない。
彼の侍女であるフランシアでさえ、その事実に気づいていないのだから、皆無といってもいい。
だが、ジュスランが甘味を好むことを最近知ったものがいる。
同じ公爵であり、従兄弟であるアリアバート・タイタニアだ。
アリアバートもはじめは気のせいかと思っていたのだが、お茶菓子のケーキを口に含むとき、ほんのわずかだけジュスランが幸せそうに見えるのだ。
それは最近気がついたことで、それまではそんな表情を見たことなど一度もなかった。
長い付き合いで、ふたりでお茶を飲んだことも数え切れない。
だが、薄っすらとだが幸せそうなジュスランなどという貴重な表情は今まであり得ないことだった。
「ジュスランは甘いものが好みなのか?」
うかっり卿がとれてしまったが、それを咎めるようなことはジュスランはしなかった。
ただ、これも見たことのない、きょとんとした顔を一瞬だけ見せて、ごまかすように薄く笑った。
「好きと言うほどのことではない。嫌いではないというだけだ」
つまり好きだということだ。
相変わらず難解だなとアリアバートは思ったが、従兄弟の些細な好みを知ることができたことは嬉しかった。
最近ジュスランの雰囲気が、自分に対して優しいと思うのは自惚れではないだろう。
何度も体を重ねた仲だったが、普段は完璧に隠しているジュスラン自身を、ふとした拍子に見ることができるようになったのは本当に最近のことだった。
それまでは、どんなに手を伸ばしても、曇りガラスの先にいるようで、ジュスランの内心を窺うことすらできなかった。
それが今では薄絹のように、触れれば伝わってくるものがある。
あいかわらずジュスランの真意はわからなかったが、少なからず心を許されている気配があった。
ジュスランが変わった時期は特定できる。
シラクサ星域での会戦が勝利に終わってからだ。
別に劇的に何かが変わったわけではない。
ただ今まで固く閉ざされていた扉が、ゆっくりと開いていくように、ジュスランはアリアバートを精神的に受け入れた。
それだけでも報われた気がするアリアバートだった。
ジュスランへの想いは恋と言っていいものかどうかアリアバートにもわからない。
だが、肉体的な結びつきがありながら、それはずっと片恋だった。
ジュスランは、今までアリアバートに、従兄弟であり兄弟である情人という以上の関心を持っていないように見えた。
それが今では、きっと隠していたのだろう表情を見せてくれるようになったのだ。
これを喜ばずして、何を喜べというのだ。
「今度から、最高のケーキを用意させることにする」
「アリアバート卿、俺は別に……」
「わかっている。秘密にしておく」
甘いものが苦手なアリアバートだったが、こんなときはお茶菓子は必需品だなと思うのだった。
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