ジュスランの誕生日はアリアバートの誕生日の一週間あとだ。
それが意味するところをアリアバートはもう知っている。
知らなければよかったとは思わないが、ただ純粋な好意を従弟に向けていた頃に戻れないのは寂しいことだった。
16歳のアリアバートとジュスランは、互いの距離を掴めないでいた。
少なくともアリアバートにとっては、ずっと好きだった従弟が弟でもあるという事実を正直掴み損ねている。
では、これは家族愛かと言われると、そんなはずはないだろうと自分のうちから声がする。
血のつながりなどなくたって、あの難しい少年には惹かれずにはいられない。
ただ、ジュスランがジュスランだから、アリアバートは彼が好きなのだ。
どこが好きだと言われれば、すべてと答えるぐらいアリアバートはジュスランに魅了されている。
なかでも、複雑な意味を内包する、奥深い褐色の瞳が好きだった。
面白みの無い自分と違って、ジュスランは話術も巧みだし、政治にも経済にも優れている。
すでに軍人として初陣を果たした自分は軍人としての道を行くのだろうが、ジュスランは既に時期藩王候補のアジュマーンに声をかけられるほど、政治家としての頭角を現していた。
ジュスランの父公爵は、息子を自慢に思っているらしい。
振り返って自分を見れば、父に省みられることの無い子供時代だった。
幼い頃は、自分が悪いのだと思って、少しでも父に認めてもらうよう努力したが、真実を知ってみればそれも無理は無いことだったと父に同情すらしてしまう。
ジュスランの父は、そんな葛藤とは無縁に見えた。
だが息子のほうはそうではないだろう。
アリアバートもジュスランも、互いが真実を知っていることを理解している。
ジュスランの内心は理解できなくても、そんなことは自然とわかってしまうものだった。
そのぐらいには、近い仲だと思うが、ジュスランがどう感じているのかは、アリアバートにはまったくわからない。
ただジュスランの中から、自分の占める割合が減ったような気がするのだ。
アリアバートは、彼なりに焦っていた。
「何故俺を避けるのだ、ジュスラン」
ついに、アリアバートはジュスランを捕まえて、問い詰めてしまった。
それが何を引き起こすのか、明確な意思があってのことではない。
ジュスランにとって意味の無い存在であることが我慢ならなかったからだ。
「避けているように見えたか?」
逆に問われて、アリアバートは沈黙した。
確かに無視されたことはない、だが説明のできないどこかで、この従弟は自分の存在を締め出していると感じていた。
「お前は俺に何を求めているのだ、アリアバート」
「すべてだ。お前のすべてが俺は欲しい」
それが性的なものを含んでいることを、多分お互いにわかっていた。
声に出してしまったが、ジュスランがそれに応えるとは思っていなった。
それでも、16歳のアリアバートには、他に言える言葉がなかった。
すると、ジュスランが近寄って、アリアバートに軽くキスをした。
驚愕するアリアバートを見て薄く笑うと、ジュスランはアリアバートの手を引いた。
「お前が誘ったんだろう。リードぐらいしてくれ」
断る理由は考え付かなかった。
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