この瞼の下の瞳の色は何色だろうか。
名前も知らない、己と同じガンダムパイロットの傷ついた体を清めながら、トロワ・バートンは何度も考えた。
連れてきたとき、瀕死の重傷だったとは思えない回復振りを見せている少年だったが、意識が戻る様子はまだない。
本当に意識が戻るのだろうか。
時折不安になる。少年の怪我はそれほどひどかった。
コロニーを盾に取られたとき、この少年はほんの一瞬の迷いも見せず自爆したのだ。
これ以上ない、意思の力だった。
自分に同じことができるのかと考え、トロワの冷静な思考は、無理だと答えを出した。
生きることに執着がある方ではないと思うが、少年が見せたような、信念ともいえる強い意志を持って自決を選ぶことはトロワにはできない。
ここまできたのも流された部分が大きい。
コロニーを守りたいという意思はあるし、任務失敗のときは死を選ぶことも承知の上だったが、少年と自分とでは覚悟がまったく違うように思えた。
コロニーのために死を選び、即死しても可笑しくない爆風の中で生き延びた少年の強さはどこからくるのか。
それが知りたくて、このサーカス団まで連れてきてしまった。
団長もキャサリンも何も言わないが、こんな不審な行動はないだろう。
いきなり瀕死の重傷者を連れ込み、医師にも見せずにトロワひとりで治療をしているのだ。
ガンダムパイロットとしては、危険すぎる行為だ。
そもそも自分はまだガンダムパイロットなのだろうか。
コロニーを盾に取られた今、戦闘行為は行えない。
次の指令はこなかった。
任意で行動しろということか。
ならば自分はどう動くべきなのか。
少年が目を覚ましたら、それもわかるような気がした。
かつて、同じガンダムパイロットだったカトルと会ったときは、こんな強い気持ちは抱かなかった。
同じ目的を持ったものがいると認識した程度だ。
だがこの少年はまったく違う。
ある意味では、トロワにとって希望のような存在だった。
彼の瞳の色が見たい。
それより何より……。
「名を教えてくれ」
そう呟いて、トロワは少年の瞼に口付けした。
[5回]
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