ランサー×アーチャー的マスターたちの事情などをちょっと。
士郎と凛とセイバーの三人は、珍しく衛宮家ではなく遠坂家の居間に集まっていた。
事情がいまいちわかっていないセイバーはともかく、士郎と凛は深刻な表情で沈黙を保っている。
痺れを切らしたのは凛の方だった。
「問題は、これがわざとかどうかということだと思うのよ」
「その前に突っ込むべきことがあると思うんだけど、遠坂はそこはスルーなんだ」
「アーチャーを呼ぶはずだったのに、ランサーが出た時点でランサーの事情はわかったも同然でしょ。あんなにあからさまなんだし」
「アーチャーは認めてないみたいだけど」
「抵抗してないんだから同罪よ」
「ふたりともなんのお話ですか?」
「アーチャーとランサーの夜の事情についてよ」
「嫌な台詞だなぁ」
「事実よ、認めなさい士郎」
マスターとサーヴァントはパスで繋がっている。
別に見たい訳でもないのに、夢という形で互いの過去が見えてしまうこともあるが、意図的に見せることもできる。
最近士郎と凛を悩ませているのは、できるなら見たくない夢を連続して見てしまう現状をなんとかしたいということだった。
つまりアーチャーとランサーの情事を無修正で見せつけられているのだ。
「あのー、つまりふたりは恋人同士ということですか」
セイバーが首を傾げると、マスター二人は同時に眉間に皺を寄せた。
「できてるのは確かだけど、あれって恋人なのかしら」
「アーチャーが流されてるだけのような気もするけど」
「士郎はいいわよ。見せられてるっていっても、時々偶然繋がっちゃうだけなんだから。私なんて毎回よ。絶対わざとだわ。どういうつもりなのかしら」
三人があまり議論したくない話題に熱中している頃、問題の二人は衛宮家の台所にいた。
ランサーが釣って来た魚をアーチャーが捌いている。
新鮮な魚を調理できて、アーチャーもご満悦だ。
機嫌がいいアーチャーの尻をうっかり撫でて、強化した包丁で膾にされそうになったランサーが土下座をしていたりする。
マスターの苦悩も知らず呑気なものである。
「いいなぁ。ふたりのエッチなら私も見た~い」
「イリヤスフィール!」
「なんでイリヤがここに」
「見て気分のいいものじゃないわよ」
「遠坂、だから突っ込むところはそこじゃない」
突然のイリヤの出現に、士郎は狼狽した。
実年齢は士郎達より上とはいえ、イリヤの外見は子供のものだ。
視覚的効果から、どうしても子ども扱いしてしまう士郎は、イリヤにはこの話題には混じってもらいたくなった。
だが、イリヤのほうは好奇心いっぱいで、凛に事情を聞いて喜んでいる。
穴があったら入りたい気分の士郎だった。
なにしろ話題の二人の片方は未来の自分なのだ。
時系列上別人となったとはいえ、アーチャーの根源たる自分としては、あまり他人にアーチャーとランサーの二人の関係を知られたくないとも思っている。
イリヤには最初からばれているのだから今更なのだが。
イリヤは士郎のことはおにいちゃんと呼ぶが、アーチャーには姉さんと呼ばせている。
イリヤなりのこだわりがあるらしい。
「それって、牽制なんじゃない」
「誰に対する牽制よ」
「もちろん、凛に対するものでしょ」
「マスターを牽制してどうする気なのでしょうか」
「俺はとばっちりくってるだけなのか」
「凛はもうアーチャーのマスターじゃないけど、凛はアーチャーの特別でしょ」
「ああ、もうわかったわ。あの狗の考えてることって私に対する焼き餅ね」
士郎のサーヴァントになったとはいえ、凛にとってもアーチャーは特別な存在だ。
マスターが士郎だから許せるけど、他の人間をマスターにしたら許せないと思う。
だからって既成事実を見せつけることはないと凛は腹が立った。
「娘に害虫が寄ってきたときの父親の気持ちって、こんな感じなのかしら」
「あんなでかくて強い娘がいたら嫌だよ」
「アーチャーは可憐ですよ」
「せ、セイバー?」
「そうよね。元はシロウなんだもの。可愛くって綺麗で当然ってかんじ。セイバーわかってる」
「なんでさ!」
エミヤシロウは母のように厳しく、優しい。
そして、花のように可愛らしい。
共通見解である。
「アーチャーの場合、士郎より、より色気があって儚げなのよね」
「どこがさ!」
「なんとなくわかります」
「ランサーが惚れるはずよね」
「私は認めたわけじゃないわよ」
「でもできてるんでしょ?」
四人は夕食の時間だと、アーチャーが呼びに来るまで、不毛な会話を繰り広げていた。
「だからあいつは俺のものなんだって」
衛宮家の台所で呟かれたランサーの台詞を聞いたものはいなかった。
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凛に対抗するランサーを書きたくて玉砕。
[1回]
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