凛のサーヴァントであった頃には考えられなかったことだが、不本意でも衛宮士郎のサーヴァントになってしまったアーチャーは、頻繁に休養を必要とするようになった。
ようするに魔力不足を睡眠や食事で補っているわけだが、それで満足できるほど士郎から供給される魔力の量は多くない。
はっきり言えば、アーチャーは飢えていた。
「言えよ」
共に現世に呼び出されてから、毎晩のように青い槍兵は赤い弓兵の元を訪れ囁いた。
それは座に戻ったときの記憶を思い出させて、アーチャーは目眩がするような心持で、その声を聞き流している。
他者の座に、英霊が訪れることなどあり得ないはずだった。
だが、アーチャーが座に戻ったら、何故かランサーが中央の聖剣の前で待っていた。
その剣は約束された勝利の剣。
彼が失った彼女の剣だ。
エミヤシロウの過去で、セイバーは消えていった。
だから凛のサーヴァントとなったセイバーは、彼が失った彼女ではない。
あれほど焦がれていたのに、今でも自分の中心には彼女の剣が刺さっているのに、衛宮士郎に対するほど、セイバーに対する執着はなかった。
過去においての彼女との決別が、自分の中で消化されていたからだろう。
ランサーは彼女の剣の前で笑っていた。
真っ赤な荒地で、ランサーの青はひどく異質だった。
ランサーを相手にするとき、いつもどこかに戸惑いがあった。
これは自分を最初に殺した男だと。
エミヤシロウはランサーを最後まで忘れなかった。
磨耗した記憶の中で、サーヴァントとして相対した聖杯戦争での戦いで、正しく英霊として存在するランサーに憧れ、嫉妬した。
世界の掃除屋となった己の浅ましい思いを、アーチャーは苦く自覚している。
だから、そんな反英霊である自分に手を伸ばす価値があるとはアーチャーは信じられなかった。
「戯言は慎むべきだな。ランサーよ」
だから、座で何度も繰り返した言葉を重ねるしか、アーチャーには逃げ場がなかった。
何から逃げようとしているのかも定かではないのに、捕まってはお終いだという確信だけがある。
「おまえが素直じゃないのはわかってんだよ。皮肉しか言わないところも、いつも逃げてばかりなのもな。でももうそろそろ限界なんじゃねーの?」
「なんの話だかわからんね」
「俺が欲しいって言えよ」
アーチャーは舌打ちした。
言われるまでもなく、目の前にあるのは極上の魔力だ。
自分が今一番欲しいものがそこにある。
それは食欲によく似ていた。
そんな自分をアーチャーは自覚したくなかった。
誰でもかまわない。それが魔力を与えてくれるなら。
そんな風にできている身体を嫌悪するが、サーヴァントである以上それはしかたのないことなのだ。
それでもアーチャーはランサーの言葉が理解できなかった。
「それで、貴様になんのメリットがあるというのだ」
「おっ、今日は脈ありじゃん。でもよ、前から言ってるのになんで通じねーかな。おれはただ単に、お前に興味があるんだよ」
ランサーは人差し指を切り裂くと、その指でアーチャーの唇をなぞった。
背筋にぞくぞくと震えが走る。
ランサーの言葉の裏の意味を察せないほど、アーチャーは初心ではない。
それどころか、その手の経験は豊富といってもいい。
今更捨てる誇りなどないのだから、ランサーの申し出をそのまま受け入れればいいのだと思う自分がいる。
だが、ランサーだからこそ、その手は取れないと思う自分がいることも確かだった。
そんな思いとは裏腹に、アーチャの唇はランサーの指を咥えて、そこから流れる血を啜っていた。
僅かな血にさえ含まれる芳醇な魔力に、アーチャーは自我を失って陶然とした。
「まるで子猫だなアーチャー」
ランサーが獣の瞳で舌なめずりするのを、目の端が捕らえたが、アーチャーは捕まったなとぼんやりと考えた。
「俺をやるから、お前をもらうぜ、アーチャー」
アーチャーが舐めていた指を引き抜くと、ランサーはアーチャーに深く口付けした。
角度を変えて、何度も舌を絡めると、ふたりは布団に倒れこんだ。
衝撃を受け流して、アーチャーはただ純粋にランサーの魔力を貪った。
口付けたまま、ランサーがパジャマの裾から手を入れて、胸の飾りを押しつぶすのにも、アーチャーは抵抗しなかった。
「あ……っ、、ん……くっ!」
思わず漏れた喘ぎに、ランサーは複雑な顔で呟いた。
「慣れてんじゃねーか。胸触られただけでこれかよ」
そう、自分はこの行為に慣れている。
アーチャーは魔力を吸収するためだと割り切って、ランサーに身を任せることにした。
「貴様の好きなようにするといい。貴様がいうとおり、私は慣れているからな」
「自虐もいいかげんにしとけよ」
「本当のことだ」
「はっ、じゃあ遠慮なく好きにさせてもらうぜ」
それから先は、ただ貪りあうだけだった。
アーチャーはランサーの魔力を。
ランサーはアーチャー自身を。
それはセックスというより食事のようで、より浅ましいとアーチャーは思った。
ランサーの手で吐き出された白い液体が、後孔へと塗り込められ、そっと指が差し込まれて、アーチャーは息を呑んだ。
慣らされる行為は好きになれない。
好きになれないというより、たぶん本当は慣れていないだけだろう。
自分の快感よりも相手の快感を優先する行為ばかりだったので、ランサーのように大切に扱われるといたたまれなかった。
「は……んっっ……あっ!」
「いい声だな」
指が3本に増やされ、中でばらばらに動かされると、無意識のうちにランサーの肩にしがみ付いてしまう。
ランサーが自分を抱いているのだと考えるだけで、おかしくなりそうだった。
「あっ…ら……ランサー! もっ…いいから!!」
「ああ、俺も限界だ!」
片足を肩に抱えられて、ゆっくりと熱塊が体の中に押し入ってくる。
慣れた苦痛だった。
憶えている行為は、もっと激しくぞんざいだった気がする。
こんな風に気遣われたことなど一度もなかった。
息を吐いて、ランサーの全てをおさめると、もう一度二人は舌を絡めた。
はじめはゆっくりと、徐々に激しく揺すられると、なんとも言えず気持ちがよかった。
肉の快楽もそうだったが、内側から滲み出る魔力が、アーチャーの全身を潤した。
痛みも、困惑も、遠い彼方にあった。
深い部分を穿たれる快感だけが全てだった。
激しく揺すり上げられて、快感にランサー自身を強く締め付けた途端、熱い飛沫が体の奥で弾けた。
「もう……はなせ」
「いやだね」
「なっ……!」
身体を裏返されると、繋がったまま獣の体勢をとられ、そのまま深く出し入れされて、アーチャーは掠れた声で喘いだ。
魔力はもう満ちている。
これ以上は苦痛だった。
そのくせ、身体はランサーを離すまいと絡み付いている。
「さい……あ…く」
「俺は最高だぜ、アーチャー」
男に慣れた身体が厭わしかったが、それも相手がこの男だったからこそだとアーチャーにもわかっていた。
わかっていたから、今まで避けていたというのに、魔力を欲しがる身体はどこまでも業が深い。
四つん這いの身体を抱き上げられて、アーチャーはランサーの身体の上に座らされた。
「あぁぁぁぁっっ……あ……んっ!!」
自分の重みで、より深くランサーを呑み込んでしまい、アーチャーは背中を弓なりに反らせて嬌声を上げた。
背中から肩に噛み付かれて、アーチャーにとってそれすらも快感としか感じられずに涙が溢れた。
体内でランサーが放った液体が音を立てているのが聞こえてきて、なんだかたまらなかった。
「アーチャー……好きだ」
意識を失う最後の瞬間、ランサーの声が聞こえてきたが、そんな戯言を信じるつもりはなかった。
アーチャーが目を覚ましたとき、夜はまだ明けていなかった。
ランサーが放った精液は、すでに魔力として消化されていた。
過剰な魔力が熱を持ったように感じられる。
隣に眠る男の顔を見て、アーチャーはため息をついた。
結果的に言えば同意の上での行為なのだが、やはり強姦されたような気がする。
だが極上の魔力を自ら貪ってしまった以上文句も言えない。
それより凛を誤魔化すにはどうしたらいいのか、アーチャーは頭を悩ませた。
とりあえず、夜が明ける前にランサーは起こそうと決めて、青い槍兵の眠っているときは秀麗な顔を眺め、もう一度深いため息をついた。
今後どうなるのか、アーチャーにはまったく予想がつかなかった。
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エロが書きたかっただけなんです。
すいません。エロさが足りません。
それよりふたりに愛がないよ。
いやあるんだけど、双方向片思い?
ひどいのはアーチャーだと思います。
[1回]
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