「あっ!」
考え事をしていたわけではないのだが、ちょっと気がそれた瞬間、士郎は手にしていた蜂蜜の瓶を、紅茶を入れていたアーチャーの手の上に零してしまった。
ロシアンティーにしようと思っていたのだが、うっかりしていた。
「貴様は何をしているんだ。まったく、手がべとべとではないか。紅茶は入れなおさないとならんな」
手についた蜂蜜を舌で辿る様子を見て、士郎は赤くなった。
蜂蜜を舐めるアーチャーの姿が、無性にエロい。
もぞもぞしだした士郎を、アーチャーは胡乱な目で見ていたが、指を一本一本舐めると、士郎がわーっと叫びだしたので、何を考えたのか理解したらしい。
アーチャーは半眼で士郎を睨みつけると、一言で切って捨てた。
「変態だな」
「言うなぁぁぁぁぁ! 自覚してるんだから!! どうせ俺は青い上にマニアックだよ!! でも、あんただって悪いんだからな。なんだよそのエロさ! 今はまだ昼だぞ! 俺にどうしろって言うんだ!!」
「錯乱するな。うっとうしい。発情するのは勝手だが、それを私のせいにされるのは心外だな。だが……」
少し考え込んでから、アーチャーは艶やかに笑った。
「蜂蜜プレイというのも、たまには面白いかもしれんな。私は凛と桜の紅茶を入れなおすから、貴様はクッキーを持って行け。夜を楽しみにするんだな。貴様の妄想を現実にしてやる」
「えっと、本気?」
「何故私が貴様に冗談を言わねばならんのだ。やりたいのか、やりたくないのかどっちだ衛宮士郎」
脅されている気がするのは気のせいだろうか。
士郎は、青くなったり赤くなったり忙しく顔色を変えながら小声で言った。
「や……やりたいです」
「はじめからそう言えばいいのだ。ふたりが帰るまでは待て。ばれると面倒だからな」
「俺もそこまで恥知らずじゃないんだけど」
どちらかというと、恥を知らないのはアーチャーのほうではないかと思うのだが、何を言われるかわからないので黙っていた。
逃げるように茶の間にクッキーを持っていったら、凛と桜のふたりがかりで質問攻めにあった。
「熱でもあるの? 顔が赤いわよ士郎」
「大丈夫ですか、先輩? 横になったほうがいいんじゃあ……」
後ろめたいことが大いにある士郎は、慌てて弁解した。
「な、なんでもないから。ふたりとも心配してくれて、ありがとうな。でも本当に具合は悪くないんだ」
「そお? それならいいけど、あんたって無茶ばっかするから、いまいち信用ならないのよね」
「姉さんの言うとおりです。先輩は少し無理しすぎですよ」
ふたりの心配が胸に痛い。今俺の頭はアーチャーのHな姿でいっぱいです。生まれてごめんなさい。
士郎は心の中でふたりに懺悔した。
こんなにレベルの高い女の子たちに囲まれて、何故に自分はアーチャーに欲情しているのだろうか。
不思議でしょうがないが、現実は認めるしかないので仕方がない。
「遅くなって申し訳ない。この小僧がはちみつを零してな。紅茶を入れなおしていたら遅くなってしまった」
少し笑いながら弁解するアーチャーの姿には、さっきの淫靡さの欠片も感じられなかった。
この使い分けってすごいなと思いながら、士郎はおぼんの上から凛と桜の前に紅茶を置くと、自分の分を目の前に置いた。
アーチャーも自分のお茶を手にとって口に含むと、今気がついたように凛に訊ねた。
「ところで、セイバーとイリヤスフィールはどうしたのかね。来る予定だと聞いていたのだが」
「ああ、あのふたりなら新都よ。さっきちらしが入ってきたの。ケーキバイキングのお店ができたんですって。今日だけ1000円で食べ放題なのよ。セイバーが行きたそうにしていたのを、護衛についてきてってイリヤがつれてったわ」
「ふむ。イリヤスフィールも気を使うようになったのだな。全員と仲良くなったようだし」
確かに聖杯戦争中には考えられなかったことだ。
「まあね。とてつもない我侭も言わなくなったし、可愛いわよねイリヤって。士郎がメロメロになるのもわかるわ」
「俺をロリコンのように言うな! 誰が誰にメロメロなんだよ」
「あら、イリヤって士郎のお姉ちゃんなんでしょ? それで、見た目は幼女。実際士郎ってイリヤにベタ甘よね。これでメロメロじゃないっていうの?」
「大丈夫です先輩! 私だけは先輩を信じてますから!」
自分はロリコンではないはずというか、現在自分より体格のいい男にふらついている上に、相手は未来の自分というのは、ロリコンより始末が悪いのではと考えながら士郎はこてんと横になった。
「先輩! 大丈夫ですか、先輩!」
「放っておきなさいよ、桜。どうせ考えすぎてオーバーヒートしたのよ」
「この方面に関しては打たれ弱いようだな。部屋に放っておくから、君たちはお茶を続けたまえ」
自失状態の士郎を引きずると、アーチャーは部屋を去っていった。
残されたふたりは、顔を見合わせて微妙な表情をしていた。
「アーチャーさん、なんだか先輩に優しくありませんか?」
「なんだか最近距離感が妙なのよね。マスターとサーヴァントになったからって、変な感じよね。ランサーと違って、アーチャーって取り扱い要注意の皮肉屋で自虐的だから、急に士郎と仲がよく見えると視界の暴力だわ。ま、悪くはないけどね」
凛は不機嫌そうに言ったが、ふたりの仲がよくなることについては、異論はないらしい。
納得がいっていないのは、どちらかというと桜のほうだろう。
士郎がアーチャーに取られたような気がするのかもしれない。
もちろん、それがある意味事実であることを桜は知らないが。
「そういえば、ランサーさん最近見ませんけど、どうかしたんですか?」
「ああ、あいつは、バイトよ。生活費は自分で稼ぐって言ってるけど、あれは単に楽しんでるだけね」
「ライダーがいたら、彼女もバイトとかしてたんでしょうか」
「さあ、どうかしらね。最後まであんたのことしか考えてなかったから、あんたのためだと思ったらなんでもするんじゃない」
ライダーは聖杯戦争中に桜のために失われた。
アーチャーとランサーを見ていると、ライダーも取り戻せるのではないかと思ってしまう桜だったが、多分それはしてはいけないことなのだろうとも思った。
結局ふたりが帰るまで、士郎は戻ってこなかった。
士郎が目を覚ますと、もう部屋は暗くなっていた。
体をおこすと、アーチャーが部屋に入ってきた。
手に持った蜂蜜の瓶を見ると、本気でやる気かと気が遠くなったが、もちろん興味はありまくりだ。
「起きたようだな。楽しませてやるから感謝しろ」
すでにやる気でいっぱいのアーチャーは、何様な台詞を吐いて服を脱ぎだした。
いつものことながら潔い。
自分も脱がないと、アーチャーに脱がされるので、士郎は急いで服を脱いだ。
全裸になると、アーチャーの鍛えられた肉体が羨望と肉欲を刺激する。
何度見てもアーチャーの体は綺麗だと士郎は思った。
「これで好きなようにするんだな」
士郎に蜂蜜の瓶を渡すと、アーチャーは畳の上に寝転がった。
士郎はそろそろと、アーチャーの胸に手を置くと、両方の乳首に蜂蜜を垂らした。
触れるまでもなく期待に立ち上がった乳首を、士郎は丹念に舌で舐った。
蜂蜜の甘さが舌を刺すが、それも刺激となって士郎は興奮した。
小さな果実を舌で転がすたびに、押し殺した喘ぎが漏れている。
アーチャーの体は鍛えられた外見に反して柔らかく感度がいい。
柔軟な筋肉は、どこに触れても、思った以上の反応を返してくる。
何度抱いてものめり込んでしまう。
蜂蜜を、アーチャーの亀頭の小さな穴に垂らすと、零れた蜜が茎を伝って流れ落ちる。
それを舌で舐め取ると、溜息のような吐息をアーチャーは漏らした。
士郎は調子に乗って、雁首を嘗め回し、蜜と先走りの液が交じり合う穴を舌で突付く。
「は……ああんっくっ!」
一際大きな声が上がって、アーチャーが腰を捩った。
仰け反った喉に口付けを落とすと、アーチャーが声を震わせて笑う。
べとつく男根を片手で扱きながら、士郎はアーチャーの唇を舐めて、そのまま深く舌を絡めた。
「ん……」
「ふ…………んっ」
吐息が甘く零れる中、漸く口付けを離せば銀の糸が互いの間に伝った。
それさえアーチャーが舐め取ると、妖艶な笑みを浮かべて、立ち上がった士郎自身を何度か擦った。
「甘いな……」
蜂蜜だしなと考えた士郎の思考が聞こえたのか、アーチャーは笑いながら否定した。
「それだけではないがな。私にもさせろ」
士郎から蜂蜜の瓶を奪うと、体制を逆にして、アーチャーが上になる。
奪った蜂蜜を士郎の幹に流すと、下から上に丹念に舌を這わせてアーチャーは蜂蜜を舐め取った。
そのまま喉の奥まで士郎の茎を飲み込むと、雁首から亀頭の穴まで舌を使い、喉を使って締め付ける。
士郎は熱い吐息を漏らしながら、アーチャーの男根を両手で愛撫した。
「飲んでやるから、一度達け」
「ちょっ! アーチャー!」
いきなりの発言に、士郎は制止するが、アーチャーは激しくディープスロートを繰り返し、我慢できずに口内で達した士郎の精液を搾り取るように飲み下した。
全部飲み込むと、何度も舌を絡めて、もう一度口の中で士郎自身を育てる。
荒く息を吐く士郎を見下ろしながら、指に蜂蜜を絡めて、その指を秘所に差し入れた。
「あ、……っあ……んっ!」
自分の指で内部を掻き回すと、二本、三本と指を増やしていく。
内側を蹂躙した指を引き抜くと、指は腸液と蜜で濡れていた。
ぽたぽたとアーチャーの秘所から雫が零れ落ちる。
濡れた指で士郎の幹を掴むと、アーチャーはそのまま腰を落とした。
「……くっ!」
抱かれることに慣れたアーチャーの体でも、挿入の瞬間はきついのか、息を詰めた悲鳴のような声が漏れる。
根元まで飲み込むと、アーチャーは深く息を吐いた。
舌で唇を舐めて、士郎の上で身悶えするアーチャーは、昼間からは考えられないほど淫靡だった。
アーチャーの裡は熱くてきつくてぬめっている。
きつく締め付けられて、上下に動かれると、士郎も我慢できずに、下から強く突き上げた。
「あ……ぁぅ……、いい……っぁ!」
「俺も……すごく……いい……」
汗に濡れる褐色の筋肉が綺麗だと思う。
月光の中で乱れる白い髪がいい。
なにより、熱に浮かされたように潤む鈍い銀色の瞳が綺麗だ。
快楽を貪りながら、立ち上がったアーチャー自身が、蜜を零して震えている。
それを手にとって、士郎は上下に扱いた。
強くアーチャーの裡が士郎を締め付けて、堪らず己の熱を解放した。
きつくて絡む最奥に、熱い飛沫を叩きつけると、白濁した液が逆流した。
恍惚とした表情で、士郎を受け止めたアーチャーは、次の瞬間士郎の腹の上に欲望の証を吐き出した。
「んっ……!」
士郎自身を引き抜いてから、アーチャーはそのまま横になると、魔力を消化するために眠りについた。
士郎も気持ちのいい疲労感から、後を追うように眠りに落ちた。
白い光の中、勢いよく蹴飛ばされて、士郎は目を覚ました。
そこには、もう着替えを済ませたアーチャーが、シーツを持って立っていた。
「おはよう?」
「なぜ疑問系なのかわからんが、さっさと起きてシャワーを浴びろ。私は洗濯して後始末をするから、桜が来るまでに身支度を整えておけ」
まだ頭がはっきりしないが、士郎は一応頷いた。
「朝食は私が作っておくからな」
「えっ? 今日の当番俺じゃあ……」
「魔力を搾り取ったから、その礼だ。おとなしくしていろ」
「そ、そうなんだ」
魔力補給したから、そんなに元気なんだ。
アーチャーとのセックスは、魔力補給の手段でもあるということを忘れていた士郎は、なんだかなーと思った。
風呂場に向かおうとして、すれ違いざまにアーチャーが笑った。
「楽しかったか?」
完全に面白がっている。
士郎は真っ赤になって走った。
「聞くな!」
恥ずかしさで赤くなりながらも、風呂場で昨晩のアーチャーを思い出して、たまにはいいかもと思ってしまった士郎だった。
必要なのは、勇気とほんの少しの好奇心だと誰かが言っていたなと士郎は溜息をついた。
しばらくアーチャーの顔をまともに見れないと思った士郎だった。
[2回]
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