時々姿を消すことがあるエミヤを探して、俺は新都のビルの屋上で、目的の男を発見した。
珍しく聖骸布で身を包み、空を見上げて寝転がっている姿は、どこか茫然としているように見えた。
隙のないこの男には珍しい姿だが、夜のエミヤを知っている身としては、想像がつかないというわけでもない。
セックスの最中、エミヤはよく遠くを見るように俺を見やがる。
その姿が、今の姿に重なった。
俺は無性に腹が立った。
俺が目の前にいるときは、俺を見ろよ。
お前に夢中な俺がかわいそうだろうが。
どんなに本気で睦言を紡いでも、こいつには通じていないような気がする。
何度体を繋げても、応えてくるのは体だけで、心は頑なに俺を拒否する。
好かれている自信ははある。
自惚れではなく、こいつは俺に惚れていると確信できる。
視線が、声が、俺が欲しいと叫んでいるというのに、こいつはそれを認めようとしない。
こいつが思うほど、俺は綺麗に生きてきたわけじゃない。
数え切れないほどの敵兵を殺し、実の叔父と自分のガキにさえ手にかけた。
欲しいと思ったら、女も物も、手段を選ばず手に入れてきた。
俺は俺のやりたいように生きて死んだ。
全部自分のためだ。
後悔がないわけじゃないが、俺は自分の生き方に満足して死んだんだ。
そんな俺からすれば、皮肉屋で自虐的なエミヤの性分は、理解できなさ過ぎて、目障りで、逆に惹かれずにはいられなかったのかもしれない。
最初に惹かれたのは、鋼色の瞳だった。
何もかも冷めたようでいて、複雑な感情を秘めた瞳を追わずにはいられなかった。
俺と互角に戦えるほどの戦士のくせに、慣れた風に男を誘う仕草に、呆れるより感心した。
こんな奴は見たことが無い。
欲しいと思ったのは本心だ。
世界からさえも奪いたいと、真剣に願った。
たとえ、戦いが終われば座に戻らなくてはならない英霊の身だとしても、欲しいものは欲しい。
だから、今が不満なわけじゃない。
この世界では、エミヤは俺のものだ。
その体も心も、俺を欲している。
不満なのは、こいつが俺の気持ちを受け入れようとしないことと、自分の価値を見限っていることだ。
俺が選んだ相手を卑下することは、たとえこいつ自身だとしても許せることじゃない。
考えているうちに、本気で腹が立ってきた俺に、エミヤはようやく視線を向けた。
「なんだね、君は。用があるなら声をかければよかろう。物騒な気配を発して、ただ立ち尽くしているだけというのは変質者のやることだと思うが?」
「誰が変質者が! 誰が! お前がわけわかねーから悪いんだよ。何考えてるんだお前」
「言っている意味がわからん。狗に人間の言葉は通じないらしいが、あいにく私も狗の言葉がわからないので返答はしかねる」
「あーもう、うるせー! お前はおとなしく俺に食われてればいいんだよ!」
俺は乱暴にエミヤの腕を引っ張ると、噛み付くようなキスをして、反論を閉じ込めた。
次第に深くなっていく口付けと共に、エミヤの体も熱を持ってくるのが、衣装ごしでもわかる。
俺は既に限界突破という気分だ。
いっそこいつを食い殺してやりたい欲望をなんとか抑えるので精一杯だった。
唇を離すと、エミヤは歪んだ笑みで、互いの熱をはぐらかした。
「私が君を喰らうのだろう。餌は君のほうだ」
「ああ、欲しいなら好きなだけ喰らえよ。俺はお前をいただくから」
「酔狂なことだ」
「お前、何にもわかってないよな。それとも気づきたくないだけか」
「何を言っているのだね」
視線を逸らしたエミヤに腹を立てた俺は、乱暴な手つきでこいつの衣服を乱した。
インナーとズボンを脱がしてしまえば、こいつの聖骸布というのは、やたらと淫靡だ。
わざとやってるのかと思うぐらい男を誘うのが上手いが、これが無意識だというのだから、こいつの生きてきた過去というやつが気になるところだ。
誰よりも戦いに特化した戦士のくせに、どうしてこんな手管を身に付けなければならなかったのか。
きっと、ろくでもない過去に違いない。
それをこいつが覚えていないようなのは、多分数少ないいいことなのだろう。
自覚せずに淫乱な姿は悪くない。
ただ、自ら望んだことではないのだろうと、少し気に障るだけだ。
俺よりも鍛えられた肉体が、快楽に溶ける瞬間がたまらない。
胸の飾りを舌と指で舐ると、子猫のような喘ぎが漏れる。
「いい声だな」
「はぁ……あ……んっ! そこは……い…やだ……」
「嘘吐き」
男の体というのは正直だ。
どんなに言葉で偽ってみても、快楽を感じれば見ただけでわかる。
エミヤのそれは、胸を弄っただけで勃起して、しとどに濡れていた。
快楽に正直な体をいっそ健気だと思う。
先走りの液を指にとって、俺はこいつの裡に指を深く挿し込んだ。
幾度も出し入れを繰り返し、指を増やすたびに、背筋を痺れさせるような嬌声が漏れるのを聞いて、そのまま片足を肩にかけると、一気に蕾を貫いた。
「くっ……ああぁぁ!」
「欲しいだけやるから、お前を俺によこせよエミヤ」
何度も抽迭を繰り返すうちに、嬌声が甘く艶を増していく。
乱暴なほどに、俺はエミヤの中で激しく動いた。
頑丈な体は多少乱暴に扱っても壊れたりしないだろう。
女じゃない分面倒なこともあるが、女に対するような気遣いも無用だ。
思う存分快楽を貪れる。
「ラ……ンサー! あ……んっくぅぅ……あっ……もっと深……く」
「ああ、ちっと待ってろよ」
ご要望にお応えして、俺はエミヤの体を抱き上げて、そのまま立ち上がった。
不安定な空中で、エミヤが身悶えているのが絶景だ。
俺よりも鍛えられた外見のエミヤだが、筋力なら俺のほうが強い。
繋がった体を腕だけで支えることなど、簡単なことだ。
エミヤはあまりこの体位が好きではないらしいが、俺は楽しい。
嫌がる体を宥めるように抜き差ししてから、俺はその場に座り込んで、エミヤを強く抱きしめた。
ほっと、息をつく音が聞こえた。
正面から抱き合って座るのが、エミヤの好きな態勢だ。
潤んだ鋼色の瞳から、涙が幾筋も流れている。
それに舌を這わせながら、こいつの体をゆっくりと上下した。
しばらく甘い喘ぎを聞いていたら、体をぶるっと震わせて、エミヤが達った。
急速に繋がった場所が締め付けられて、俺もエミヤの最奥に、魔力の奔流を叩き付けた。
「私は……届かなくてもかまわない」
「あん?」
身支度を整えると、その言葉だけを残してエミヤは姿を消した。
坊主のところに戻ったのだろうか。
「届かなくてもかまわない、か……」
何に、誰に、届かないのか。
それは俺か。
「届かないのは俺のほうだろ」
俺はかまわないとは思わないし、お前がそう思うのも許せない。
いつか届かせて見せると決めて、俺はビルの屋上に寝転がった。
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